第十一条 | 共用部分の共有関係 |
第十二条 | |
第十三条 | 共用部分の使用 |
第十四条 | 共用部分の持分の割合 |
第十五条 | 共用部分の持分の処分 |
第十六条 | 一部共用部分の管理 |
第十七条 | 共用部分の変更 |
第十八条 | 共用部分の管理 |
第十九条 | 共用部分の負担及び利益収取 |
第二十条 | 管理所有者の権限 |
第二十一条 | 共用部分に関する規定の準用 |
保険について | |
債権の回収方法、少額訴訟制度(滞納者対応) |
マンション管理士・管理業務主任者を目指す方のために、区分所有法を条文ごとに解説しました。
試験問題は、過去の問題から出されるのではありません。条文から出題されます。
条文を勉強することが、合格への道です。
(共用部分の持分の処分) |
第十五条 |
1項 共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。 |
過去出題 | マンション管理士 | H30年、H28年、H21年、H14年、 |
管理業務主任者 | R03年、H29年、H18年、H17年、H13年 |
*原則:専有部分の処分に従う...処分とは、売却や抵当権の設定をさす。この規定で、建物の共用部分は専有部分に付随して処分されることになる。
参考:民法の共有では、自分の持分の処分はその部分だけ単独でできる。この民法の規定を制限した。
<参照>民法 第256条 (共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
◎ 共用部分の処分は専有部分の処分に従う。これが、区分所有法の特徴。
本第15条も、前の第12条で区分所有者全員の共有部分である建物の「共用部分」については、民法の共有関係と異なった第13条から第19条までの規定を適用することを受けた規定です。
★専有部分と共用部分の不可分性(一体性)の効果 〜分離処分の禁止〜
マンションのように区分所有されている建物では、その構造上、共用部分であるエントランス(出入り口)・廊下・階段室などを利用しなければ、専有部分である自己の室にたどり着くこともできず、それだと専有部分を所有する意味がありません。
このように共用部分がなくては専有部分も使えないという状況は専有部分と共用部分とが、物理的な構造において一体化しているだけでなく、法律上も一体化されていないと利用価値がないことにつながります。
そこで、区分所有法では、法律として明確に、本第15条1項で「共有者の(共用部分の)持分は、その有する専有部分の処分に従う」と規定し、専有部分に対する権利の移動があれば必ず共用部分もそれに伴って移動し、またこの専有部分の権利(区分所有権)の移動で出入り口や廊下など共用部分の持分のない区分所有者が存在しないようにしました。
本第15条1項の規定により、ある区分所有者が自己の専有部分を譲渡したり、専有部分に抵当権の設定をすればその共用部分として持っている部分も当然に(仮に譲渡等の意思がなくても、譲渡・担保目録に記載されず漏れていても)譲渡をしたことになり、共用部分にも抵当権の効力が及びます。
これは、逆の解釈として、共用部分の持分だけを譲渡したり抵当にいれても無効であり、また共用部分の持分はそのままで専有部分だけをを譲渡しても、無効となります。
しかし、区分所有法での別段の定めがあります。(2項)
★建物の区分所有権(専有部分)と廊下・エレベーター室など共用部分の共有持分は一体であり、別々に分離処分はできない。
民法の共有関係では、共有持分の分割請求ができたり、共有持分だけの処分(譲渡、抵当権の設定など)ができるが、区分所有法では、専有部分と共用部分の分離処分を禁じている。
★また、後ででてきますが、「分離処分の禁止」は、建物の共用部分だけでなく、土地(敷地利用権)と建物の権利でも分離して処分できなくしている。(参照 第22条)
<参照>区分所有法 第22条(分離処分の禁止)
第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
★この、第15条とあとででてくる第22条により、区分所有法では、完全に、建物の権利(専有部分と共用部分)と土地の権利(敷地利用権)は専有部分の移動と共に移動することになる。
第十五条 |
2項 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。 |
過去出題 | マンション管理士 | H28年、H22年、H21年、H18年、 |
管理業務主任者 | R03年、H18年、 |
★原則として、建物の専有部分と共用部分は分離処分ができないが、例外がある。なお、専有部分を賃貸に出すのは、分離処分には該当しない。
★専有部分と共用部分の不可分性(一体性)の例外
第15条2項は、1項で定めた専有部分と共用部分の分離処分禁止の例外規定です。
2項で規定する「その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。」ということは1項の「共有者の持分は専有部分の処分に従う。」ことを言い換えたにすぎませんから、2項の代わりに1項に「ただし、この法律に別段の定めがある場合はこの限りでない。」と規定するのと同じです。
*法律上の例外がある
★専有部分と共用部分を分離して処分できる、別段の定めがある場合。 2つある。
それは、@管理所有の場合 と A規約で別段の定めがある場合 です。
@管理所有の場合
第11条2項 --->第27条1項(管理所有)...
管理者は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分を所有することができる。
・管理者(理事長など)が規約により共用部分を所有しているとき。
この場合には、区分所有者の共用部分における共有関係が消滅し、管理者に共用部分が譲渡(所有権が移る)されたとみて、専有部分と共用部分の分離処分がされたとなります。(ただし、共用部分には、所有権の登記はできないという不可思議な法体系があるが。)
また、管理所有は、建物のもともと共用部分だけを所有できるだけで、敷地(土地)の所有はできない。
A規約で別段の定めがある場合
第14条4項(共用部分の持分の割合)...
4項 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
・規約を設定すれば共用部分の持分の割合を変更することもできますから、この場合、共用部分の一部または全部の持分が区分所有権から分離して処分されます。
★管理所有や共用部分を専有部分と分離処分できるのは特異な形態である
しかし、「標準管理規約(単棟型)」は、この分かり難くて、面倒な「管理所有」には触れていません。
そして、規約でも、専有部分と共用部分の持分の分離処分は認めない立場を推薦しています。
<参考>「標準管理規約(単棟型)」11条:(分割請求及び単独処分の禁止)
第11条 区分所有者は、敷地又は共用部分等の分割を請求することはできない。
2. 区分所有者は、専有部分と敷地及び共用部分等の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない。
<参考>「標準管理規約 第11条関係コメント
@ 住戸を他の区分所有者又は第三者に貸与することは本条の禁止に当たらない。
A 倉庫又は車庫も専有部分となっているときは、倉庫(車庫)のみを他の区分所有者に譲渡する場合を除き、住戸と倉庫(車庫)とを分離し、又は専有部分と敷地及び共用部分等の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない旨を規定する。
{設問−1}マンションの共用部分に関する次の記述は、区分所有法の規定によれば、正しいか。
*規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者は、共用部分の変更をすることができる。
答え:正しくない。 出来ない。
規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者(管理所有者)は、その共用部分の管理義務は負う(区分所有法第20条1項)が、同法第20条2項「前項の共用部分の所有者は、第十七条第一項に規定する共用部分の変更をすることができない」の規定により、共用部分の変更はできない。
{設問−2} 平成21年 マンション管理士 試験 問5
共用部分に関する次の記述は、区分所有法の規定によれば、正しいか。
*共用部分の持分と専有部分とを分離して処分することができる旨を、規約で定めることはできない。
答え:誤っている?
ここの設問は曖昧です。共用部分の持分と専有部分の処分については、区分所有法第15条(共用部分の持分の処分)
「第十五条 共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。
2 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。 」とあり、
区分所有法では原則として、専有部分と共用部分の持分は分離処分ができませんが、別段の定めが2つあります。
その1番目は、規約によって他の区分所有者又は管理者を共用部分の所有者とする場合(区分所有法第11条2項、第27条1項参照)で、2番目は、規約の設定・変更によって共有持分の変更をする場合(同法第14条4項参照)です。
1番目の場合には、実質的な処分とみなされないこともありますが、2番目の場合には、共有者の間で共用部分の持分の処分が規約により専有部分と分離してなされたことになります。
(注:マンション管理センターの正解は、ここを、正しいとしていますが、出題としては、不適切です。)
(一部共用部分の管理) |
第十六条 |
一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するもの又は第三十一条第二項の規約に定めがあるものは区分所有者全員で、その他のものはこれを共用すべき区分所有者のみで行う。 |
過去出題 | マンション管理士 | R01年、H30年、H27年、H26年、H23年、 |
管理業務主任者 | R02年、H28年、H26年、H24年、H15年、 |
<参照> 区分所有法 第31条2項:
2項 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
<参照> 前条第2項=第30条2項:
2項 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
本第16条も前の第12条で区分所有者全員の共有部分である建物の「共用部分」については、民法の共有関係と異なった第13条から第19条までの規定を適用することにしたことを受けた規定です。
第16条は、一部共用部分の管理をどうするかを規定しています。
★一部共用部分とは:第3条後段参照:度々例にあげていますように、下駄履きマンションと言われる1棟の建物で下が店舗となっておあり、上が住居の状態の建物において、「明らかに」店舗用と住居用の別々の出入り口や階段などがあり、使用対象が”明らかに”違うときの各々の出入り口や階段です。
この場合、
・店舗部の一部共用部分としての出入り口、階段があり、
・住居部の一部共用部分としての出入り口、階段がある。
★共有(所有)関係と管理は別である
区分所有法の規定として一部共用部分は、それを共用する一部の区分所有者のみの共有に属します(区分所有法第11条1項参照)から、所有(共有)者の責任として、一部共有者だけの責任と負担で管理するのが原則です。
しかし、1棟の建物全体を管理する団体(全体管理組合)と一部共有者だけで組織する団体(一部管理組合、例:「店舗部管理組合」と「住居部管理組合」)が並存して各々の管理対象を管理するのは、管理の組織が重複して不経済でもありますから、建物の一部共用部分を含めた全部を全体を管理する団体(全体管理組合)が管理することにしても各当事者が、そのような管理方法を望むならかまわないわけです。
また、例えば、1棟に店舗部と住居部がある場合、店舗部で建物の壁の色を一部だけ塗り替える場合など、一部共用部分の管理が建物全体に影響を与えるような場合には全体の利益のためには一部共有者が勝手に管理することは全体に迷惑や損害を与えるおそれがありますので、それを未然に防止するため始めから各々の一部管理組合を全体で管理する団体(全体管理組合)に入れて管理する必要もあります。
このような理由により、本第16条で「区分所有者”全員の利害に関係するもの”」はそれが一部共用部分であっても当然に全体の管理への強制移管とし、その他のものは、一部共用部分であって全体の利害に関係しなくても、各当事者が望めば規約で定めて全体の管理に移管してもよいと、任意移管を規定しています。
共有関係と管理上の方法が別れてもいいということです。
◎区分所有者全員の利害に関係するものの例:一部共用部分の外装が建物全体の美観に影響するときの外装の管理。
★一部共用部分の例
ところで、「一部共用部分とは一部の者のみの共用に供されることが明らかである部分」(第3条後段)と条文では規定されますが、具体的には明確にどのようなものがそれに該当するのかよく分かりません。
例えば、駐車場は三方が閉じられていれば区分建物登記が可能ですので、地下駐車場の三方が閉じられたブース単位で区分登記すれば車路が駐車場を利用する人のみの一部共用部分となり、その駐車場に設置されている消防設備等が全員の利害に関係するものとしてその管理が管理組合に強制移管されますが、通常のマンションでは各階の廊下といってもその階だけの共用とされることが明らかかは疑問がありますので、一般にはあまり利用されない規定のようです。
{判例}構造・機能上特に一部の共用が明白な場合に限ってこれを一部共用部分として扱うことを相当とした判例があります(東京高裁:昭59.11.29判決)。
◎区分所有者全員(=全体の管理組合)で管理するもの。
@区分所有者全員の利害に関するもの...一部共用部分であっても、この部分は強制的に全体の団体での管理に入り、一部の区分所有者の団体では管理できない。
A一部共用部分だけど全員の規約で決めたとき(ただし、一部共用部分の共用者の1/4超が反対したら全体で管理するとの規約はできない。区分所有法第31条2項参照)
◎ @とA以外のものは、一部共用部分を共用する区分所有者たちだけで管理することが基本。(同一の建物内に、全体を管理する団体とは別に一部共用部分を管理する団体ができる事になる)
◎一部区分所有者だけで管理を行う場合
では、逆の解釈として、一部区分所有者だけで管理を行う場合は、
@区分所有者全員の利害に関しない場合
A全体の規約で定めなかった場合
になります。
{設問-1} 次の記述は正しいか。
*一部共用部分は、規約に特別の定めをしても、区分所有者全員の共有とすることはできない。
答え:間違いである。
原則一部共用部分は、(区分所有法第 11 条)「1項 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。」により、一部の区分所有者の共有であるが、
同条2項 「前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。
」
により、規約があれば、一部共用部分であっても全員の共有とできる。
{設問-2} 平成23年 マンション管理士試験 「問1」
〔問 1〕マンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「マンション管理適正化法」という。)第2条第1号イに規定するマンションをいう。以下同じ。)の一部共用部分に関する次の記述のうち、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)の規定によれば、正しいものはどれか。
1 区分所有者全員の規約で定めれば、共用部分の一部について、これを一部共用部分として、一部の区分所有者が管理するものとすることができる。
X 誤っている? 共用部分の一部は、一部共用部分ではない。
まず、区分所有法では、法律用語として「マンション」の定義がありません。しかし、「マンション管理適正化法」第2条では、以下のように定義されていますので、マンションの用語を試験で使用する際には設問のような「マンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「マンション管理適正化法」という。)第2条第1号イに規定するマンションをいう」の表現が使用されます。
そこで、マンション管理適正化法第2条とは、
「(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号の定めるところによる。
一 マンション 次に掲げるものをいう。
イ 二以上の区分所有者(建物の区分所有等に関する法律 (昭和三十七年法律第六十九号。以下「区分所有法」という。)第二条第二項 に規定する区分所有者をいう。以下同じ。)が存する建物で人の居住の用に供する専有部分(区分所有法第二条第三項
に規定する専有部分をいう。以下同じ。)のあるもの並びにその敷地及び附属施設
ロ 一団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)が当該団地内にあるイに掲げる建物を含む数棟の建物の所有者(専有部分のある建物にあっては、区分所有者)の共有に属する場合における当該土地及び附属施設」
です。これによれば、「マンション」であるための要件は、
@2人以上の区分所有者 がいて、
A人の居住用の専有部分が1つでもあればいい
です。
また、区分所有法での一部共用部分とは、区分所有法第3条の後半に出てきます。
「(区分所有者の団体)
第三条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。」とあります。
具体的には、1棟のマンションで下が店舗、上が住居用の構造となっており、店舗部分には従業員専用出入り口があり、その従業員専用出入り口を、住居部分の人は明らかに利用しない場合に、その部分は、「一部共用部分」となります。
この場合「一部共用部分」は、まとめてそのマンションが全体として管理してもいいし、別の店舗部分だけの管理体制にしてもいいことになります。
その規定は、区分所有法第16条
「(一部共用部分の管理)
第十六条 一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するもの又は第三十一条第二項の規約に定めがあるものは区分所有者全員で、その他のものはこれを共用すべき区分所有者のみで行う。
」とあり、
一部共用部分の管理のうちから、除かれるのは、
@区分所有者全員の利害に関係するもの 又は
A第三十一条第二項の規約に定めがあるもの です。
ここでの、「一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するもの」の例としては、店舗部分の外装を変更する場合に、建物全体の美観を損ねるような場合です。
では、引用されています区分所有法第31条2項は、
「(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
」です。
またも引用されています、前条2項とは、第30条2項ですから、
「(規約事項)
第三十条
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
」です。
ここを解説しますと、区分所有者全員の利害に関係しない一部共用部分であっても、区分所有者全員での規約の定めがあれば、それが、一部共用部分であっても管理は、区分所有者全員で行うことができるということです。
そこで、第16条に戻りますが、一部共用部分を共用すべき一部の区分所有者の規約で定めることのできるのは、
@区分所有者全員の利害に関係しないもの でかつ
A区分所有者全員の規約に定めがない ものとなります。
設問の場合、「共用部分の一部について」とあり、これは、区分所有法第3条後半での「一部共用部分とは、一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分」ではありませんから、「これを一部共用部分として、一部の区分所有者が管理するものとすること」は、区分所有法上できません。
*しかし、「共用部分の一部」と、区分所有法での「一部共用部分」とは別と出題者は言いたいのだろうが、ここは、区分所有法でいう”一部共用部分”が「明らかでないこと」が多い実態から、規約で明確にしておく必要性がある場合も考えられ、区分所有法第30条1項との関係で、区分所有者の総意があれば、許されるのではという問題がある設問だ。
参考:区分所有法第30条1項
「(規約事項)
第三十条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」
2 一部共用部分の管理は、区分所有者全員の規約に定めがあるものを除き、これを共用すべき区分所有者のみで行う。
○ 正しい?
選択肢1で解説、引用しましたように、区分所有法第16条
「(一部共用部分の管理)
第十六条 一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するもの又は第三十一条第二項の規約に定めがあるものは区分所有者全員で、その他のものはこれを共用すべき区分所有者のみで行う。
」とあり、
@区分所有者全員の利害に関係するもの と
A区分所有者全員の規約に定めがある場合 を除いて、これを共用すべき区分所有者のみで行うことになります。(ここを、誤っているとするなら、@の区分所有者全員の利害に関係するもの がないとするのか?)
3 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものについての区分所有者全員の規約の設定は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の1/4を超える者が反対したときは、することができない。
○ 正しい。
ここは、選択肢1で解説・引用しました、区分所有法第31条2項
「(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
」
そして、前条第二項とは、区分所有法第30条2項で、
「(規約事項)
第三十条
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
」
に該当しています。
4 一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するものについて、区分所有者全員で管理する場合は、その旨を区分所有者全員の規約で定めなければならない。
X 誤っている?
選択肢1で解説しました、区分所有法第16条
「(一部共用部分の管理)
第十六条 一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するもの又は第三十一条第二項の規約に定めがあるものは区分所有者全員で、その他のものはこれを共用すべき区分所有者のみで行う。
」とあり、
同法第30条2項
「(規約事項)
第三十条
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
」です。
「一部共用部分の管理のうち、区分所有者全員の利害に関係するものについて」は、区分所有者全員の規約に入りますから、特に「その旨を区分所有者全員の規約で定めなければならない」とは明確に表現はされていません。しかし、この「区分所有者全員の利害に関係するかどうか」の判断においては、実態として区分が難しい場合もあり、「その旨を区分所有者全員の規約で定め」ておけば、トラブルが解消されますが。
答え:2、3。
マンション管理センターの解答:3 よく指摘しますように、マンション管理センターの出題は、適切でありません。
(共用部分の変更) |
1項 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。 |
過去出題 | マンション管理士 | R03年、R01年、H28年、H26年、H24年、H23年、H22年、H21年、H20年、H19年、H17年、H16年、H15年、H14年、H13年 |
管理業務主任者 | R03年、H30年、H26年、H25年、H23年、H18年、H16年、H15年、H14年、H13年 |
★何と分かりにくい言い方。こんな、条文を放置しておく、立法者の意識を疑う。
この分かり難さと、規約で区分所有者の数だけ過半数に減らせるので、よく出題の対象になるので、注意のこと。
挿入されている「その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。」も独立して意味をもっている。
○ 「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」;これは軽微の変更と呼ばれる。
○ 逆に、「その形状又は効用の著しい変更を伴うもの」;これは重大変更と呼ばれる。
◎平成14年の区分所有法の改正で、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く(軽微な変更)」は普通決議でできるようにしたため、面倒な表現になった。
ここは、「共用部分の重大な変更をするときには、特別な決議が必要。だけど、規約で定めれば、議決権の数の3/4以上は変えられないが、区分所有者の数の方は、3/4以上を、過半数まで減らすことができる」ということ。
★変更するなら、特別に「区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数」の賛成が必要で、普通決議(区分所有者および議決権の各過半数の賛成)に対して「特別多数決議事項」と呼ばれる。(その8の1)
★ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる...ここにも、注意が必要。議決権の数の方の3/4以上は規約でも変えられない。
「共用部分の重大な変更」は特別多数決議事項の1つだが、他の特別多数決議事項と異なり、「区分所有者の数(定数)」だけ3/4以上から「過半数」に減らせる。(出題では、議決権も規約で「過半数」に減らすことができる、が多いので留意しておくこと。)
本第17条も、前の第12条で区分所有者全員の共有部分である「共用部分」については、民法の共有関係と異なった第13条から第19条までの規定を適用することにしたことを受けた「共有物の変更」に関する規定です。
★第17条1項は、共有物の変更を共有者の数および議決権(規約で別段の定めのない場合には専有部分の床面積の割合による)の各3/4以上の多数決でできるとして、同様の事項に関する民法第251条の「共有物の変更(処分を含む)は全員の合意(同意)」を必要とするから、区分所有法の特徴である団体としての「多数決」への特則を定めた規定です。
<参照> 民法 第251条(共有物の変更) ;
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
★民法の共有関係を、区分所有法では緩和した 〜多数決原理の採用〜
区分所有者の共有である建物の共用部分の変更には、区分所有法でも、昭和58年(1983年)改正前の旧法では民法の共有関係での原則である”全員の合意(同意)”を必要としていましたが、それでは共有者の1名でも反対の人がいると他の多くの人が必要とする改良・変更工事ができなくなる等の不都合が多く発生しました。
そこで、区分所有法では、共有関係をマンションという複数の人が1つの棟に住むという特異性のある共有関係と認識して、共有部分の変更を民法の共有関係で必要とされる「全員の合意」から、区分所有者及び議決権の各 3/4以上 の”多数決”という条件に緩和したものです。
★強行規定 〜 変更を許さない 原則 〜
本来、民法の共有関係で規定される「全員の合意」を必要とする変更行為を区分所有法が「多数決」に緩和した規定ですから、原則として規約等の当事者の合意でこれを更に緩和したり制限を強めたりすることはできません。その意味でこの規定は強行規定です。
ただし、一部の者が多くの持分を有するようなマンションの場合(議決権が一部の人に偏るとき)に、区分所有者としては数が多い少数持分権者の反対で必要とする改良・変更工事ができなくなる等の不都合を回避するため「区分所有者の定数要件」だけは、規約で 3/4以上 からその 過半数(1/2超) まで減らすことができるとされていますので、この範囲の緩和は法が認めているといえます。
★区分所有者の数と議決権
区分所有者の数とは、原則として専有部分の個数と同じになります。しかし、一人が複数の専有部分を持っている場合には、区分所有者の数は合わせて1とカウントします。なお専有部分が複数の人の共有となっていても、区分所有者の数は1で、議決権を行使できる人も1名だけです。
一方、議決権は、規約で別段の定めがない限り、各専有部分の床面積の割合です(区分所有法第38条 →第14条)
<参照>区分所有法 第38条
(議決権)
第三十八条 各区分所有者の議決権は、規約に別段の定めがない限り、第十四条に定める割合による。
第17条1項のただし書きでいう「ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる」の「定数」は、集会で必要とされる、「区分所有者及び議決権の3/4以上」の多数のうち、区分所有者の数の方だけ、規約があれば、過半数に減らしてもいいということです。
当然ながら、議決権の方は、規約でも緩和できませんから、注意してください。
また、共用部分の重大変更において、集会の「”出席した”区分所有者の過半数及び議決権の3/4以上」や「区分所有者及び議決権の各過半数による」などの規約も、無効となります。
区分所有者の定数を過半数まで緩和する趣旨が妥当なものかどうかは、過去の規約との整合性との関係などで議論のあるところですが、区分所有法が財産管理の法である民法の特則規定である性格(特別法)が現れている規定と言えます。
なお、集会で区分所有者及び議決権の各四分の三以上の特別多数決議により、共用部分の重大な変更が認められても、その重大な変更行為が、ある人の専有部分に「特別の影響」を及ぼす場合には、その専有部分の所有者の承諾が必要となります(2項)。
★その形状または効用の「著しい変更か」「否か」の判断基準
平成14年の改正前には、共用部分の変更に関して「著しく多額の費用を要する」行為を実施するには、特別多数決議を要するとの表現が条文にありましたが、何と比較して「著しく多額の費用を要する」のかがはっきりしませんでした。
また、建物の維持・保全に過ぎない劣化した屋上の防水工事や外壁の修繕などいわゆる「大規模修繕」も多額の費用を要するため、特別多数決議が必要となり、反対者が多いと、「大規模修繕」も適切に行うことができない状況もありました。
そこで、平成14年の改正では「著しく多額の費用を要する」の言葉を外し、「その形状または効用の著しい変更」を伴う行為には特別多数決議が必要と改正しました。
ただし、条文がかっこ書きでなお、「その形状または効用の著しい変更を伴わないものを”除く”」と通常とは異なった分かり難い表現になっていますから注意が必要です。
共用部分の
・「形状の変更」とは、外観や構造を変更することで、共用部分の
・「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することですが、
これでは依然として何が「著しい変更」に該当するかは、明確ではありません。そこで、変更をする箇所、程度、範囲などにより、多くは、各建物ごとに判断されることになります。
共用部分の変更にあたり、一般的な判断としては、たとえば、
@階段室をエレベーターに変えるのは、「形状または効用の著しい変更」で、「特別多数決議」が必要です。
Aエレベーターに遠隔監視装置を設置する場合は、安全性の向上として使用価値や交換価値の増加が見込まれ改良概念に該当すると共に機器の新設や価値の変更という意味で「著しい変更」概念にも該当しそうですが(設置工事に伴う共用部分への加工自体を変更とすべきではありません。)、既存の機器の常識的な範囲の機能向上を目的とするものに過ぎず管理行為に含む改良と思われます。「普通決議」で可能です。
Bインターネット回線の新設も現在では同様に管理行為といえるものと考えます。これも、「普通決議」で可能です。(この点に関しましては、光ケーブルか、ケーブルテレビなど何を選択するかの方が問題かもしれません。)
上の例のように、「その形状または効用の著しい変更を伴う行為」の判定は、変更を行う部位や範囲、変更の方法など個々の状況に応じてなされることになりますが、標準管理規約のコメントでは、「形状または効用の著しい変更」をかなりの例をあげて、「普通決議(過半数)」と「特別多数決議(区分所有者の数だけ規約で過半数まで減可能)及び議決権の各3/4以上」を示していますので、参考になります。
<参考>標準管理規約47条(総会の会議及び議事)関係のコメントE;
E このような規定の下で、各工事に必要な総会の決議に関しては、例えば次のように考えられる。ただし、基本的には各工事の具体的内容に基づく個別の判断によることとなる。
ア)バリアフリー化の工事に関し、建物の基本的構造部分を取り壊す等の加工を伴わずに階段にスロープを併設し、手すりを追加する工事は普通決議により、
階段室部分を改造したり、建物の外壁に新たに外付けしたりして、エレベーターを新たに設置する工事は特別多数決議により実施可能と考えられる。
イ)耐震改修工事に関し、柱やはりに炭素繊維シートや鉄板を巻き付けて補修する工事や、
構造躯体に壁や筋かいなどの耐震部材を設置する工事で基本的構造部分への加工が小さいものは普通決議により実施可能と考えられる。
(筆者注:これに対して、建物の1階の柱をすべて切断して、免震部材(積層ゴムなど)を挿入する工法は、建物の基本的な構造部分である柱の下部をすべて取り除くので、特別多数決議が必要と考えられます。
追加:2014年 2月23日:建築物の耐震改修の促進に関する法律が改正され(平成25年11月25日施行)耐震診断を受けて、耐震改修が必要となると、集会の決議が、区分所有法第17条1項の「その形状又は効用の著しい変更」に該当しても、特別多数決議(区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数)から普通決議(過半数)に緩和されます。)
ウ)防犯化工事に関し、オートロック設備を設置する際、配線を、空き管路内に通したり、建物の外周に敷設したりするなど共用部分の加工の程度が小さい場合の工事や、
防犯カメラ、防犯灯の設置工事は普通決議により、実施可能と考えられる。
エ)IT化工事に関し、光ファイバー・ケーブルの敷設工事を実施する場合、その工事が既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えることなく実施できる場合や、
新たに光ファイバー・ケーブルを通すために、外壁、耐力壁等に工事を加え、その形状を変更するような場合でも、建物の躯体部分に相当程度の加工を要するものではなく、外観を見苦しくない状態に復元するのであれば、普通決議により実施可能と考えられる。
オ)計画修繕工事に関し、鉄部塗装工事、外壁補修工事、屋上等防水工事、給水管更生・更新工事、照明設備、共聴設備、消防用設備、エレベーター設備の更新工事は普通決議で実施可能と考えられる。
カ)その他、集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事などで、大規模なものや著しい加工を伴うものは特別多数決議により、
窓枠、窓ガラス、玄関扉等の一斉交換工事、既に不要となったダストボックスや高置水槽等の撤去工事は普通決議により、実施可能と考えられる。
◎劣化した屋上の防水工事や外壁の補修など一定の周期で行う大規模修繕は多額の費用はかかるが、「形状または効用の著しい変更」でないと判断されている。普通決議でできるように改正された。
また、普通決議となると、規約での別段の定めができ、集会の決議から、理事会での決議に変更もできる。
なお、区分所有者全員の承諾があれば、集会を開催せずに、書面または電磁的方法により決議はできます。(区分所有法第45条1項及び3項)
★改正:建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)の適用を受けると、決議要件が、特別多数決議から普通決議に緩和されます。
通常、耐震改修工事は、柱や壁など基本的構造部分の変更を大きく伴うために、特別多数決議(区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数)が必要となります。
しかし、特別多数決議が必要となると、緊急を要する耐震改修工事も容易には行われない危険性があります。
そこで、「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が改正され(平成25年11月25日施行)、「区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定制度」が新設され、耐震診断を受けて、耐震改修が必要と認定されると、集会の決議が、区分所有法第17条1項の「その形状又は効用の著しい変更」に該当しても、特別多数決議(区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数)から普通決議(過半数)に緩和される特例ができましたので、活用してください。(耐震改修促進法第25条3項参照)
なお、区分所有建物(マンション)は、共同住宅ですが、耐震改修促進法における規制対象には入っていません。しかし、昭和56年以前に建築したマンションは、耐震基準が旧の基準であるため、耐震診断を受けるといいでしょう。
改正:建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法) (平成25年11月25日施行)
第六章 区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定等
(区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定)
第二十五条 耐震診断が行われた区分所有建築物(二以上の区分所有者(建物の区分所有等に関する法律 (昭和三十七年法律第六十九号)第二条第二項に規定する区分所有者をいう。以下同じ。)が存する建築物をいう。以下同じ。)の管理者等(同法第二十五条第一項
の規定により選任された管理者(管理者がないときは、同法第三十四条の規定による集会において指定された区分所有者)又は同法第四十九条第一項 の規定により置かれた理事をいう。)は、国土交通省令で定めるところにより、所管行政庁に対し、当該区分所有建築物について耐震改修を行う必要がある旨の認定を申請することができる。
2 所管行政庁は、前項の申請があった場合において、当該申請に係る区分所有建築物が地震に対する安全上耐震関係規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認めるときは、その旨の認定をすることができる。
3 前項の認定を受けた区分所有建築物(以下「要耐震改修認定建築物」という。)の耐震改修が建物の区分所有等に関する法律第十七条第一項 に規定する共用部分の変更に該当する場合における同項の規定の適用については、同項中「区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議」とあるのは「集会の決議」とし、同項
ただし書の規定は、適用しない。
(要耐震改修認定建築物の区分所有者の耐震改修の努力)
第二十六条 要耐震改修認定建築物の区分所有者は、当該要耐震改修認定建築物について耐震改修を行うよう努めなければならない。
(要耐震改修認定建築物の耐震改修に係る指導及び助言並びに指示等)
第二十七条 所管行政庁は、要耐震改修認定建築物の区分所有者に対し、技術指針事項を勘案して、要耐震改修認定建築物の耐震改修について必要な指導及び助言をすることができる。
2 所管行政庁は、要耐震改修認定建築物について必要な耐震改修が行われていないと認めるときは、要耐震改修認定建築物の区分所有者に対し、技術指針事項を勘案して、必要な指示をすることができる。
3 所管行政庁は、前項の規定による指示を受けた要耐震改修認定建築物の区分所有者が、正当な理由がなく、その指示に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
4 所管行政庁は、前二項の規定の施行に必要な限度において、政令で定めるところにより、要耐震改修認定建築物の区分所有者に対し、要耐震改修認定建築物の地震に対する安全性に係る事項に関し報告させ、又はその職員に、要耐震改修認定建築物、要耐震改修認定建築物の敷地若しくは要耐震改修認定建築物の工事現場に立ち入り、要耐震改修認定建築物、要耐震改修認定建築物の敷地、建築設備、建築材料、書類その他の物件を検査させることができる。
5 第十三条第一項ただし書、第二項及び第三項の規定は、前項の規定による立入検査について準用する。
また、所管行政庁が建築物の耐震改修の計画を認定することができる増築及び改築の範囲が拡大されるとともに、増築に係る容積率・建ぺい率の特例措置が講じられています。
★注意しなければいけないのは、共用部分の廃止行為です。
区分所有法第17条の「変更」とは、変更前との同一性がある行為でなければなりません。
共用部分の改造工事により、以前の共用部分が無くなったり、改造で以前と大きくことなると、それは変更ではなく、「共用部分の廃止や処分行為」となり、区分所有者の多数決や3/4以上ではもう決定できません。
当然に、民法の共有者全員の賛成が必要となります。(ここらが、出題傾向が高い!)
{例}変更行為として区分所有法の適用の場合
敷地の一部にある樹木を伐採し、駐車場として隣接するマンションに賃貸する場合は、区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数による集会の決議(特別多数決議という。)を得なければならない
。
{民法の適用になる場合}
・集会所として使用するため隣接する土地及び建物を購入しようとする場合
新規の不動産購入は区分所有法の行為を超えた行為となり全員の合意が必要とされる。(民法第251条)
・共用部分の廊下を改造して、専有部分とする。
・屋上に増築して専有部分を作る。
・専有部分とした増築部を分譲する(処分行為)
★区分所有法はあくまでも、民法の特別法です。
区分所有関係が成立すれば、基本的に、区分所有法の適用がありますが、他に民法の適用もあります。区分所有法の適用を受ける項目は、区分所有法の中に規定されている項目に限られます。
例えば、新しくマンションの敷地を購入するなら、区分所有法での区分所有者及び議決権の各々 3/4以上 の多数決では決められません。民法により、共有者全員の合意が必要になります。
また、余っている敷地を売却する行為も、民法により、共有者全員 の合意が必要とされます。
区分所有関係に入る時と、区分所有関係から出る行為は民法が適用されます。
ただし、民法か区分所有法の適用か、区分が曖昧な部分が多く、学説も分かれることがあります。
それは、基本的に区分所有法が民法で定める「全員の合意」が困難なことを受け、「多数決の原理」を取り入れて制定されていることを、どう解釈するかです。
端的な例として、区分所有法では、個人の最大財産である建物であっても、全部を壊すことのできる「建替え」を多数決でできると認めているなら、他の処分行為も、多数決で可能だという解釈も当然にあるわけです。
★高圧一括受電方式への変更は、「共用部分の変更、管理」に該当するか → 「専有部分の使用」に関することであり、「共用部分の変更、管理」には該当しない。
{判例}
平成31年3月5日の最高裁判所の判決では、団地の裁判ですが、
@高圧一括受電方式への変更のうち、団地建物所有者(区分所有者)等に個別契約の解約を申し入れることは、共用部分の変更や管理事項ではない。専有部分の使用に関する事項である。
→ 集会(総会)で決議しても、ここは、無効。(区分所有法第17条1項、第18条1項関係)
Aそして規約との関係で、高圧一括受電方式への変更のために、団地建物所有者(区分所有者)等に個別契約の解約申入れを義務付けた細則は、規約で定められる「専有部分の使用または共用部分の管理に関する区分所有者相互間」の事項ではない。
電気料金の削減では、変更しなくても、専有部分の使用や、共用部分の管理に支障は生じない。
→ 細則で定めても、無効。(区分所有法第30条1項関係)
したがって,高圧一括受電方式導入に反対した2名が個別契約の解約を申し入れないことは、不法行為ではなく、損害を賠償する責任はないと判断しています。
なお、当裁判については、別途 「◎マンションの管理組合が、高圧一括受電方式を採用しても、区分所有者は、その総会の決議に拘束されない。また、規約でも定められない。」
もありますから、参考にしてください。
{設問} 平成18年 マンション管理士試験 問4
マンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律第2条第1号イのマンションをいう。以下同じ。)についての共有物分割請求権の行使に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
1 1個の専有部分を共有する区分所有者は、その専有部分について、共有物分割請求権を行使することができない。
答え: 誤りである。専有部分はできる。
まず、民法と区分所有法との共有関係を明確にしておくこと。また、区分所有法では「マンション」の用語の規定はないため、マンションの管理の適正化の推進に関する法律で定義されることに注意。
区分所有法で定める共用部分(廊下、階段室など)は建物の存在に不可欠なため、原則、区分所有者全員の共有とし(区分所有法第11条1項参照)、共用部分が共有関係にあると、民法の共有に関する規定ではなく、区分所有法第13条から第19条までの規定に従い(区分所有法第12条)、また、専有部分と分離して処分ができない(区分所有法第15条参照)としてあるが、設問は専有部分(平たくいうと自分の室)の共有関係で、これは、民法の適用となる。すると、民法第256条1項「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない」
の規定により、可能。
2 専有部分以外の建物の部分を共有する区分所有者は、その建物の部分について、共有物分割請求権を行使することができない。
答え: 正しい。共用部分はできない。
今度は、民法の適用ではなく、区分所有法の適用となる。
専有部分以外の建物の部分は「共用部分」(区分所有法第2条4項参照)となり、これは、区分所有法の適用となる。選択肢1でも述べたように、区分所有建物にとって、廊下や階段など共用部分は建物の存在に不可欠なため、共用部分の共有は民法で規定する「分割請求」が認められない。
区分所有法第15条2項「共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない」の規定により、原則、共用部分の持分の処分(移転、売買、分割など)が禁止され、共有物分割請求権はない。
3 専有部分に属しない建物の附属物を共有する区分所有者は、その建物の附属物について、共有物分割請求権を行使することができない。
答え: 正しい。建物の附属物は共用部分で、分割請求はできない。
専有部分に属しない建物の附属物(雑排水本管、昇降機など)も「共用部分」(区分所有法第2条4項参照)となり、これは、区分所有法の適用となる。すると、選択肢2と同様に共有物分割請求権はない。
4 規約により共用部分とされた附属の建物を共有する区分所有者は、その附属の建物について、共有物分割請求権を行使することができない。
答え: 正しい。規約共用部分も、分割請求できない。
規約により共用部分とされた附属の建物(別棟の集会所、物置など)も「規約共用部分」(区分所有法第4条2項参照)となり、規約共用部分も法定共用部分も、区分所有法ではまとめて「共用部分」として適用される(区分所有法第4条2項)。すると、選択肢2と同様に共有物分割請求権はない。
答え:1
{設問-2} 平成23年 管理業務主任者試験 「問35」
【問 35】 あるマンションにおける次の管理規約の定めのうち、区分所有法の規定によれば、次の記述は有効か。
*共用部分の変更については、区分所有者総数の2分の1以上及び議決権総数の4分の3以上の多数による集会の決議で決する。
X 無効である。 2分の1以上は過半数でない。
規約で別段の定めができるか、どうかをきいています。
共用部分の変更は、区分所有法第17条。
「(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。」とあり、
1項により、 「この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずること」ができますが、過半数です。過半数は半数を超えることで、1/2以上は半数を含んでいますから無効です。
{設問-3} 平成26年 マンション管理士試験 「問5」
[問 5] 次の各決議については、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数によるが、この区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることができるものは、区分所有法の規定によれば、次のうちどれか。
1 区分所有者の共有に属する敷地又は共用部分以外の附属施設の変更についての集会の決議
○ 区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることができる。 平成25年管理業務主任者試験 「問38」、平成24年マンション管理士試験 「問25」、平成23年マンション管理士試験 「問25」、平成23年管理業務主任者試験 「問25」 など多い。
例年と異なりすこしばかり捻った出題です。
まず、設問の「区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることができるもの」に対しては、区分所有法第17条の規定があります。
「(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。」 です。
1項はおかしな括弧書きがあるのでかなり分かりにくいのですが、共用部分の”その形状又は効用の著しい変更を伴う変更(重大変更)”は、原則: 区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によるのですが、ここで但し書き「この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる」があるので、規約があれば、議決権の方は四分の三以上必要ですが、区分所有者の数の方だけは、四分の三以上から過半数まで、減らすことができます。
この趣旨は、マンションという共同生活を営む場において、共用部分の変更なら、財産管理に影響を及ぼすため一人で多数の専有部分を有する者の存在を法律の草案者が考慮したものです。
そこで、設問の「区分所有者の共有に属する敷地又は共用部分以外の附属施設の変更」となると、区分所有法第21条
「(共用部分に関する規定の準用)
第二十一条 建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第十七条から第十九条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。 」 とあり、
第17条の規定が準用されていますから、区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることができ、正しい。
共用部分以外の附属施設とは、附属の建物でも、規約で共用部分とされていない建物とその附属施設です。
なお、区分所有者の数を規約で減らせることができるのは、この区分所有法第17条の重大変更だけです。
他の「区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する(特別多数決議とよびます)」と規定されている条文では、規約による区分所有者の定数を減じることは認めていませんから注意してください。
2 規約の設定、変更又は廃止についての集会の決議
X 区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることはできない。 平成25年マンション試験 「問6」、 同「問10」、平成25年管理業務主任者試験 「問35」、 同「問38」、平成24年マンション管理士試験 「問3」、 同「問4」、 同「問10」 など多い。
規約の設定、変更又は廃止についての集会の決議は区分所有法第31条に規定されています。
「(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。」 です。
1項によれば、 「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする」とあるだけで、規約で別段の定めを認めていませんから、区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることはできません。
3 管理組合法人となる旨の集会の決議
X 区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることはできない。 平成21年マンション管理士試験 「問7」、 平成21年管理業務主任者試験 「問1」、 同「問33」、平成19年管理業務主任者試験 [問36」 など。
管理組合法人となる旨の集会の決議は、区分所有法第47条
「(成立等)
第四十七条 第三条に規定する団体は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で法人となる旨並びにその名称及び事務所を定め、かつ、その主たる事務所の所在地において登記をすることによつて法人となる。
2 前項の規定による法人は、管理組合法人と称する。
3 この法律に規定するもののほか、管理組合法人の登記に関して必要な事項は、政令で定める。
4 管理組合法人に関して登記すべき事項は、登記した後でなければ、第三者に対抗することができない。
5 管理組合法人の成立前の集会の決議、規約及び管理者の職務の範囲内の行為は、管理組合法人につき効力を生ずる。
6 管理組合法人は、その事務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく
保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
7 管理組合法人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
8 管理組合法人は、規約又は集会の決議により、その事務(第六項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
9 管理組合法人は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合においては、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。
10 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 (平成十八年法律第四十八号)第四条 及び第七十八条 の規定は管理組合法人に、破産法 (平成十六年法律第七十五号)第十六条第二項
の規定は存立中の管理組合法人に準用する。
11 第四節及び第三十三条第一項ただし書(第四十二条第五項及び第四十五条第四項において準用する場合を含む。)の規定は、管理組合法人には、適用しない。
12 管理組合法人について、第三十三条第一項本文(第四十二条第五項及び第四十五条第四項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定を
適用する場合には第三十三条第一項本文中「管理者が」とあるのは「理事が管理組合法人の事務所において」と、第三十四条第一項から第三項まで及び第五項、
第三十五条第三項、第四十一条並びに第四十三条の規定を適用する場合にはこれらの規定中「管理者」とあるのは「理事」とする。
13 管理組合法人は、法人税法 (昭和四十年法律第三十四号)その他法人税に関する法令の規定の適用については、同法第二条第六号 に規定する公益法人等とみなす。この場合において、同法第三十七条
の規定を適用する場合には同条第四項 中「公益法人等(」とあるのは「公益法人等(管理組合法人並びに」と、同法第六十六条 の規定を適用する場合には同条第一項
及び第二項 中「普通法人」とあるのは「普通法人(管理組合法人を含む。)」と、同条第三項 中「公益法人等(」とあるのは「公益法人等(管理組合法人及び」とする。
14 管理組合法人は、消費税法 (昭和六十三年法律第百八号)その他消費税に関する法令の規定の適用については、同法 別表第三に掲げる法人とみなす。」 とあり、
1項によれば、区分所有者の団体(区分所有法第3条)は、 区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で法人となりますが、この規定以外の規約による別段の定めを認めていませんから、区分所有者
の定数について、規約でその過半数まで減ずることはできません。
4 訴えをもって、共同利益背反行為をした区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求する旨の集会の決議
X 区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることはできない。 平成24年マンション管理士試験 「問9」、 平成23年マンション管理士試験 「問32」 。
設問の、訴えをもって、共同利益背反行為をした区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求する旨の集会の決議となると、区分所有法第59条
「(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去
して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づ
き、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。」 とあり、
集会の決議については、2項があり、前条(第58条)の2項が準用されています。
区分所有法第58条は、
「(使用禁止の請求)
第五十八条 前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその
障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の
決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第三項の規定は、第一項の訴えの提起に準用する。 」です。
区分所有法第58条2項は「前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。」 とだけあり、
この規定以外の規約による別段の定めを認めていませんから、区分所有者の定数について、規約でその過半数まで減ずることはできません。
答え:1 この設問はまだ、勉強していない条文もありますが、こんな感じで出題されますので、参考までに載せました。
★共有物の管理には、民法では三つのタイプがある。
区分所有法が成立する前に、民法は規定していた。
@保存行為...現状維持。エレべーターの保守・点検・修理、廊下の清掃、壊れた窓ガラスの交換など。
<参照> 民法 第252条但し書き:単独でできる。
A利用改良行為...性質を変えない範囲で利用したり、価値を増加させる。屋上を貸して賃料をとる、廊下に夜間灯をつけるなど。
<参照> 民法 第252条本文:持分に従い過半数できめる。
B変更・処分行為...形や性質を変えたり、処分する。マンションの増改築など。
<参照> 民法 第251条:全員の同意(合意)が要。
★これを区分所有法では少し変更した。
A.保存行為...各所有者が単独でできる。ただし、規約で(たとえば、管理者(理事長)がするとか)決めていい。
<参照> 第18条
B.狭義の管理...利用・改良行為と軽微の変更(その形状または効用の著しい変更を伴わないもの)
玄関の扉を取り替えるなど。
*工事の費用や期間ではなく、その形状または効用の著しい変更を伴わないものであること。
よって大規模修繕工事は重大変更ではない。(よく試験にでるぞー)
この狭義の管理は、区分所有者および議決権の各過半数の賛成決議でいい。(普通決議)
また、規約で過半数をかえたり、管理者の機関(理事会)の決定に委ねるとかしていい。
C.重大変更... 軽微の変更(その形状または効用の著しい変更を伴わないもの)を除いた変更。
お金(費用)がかかるとか、時間がかかっても、形状や効用があまり変わらないのは、ここには含まない。
◎階段室をエレベーター室に変更するなどは「形状の著しい変更」となる
◎集会室を廃止して賃貸店舗に転用するが「効用の著しい変更」でこれらが重大変更にはいる。
これは、区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成決議がいる。
このうち区分所有者の定数だけは、規約があれば、4分の3以上から過半数まで減らせる。(注意ポイント)
(議決権数は変更できない。4分の3以上必要。)これは民法の持分の価格の過半数が必要の精神と同じ。
◎区分所有者の定数―――>3/4以上 から 過半数 まで下げられる。
議決権の定数 3/4以上 は 変えられない。
この第17条は、「C.重大変更」を定めたもの。
◎ 区 分 所 有 法 で の共 有 物 の 管 理 | ||
内容 | 区分所有法での決定方法 | 規約での別段の定め |
A.保存行為 | 各区分所有者 | 可能 |
B.管理行為(狭義)軽微の変更 | 集会の普通決議 | 可能 |
C.重大変更(その形状又は効用の著しい変更を伴うもの) | 集会の特別多数決議 | できない(ただし、定数のみ過半数まで減らせる) |
{設問-1}あるマンションの管理組合の規約の定めに関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、次の記述は有効か。
*共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者総数の4分の3以上及び議決権の過半数で決する。
答え:有効ではない。議決権は4分の3以上。
区分所有法第17条1項に「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。ただし、区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。」と規定されており、区分所有者の定数は減らせるが、設問の「議決権を過半数にすること」は区分所有法では許されていないため、無効である。
{設問-2} マンションの共用部分の修繕工事の決議に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、最も適切なものはどれか。なお、規約に別段の定めはないものとする。
1 内外壁塗装工事を行う場合には、出席した区分所有者の議決権の過半数の賛成による集会の決議が必要である。
答え:適切でない。
「内外壁塗装工事を行う場合」は「共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴わない」ことから、区分所有区分所有法第 17 条の共用部分の重大変更に該当しない。普通決議事項である。しかし、出席した区分所有者の議決権の過半数ではなく、区分所有者及び議決権の過半数の賛成による集会の決議が必要である。規約があれば可能であるが、設問は規約で別段の定めがない、とある。
2 内外壁塗装工事のほか、鉄部塗装工事、屋上防水工事、給水管ライニング工事を併せて行う場合には、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成による集会の決議が必要である。
答え:適切でない。
「内外壁塗装工事のほか、鉄部塗装工事、屋上防水工事、給水管ライニング工事を併せて行う場合」は選択肢1と同様に、区分所有法第 17 条の共用部分の重大変更に該当しない。普通決議事項である。区分所有者及び議決権の過半数の賛成による集会の決議でいい。
3 内外壁塗装工事のほか、階段と廊下に手すりを設置する工事を併せて行う場合は、区分所有者及び議決権の各過半数の賛成による集会の決議が必要である。
答え:適切である。
「内外壁塗装工事のほか 、階段と廊下に手すりを設置する工事を併せて行う場合」は、選択肢1と同様に、区分所有法第 17 条の共用部分の重大変更に該当しない。普通決議事項である。区分所有者及び議決権の過半数の賛成による集会の決議が必要である。
4 内外壁塗装工事のほか、階段室をエレベーター室にする工事を併せて行う場合には、出席した区分所有者の議決権の4分の3以上の賛成による集会の決議が必要である。
答え:適切でない。
「階段室をエレベーター室にする工事を併せて行う場合」は、「共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴う」ことから、区分所有法第 17 条の共用部分の重大変更に該当する。特別多数決議事項である。出席した区分所有者の議決権の4分の3以上の賛成による集会の決議ではなく、全体の区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成による集会の決議が必要である。
(注:)標準管理規約の普通決議は「出席した区分所有者の議決権の過半数の賛成」であるのに対し、区分所有法の普通決議では、「区分所有者及び議決権の各過半数の賛成」となっている。設問で「別段の規約がない」ことに注意。標準管理規約と区分所有法での混同を狙っている。
正解: 3
第十七条 |
2項 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。 |
過去出題 | マンション管理士 | H20年、H15年、H13年 |
管理業務主任者 | R03年、H27年、 |
★共用部分の変更に対して、影響を受ける専有部分の所有者が反対したら変更できない。多数決であっても、個人の権利は尊重するのが趣旨。
★特別の影響とは 〜既得権の保護〜
第17条2項は、共用部分に係る既得権保護の規定です。
エントランスや廊下など現状の共用部分を変更することは、既存の共用部分の形状や使用方法等の現状を改変することとなり、全員に何らかの影響を及ぼすことは避けられませんが、その共用部分の変更による影響が、例えば、出入りが今より不自由になるとか、日当たりが今より悪くなるなど特定の専有部分や専用使用権設定部分、その他特定の区分所有者の共用部分との係わり合いに特に強く関係する場合もあります。
★多数による横暴を抑止する
特定の区分所有者に多少の影響があるからといって、共用部分の変更を拒絶されたのでは、全体としての円滑な共同生活は成り立ちませんが、他方で影響を受ける特定の者に”通常受忍すべき範囲を超える受忍”を強いる場合は、多数による少数の圧迫としてそのような行為が制限されるのもまた当然です。
このような趣旨により、共用部分の変更が特定の区分所有者に「特別の影響を及ぼすべきとき」言い換えますと「通常の受忍範囲を超える場合」には、その人の承諾を必要とすると規定したのが2項です。
この規定の反対の解釈として、今ある共用部分を変更しても特別の影響がない限り個々の所有者の承諾は不要ということで、現実にはこの意味で使われるのが多い条項です。
★具体的には? 〜特別の影響とは〜
しかし、何がこの「特別の影響」に該当するかもまた抽象的な概念ですから、個別の判断となりますが、該当の共用部分を変更する場合の、
・工事の目的、性格、内容、方法、必要性、また
・その影響の性質、内容、程度、必然性 ないし
・他の方法への回避可能性、代償措置等を
総合的に判断する必要があるでしょう。
ではこの「特別の影響」については、規約の設定、変更または廃止を規定した区分所有法第31条1項後段にも同様の規定がありますので、それに対する最高裁判所の判断が参考になります。
<参照>区分所有法 第31条1項
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
区分所有法第31条1項後段の「特別の影響」の解釈は、
「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、
規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、
当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。(最高裁判所:平成10年10月30日、シャルマンコーポ博多事件)
とのことで、規約の設定、変更等が
@どの程度必要なのか、またどの程度合理性があるのか を
A一部の区分所有者が受ける不利益はどの程度か とを
B様々な角度から比較し、考えて、 また
Cそのマンションの区分所有関係の実態もよく検討して
D最終的には、不利益を受ける一部の区分所有者が、共同生活を営む上で、通常、がまんできる限度を超えている場合をいう、ことになります。
本第17条2項など「特別の影響」については、上の判断基準が、類推適用されます。
{判例-1}
「特別の影響を及ぼす」場合か否かの判断に当たっては、共用部分の変更又はそのための工事の必要性、合理性と、共用部分を変更することによって区分所有者の受ける不利益とを比較衡量し、不利益が受忍すべき程度を超えるか否かを基準に検討すべきである。
そして、共同市場における、通路の幅が狭くなる改修工事を「特別の影響」を及ぼさない、と判決した。(平成9年5月27日:神戸地裁)
{判例-2}
直接には規約の設定、変更等ではないが、規約の定めに基づいて管理費等を定めた細則の変更を集会決議で行う場合においては、「特別の影響を及ぼすべきとき」の判断基準としては、区分所有法第31条1項後段で規定される、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」の規定が類推適用される。(平成10年10月30日:最高裁判所、シャルマンコーポ博多事件))
★集会で決議しても、影響を受ける室の持ち主が承諾しないと、重大変更もできない。
区分所有法では多数決を取り入れていながら、多数の横暴が許されない。次の第18条の「狭義の管理」でも準用されている。
*区分所有法の「多数決」と民法の「全員の同意」について
この区分所有法第17条に規定される重大変更を始めとして、今後出てきます、建物の復旧や建替え(区分所有法 第61条、第62条参照)にみるように、区分所有法では、民法で定める「共有物の変更での全員合意をうること」が困難であることの反省から、多数決を採用したことに、民法に優先する特別法としての存在価値があります。
しかし、共有物の処分行為(共有持ち分に変更をもたらす売買など)は相変わらず、多数決では決定できず、民法の適用があり、「全員の合意が必要」とされています。
この法的な構成は、もう時代の要請には合わないとの説があります。
それは、最大の共有物である建物を無くすことができる「建替え」が「4/5以上の多数の賛成」で可能であるのに、それよりも影響の少ない「変更」に「全員の合意」を求めなくてもいいのではないかとの考え方です。
この考え方には、私は同意してます。
{参考: 例−1}平成18年マンション管理士試験 「問6」
〔問 6〕マンションの管理組合(区分所有法第3条に規定する区分所有者の団体をいう。以下同じ。)の集会において区分所有者及び議決権の各4/5の多数によっても決議をすることができないものは、区分所有法及び民法の規定によれば、次のうちどれか。
1 老朽化したマンションを取り壊して、平面駐車場にする旨の決議
答え: 決議できない。
民法と区分所有法の限度を理解しておくこと。また、区分所有法では「管理組合」という定義はなく、「団体」であることに注意。
老朽化したマンションを取り壊す行為は、区分所有法での「建替えの決議」が参考になる。
建替えは(区分所有法第62条1項参照「集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。」とあり、要件として、「建物」が建築されないといけない。壊して平面駐車場にするには、区分所有法の規定から外れて、民法に戻る。民法第251条「共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」により、区分所有者全員の同意が必要。集会において区分所有者及び議決権の各4/5の多数によっても決議をすることができない。
2 居住用のマンションを取り壊して、その敷地に新たに区分所有された住居の部分のある商業用ビルを建築する旨の決議
答え: 決議できる。
区分所有法第62条の建替え決議は法改正により従前と同一用途である要件が外れたので決議可能。
{参考: 例−2}平成17年マンション管理士試験 「問5」
〔問 5〕 甲マンション管理組合における区分所有者の共有に属する敷地及び共用部分の管理等に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。ただし、規約に別段の定めはないものとする。
1 甲が敷地の一部にある樹木を伐採し、駐車場として隣接するマンションに賃貸する場合は、区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数による集会の決議(以下特別多数決議という。)を得なければならない
。
答え:正しい。
ここも、区分所有法の限界、民法の共有を聞いている。
植栽を駐車場にするのは、区分所有法第17条「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。」
で規定する、「形状・効用の著しい変更」に該当し、特別多数決議が必要。民法での規定でなく、区分所有法の規定内で可能。
2 甲が集会所として使用するため隣接する土地及び建物を購入しようとする場合は、購入について、特別多数決議を得なければならない。
答え:誤っている。
新規の不動産購入は、土地の共有持分等に変更が生じるため、区分所有法の変更行為を超えた行為となり、民法の共有物の変更の適用で全員の合意が必要とされる。(民法第251条:各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
)
(共用部分の管理) |
第十八条 |
1項 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。 |
過去出題 | マンション管理士 | R03年、H27年、H26年、H24年、H23年、H20年、H17年、H16年、H15年、H13年 |
管理業務主任者 | H29年、H28年、H27年、H23年、H22年、H18年、H16年、H14年 |
★前条の場合を除いて...第17条で規定した重大変更をさす。
本第18条も、第12条で区分所有者全員の共有部分である「共用部分」については、民法の共有関係と異なった第13条から第19条までの規定を適用することにしたことを受けた規定です。
★本第18条1項では、共用部分の管理のうち前第17条の、「C.重大変更(その形状又は効用の著しい変更を伴うも)の場合」を除く範囲の管理(A.保存行為、B.狭義の管理)については集会の決議で決するものとされています。
いいかえますと、共用部分の管理は、集会で決めるため、保存行為を除き、各個人ではできず、原則 区分所有者の団体(管理組合)が行うことになります。
ただし、重大変更でなければ規約で別段の定めができますから、理事会の決議によるともできます。(2項)
しかし、その狭義の管理に関する変更が、特定の区分所有者の使用に特別の影響を及ぼすときには、第17条2項と同様に、その影響を受ける区分所有者の承諾が必要です。(3項)
これで、集会の決議は別段の定めがない限り、第39条1項で「区分所有者及び議決権の各過半数で決する」(普通決議)とされていますから、前第17条、本第18条1項本文及び但書を総合すると最広義の管理のうち、重大変更は区分所有者及び議決権の各3/4以上(3/4を含み)で可決となります。
また、保存行為を除く狭義の管理は区分所有者及び議決権の各過半数(半数は含まず、否決となります。)で、保存行為は本第18条1項但書により集会の決議も不要で区分所有者が単独でそれぞれ可能ということになります。
なお、区分所有者全員の承諾があれば、集会を開催せずに、書面または電磁的方法により決議はできます。(区分所有法第45条1項及び3項)
★共用部分の、A.保存行為と、B.狭義の管理は、集会の普通決議(区分所有者および議決権の各過半数の賛成決議)でいい。
しかし、保存行為は、各共有者が単独でできる。<参照>第6条2項(区分所有者の権利義務)でも規定されている。
★ 区分所有法の建物の共用部分の保存・管理(利用・改良・軽微の変更)・重大変更の内容。 | |
A.保存行為 | 現状維持・修理は、各所有者が単独でできる。 ただし、規約で(たとえば、管理者がするとか)決めていい。民法と同じ。 |
B.狭義の管理 | 利用・改良行為と軽微の変更(その形状または効用の著しい変更を伴わないもの)は、管理組合の集会の決議がいる。 区分所有者および議決権の各過半数の賛成決議でいい。 例:玄関の扉を取り替える。工事の費用や期間ではなく、その形状または効用の著しい変更を伴わないものであること。よって大規模修繕工事は重大変更ではない。これは、区分所有者および議決権の各過半数の賛成決議でいい。(普通決議) また、規約で過半数をかえたり、管理者の機関(理事会とか)の決定に委ねるとかしていい。 |
C.重大変更 |
軽微の変更(その形状または効用の著しい変更を伴わないもの)を除いた変更。 |
この第18条は、上の第17条1項で説明した「A.保存行為」と「B.狭義の管理」を規定したもの。
★保存行為と狭義の管理の区別
ある行為が修理なのか改良なのかは判断が難しい場合が多々あります。
また、本第18条1項では、特に、「ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。」としてあることから、保存行為と狭義の管理とを区別することが問われる場合があります。
通常、本項での各区分所有者が単独でできる保存行為としては、緊急を要する場合か、修理内容としては、共用部分の点検や破損個所の小修繕程度と解され、共用部分の塗装工事などは、狭義の管理となり、集会の決議事項と解されます。
★専有部分でない「専用使用権」の管理について
特定の区分所有者が、区分所有者全員の共有部分(=共用部分)を、排他的、独占的に利用できる部分を専用使用部分といい、専用使用部分を使う権利を「専用使用権」とよびます。
例としては、1階の区分所有者だけが使う専用庭、最上階の区分所有者専用の屋上のテラス、また特定の区分所有者だけが使える駐車場がこれに該当します。
また、空いている駐車場を区分所有者でない外部の人に貸すときにも、排他的、独占的な専用使用部分が生じます。
この場合、使用者が区分所有者であるときは、区分所有法の規定(共有物の管理:第18条、規約の関係:第31条など)が適用され、外部の人が駐車場を借りているときは、民法の賃貸借(民法第601条〜第622条)が適用になります。
{設問} 平成16年 マンション管理士 「問1」
建物の区分所有などに関する法律(以下「区分所有法」という。)上当然に共有部分とされる部分(以下この問いにおいて「法定共用部分」という。)に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。
3 法定共用部分は、規約で定めても、区分所有者以外の者が排他的に使用することとすることはできない。
答え: 誤りである。
これは、良く出る設問。バルコニー、ピロティーにある駐車・駐輪場所等は法定共用部分とされるが、前者は専用使用権により後者は使用契約により排他的使用権が設定される。また、電気室を電力会社が排他的に使用することもある。他に判例として、法定共用部分である屋上広告塔について、特定の者による専用使用権を認めたものもある。規約で定めれば、たとえ法定共用部分でも、区分所有者以外の者が排他的に使用することができる。
4 法定共用部分を専有部分とする場合には、これについて、その共有者全員の同意が必要である。
答え: 正しい。
法定共用部分(廊下、階段室など)を専有部分とするのは今までの共有持分が減少または消滅するため、各区分所有者の財産権を変更する処分行為であり、区分所有法上の共用部分の変更行為から外れ、民法の共有(民法第251条)「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」により、全員の同意が必要となる。
第十八条 |
2項 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。 |
過去出題 | マンション管理士 | R03年、H27年、H25年、H15年、 |
管理業務主任者 | H26年H25年、H23年、 |
*妨げない...共用部分の重大変更(第17条参照)を除いた、狭義の管理行為と保存行為については、規約で別の方法をとってもいい。
★2項は、1項の原則である「管理行為は集会の決議で決すること、保存行為は、各共有者がすることができる」ことについて規約で変更ができることを認めた規定です。
具体的には、管理行為を、毎回の集会の決議事項から変更し、理事会の決議で決することができます。
しかし、理事会や管理者の判断に任せて実施とか、また保存行為が各人の判断で実施できることには保存行為の該当性の判断が各人各様では収拾がつかなくなりますから規約で原則として個人での行使を禁止すること等が考えられるでしょう。
★ 前項=第18条1項:管理のうち A.保存行為 と B.狭義の管理 は規約で別の定めができる。
C.重大変更は区分所有者の数だけは3/4から過半数に減らせるが、それも集会の決議によること。
★共用部分の「A.保存行為」と「B.狭義の管理行為」は普通決議(過半数で決める)によるが、その他の決定方法(理事会での決定、管理者に決定させるなど)を規約で定めてもいい。
◎ 共 有 物 の 管 理 | ||
内容 | 区分所有法での決定方法 | 規約での別段の定め |
A.保存行為 | 各区分所有者 | 可能 |
B.管理行為(狭義)軽微の変更 | 集会の普通決議 | 可能 |
C.重大変更(その形状又は効用の著しい変更を伴うもの)(第17条) | 集会の特別多数決議 | できない(ただし、定数のみ過半数まで減らせる) |
<参考>「標準管理規約(単棟型)」21条:(敷地及び共用部分等の管理)
第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。
2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行 うことができる。
3 区分所有者は、第1項ただし書の場合又はあらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けた場合を除き、敷地及び共用部分等の保存行為を行うことができない。ただし、専有部分の使用に支障が生じている場合に、当該専有部分を所有する区分所有者が行う保存行為の実施が、緊急を要するものであるときは、この限りでない。
4 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「保存行為」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事後に、当該工事」とあるのは「第21条第3項の承認を受けた保存行為後に、当該保存行為」と読み替えるものとする。
5 第3項の規定に違反して保存行為を行った場合には、当該保存行為に要した費用は、当該保存行為を行った区分所有者が負担する。
6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。
<参考>「標準管理規約 第21条関係コメント
@ 第1項及び第3項は、区分所有法第18条第1項ただし書において、保存行為は、各共有者がすることができると定められていることに対し、同 条第2項に基づき、規約で別段の定めをするものである。
A 駐車場の管理は、管理組合がその責任と負担で行う。
B バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。
C 本条第1項ただし書の「通常の使用に伴う」保存行為とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入替え等である。
D バルコニー等の経年劣化への対応については、Bのとおり管理組合がその責任と負担において、計画修繕として行うものである。 ただし、バルコニー等の劣化であっても、長期修繕計画作成ガイドラインにおいて管理組合が行うものとされている修繕等の周期と比べ短い期間で発生したものであり、かつ、他のバルコニー等と比較して劣化の程度が顕著である場合には、特段の事情がない限りは、当該バルコニー等の専用使用権を有する者の「通常の使用に伴う」ものとして、その責任と負担に
おいて保存行為を行うものとする。なお、この場合であっても、結果として管理組合による計画修繕の中で劣化が解消されるのであれば、管理組合の負担で行われることとなる。
E バルコニー等の破損が第三者による犯罪行為等によることが明らかである場合の保存行為の実施については、通常の使用に伴わないものであるため、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、
同居人や賃借人等による破損については、「通常の使用に伴う」ものとして、当該バルコニー等の専用使用権を有する者がその責任と負担において保存行為を行うものとする。
F 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用
のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。
G 第3項ただし書は、例えば、台風等で住戸の窓ガラスが割れた場合に、専有部分への雨の吹き込みを防ぐため、割れたものと同様の仕様の窓ガラ スに張り替えるというようなケースが該当する。また、第5項は、区分所有法第19条に基づき、規約で別段の定めをするものである。
承認の申請先等は理事長であるが、承認、不承認の判断はあくまで理事会の決議によるものである(第54条第1項第五号参照)。
H 区分所有法第26条第1項では、敷地及び共用部分等の保存行為の実施が管理者(本標準管理規約では理事長)の権限として定められている。第 6項では、災害等の緊急時における必要な保存行為について、理事長が単独で判断し実施できることを定めるものである。災害等の緊急時における必要な保存行為としては、共用部分等を維持するための緊急を要する行為又は共用部分等の損傷・滅失を防止して現状の維持を図るための比較的軽度の行為が該当する。後者の例としては、給水管・排水管の補修、共用部分等の被災箇所の点検、破損箇所の小修繕等が挙げられる。この場合に必要な支出については、第58条第6項及びコメント第58条関係Dを参照
のこと。
I 災害等の緊急時において、保存行為を超える応急的な修繕行為の実施が必要であるが、総会の開催が困難である場合には、理事会においてその実施を決定することができることとしている(第54条第1項第十号及びコ
メント第54条関係@を参照。)。しかし、大規模な災害や突発的な被災では、理事会の開催も困難な場合があることから、そのような場合には、 保存行為に限らず、応急的な修繕行為の実施まで理事長単独で判断し実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。更に、理事長をはじめとする役員が対応できない事態に備え、あらかじめ定められた方法により選任された区分所有者等の判断により保存行為や応急的な修繕行為を実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。なお、理事長等が単独で判断し実施することができる保存行為や応急的な修繕行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。
J 第6項の災害等の緊急時における必要な保存行為の実施のほか、平時における専用使用権のない敷地又は共用部分等の保存行為について、理事会の承認を得て理事長が行えるとすることや、少額の保存行為であれば理事長に一任することを、規約において定めることも考えられる。その場合、理事長単独で判断し実施することができる保存行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。
<参考>「標準管理規約(単棟型)」22条:(窓ガラス等の改良)
第22条 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。
2 区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、 あらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。
3 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5 項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「第22条第2項の工事」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事」とあるのは「第22条第2項の承認を受けた工事」と読み替えるものとする。
<参考>「標準管理規約 第22条関係コメント
@ 窓枠、窓ガラス及び玄関扉(玄関扉にあっては、錠及び内部塗装部分を除く。以下「開口部」という。)については、第7条第2項第二号及び第三号において専有部分に含まれないこととされていること、専有部分に属 さない「建物の部分」については、第8条に基づく別表第2において共用部分とされていることから、開口部は共用部分として扱うこととなる。
A また、区分所有法は、その形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更について、集会の普通決議により決することを定めている。
B 第1項は、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上のため行われる開口部の改良工事については、原則として、他の共用部分と同様に計画修繕の対象とすべき旨を規定したものである。
C 第2項は、開口部の改良工事については、治安上の問題を踏まえた防犯性能の向上や、結露から発生したカビやダニによるいわゆるシックハウス問題を改善するための断熱性の向上等、一棟全戸ではなく一部の住戸において緊急かつ重大な必要性が生じる場合もあり得ることに鑑み、計画修繕によりただちに開口部の改良を行うことが困難な場合には、専有部分の修繕等における手続と同様の手続により、各区分所有者の責任と負担において工事を行うことができるよう規定したものである。承認の申請先等は理事長であるが、承認、不承認の判断はあくまで理事会の決議によるものである(第54条第1項第五号参照)。
D また、第2項及び第3項は、マンションでは通常個々の専有部分に係る開口部(共用部分)が形状や材質において大きく異なるような状況は考えられないことから、当該開口部の改良工事についてもその方法や材質・形
状等に問題のないものは、施工の都度総会の決議を求めるまでもなく、専有部分の修繕等における手続と同様の手続により、各区分所有者の責任と負担において実施することを可能とする趣旨である。承認申請の対象範囲、審査する内容等の考え方については、別添2を参照されたい。
E 「共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するもの」の工事の具体例としては、防犯・防音・断熱性等により優れた複層ガラスやサッシ等への交換、既設のサッシへの内窓又は外窓の増設等が考えられる。
F 本条の規定のほか、具体的な工事内容、区分所有者の遵守すべき事項等詳細については、細則に別途定めるものとする。その際、上述の別添2の内容についても、各マンションの実情に応じて、参考にするとともに、必要に応じて、専門的知識を有する者の意見を聴くことが望ましい。
G 申請書及び承認書の様式は、専有部分の修繕に関する様式に準じて定めるものとする。
{設問-1}次の記述は、正しいか。
*共用部分の保存行為については、規約で定めれば、特定の区分所有者のみが行うこととすることができる。
答え:正しい。
原則共用部分の保存行為(現状維持)は、区分所有法第18条第1項により、各共有者でも行うことが可能であるが、区分所有法第18条2項によれば、共用部分の保存行為については、規約で別段の定めが許されているため、規約で定めれば、特定の区分所有者のみが行うこととすることができる。
{設問-2}あるマンションの管理組合の規約の定めに関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、次の記述は有効か。
*共用部分の管理に関する事項は、共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴わない場合には、理事会の決議で決する。
答え:有効である。
区分所有法第18条1項に「共用部分の管理に関する事項は、前条の場合(共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴う変更)の場合を除いて、集会の決議で決する」とされているが、同第2項において「規約による別段の定め」を認めていることから、
設問の「共用部分の管理に関する事項は、共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴わない場合には、理事会の決議で決する。」という規約の定めは有効である。
第十八条 |
3項 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。 |
過去出題 | マンション管理士 | H15年、 |
管理業務主任者 | 未記入 |
★前条第2項の規定=区分所有法第17条第2項:
前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
「B.狭義の管理」に準用。特定の専有部分の区分所有者に影響するときは、その影響をうける人の承諾が必要。多数の横暴が許されない。
「A.保存行為」は当然ここには該当しない。(影響を受ける人の承諾は不要。)
★特別の影響 〜ここでも既得権の保護〜
本第18条3項は共用部分の変更の場合に特別の影響を受ける者に対する承諾取得義務の準用規定です。
共用部分の狭義の管理行為と重大な変更行為では程度に差がありますが、特定の区分所有者に対する影響も狭義の管理行為でも発生する可能性がありますので、管理行為が特定の区分所有者に特別の影響、即ちその影響の受忍限度を超える場合には当該区分所有者の承諾が必要とされるのは当然でしょう。
その場合の判断基準等は前第17条2項の場合と同様です。
{判例}
「特別の影響を及ぼす」場合か否かの判断に当たっては、共用部分の変更又はそのための工事の必要性、合理性と、共用部分を変更することによって区分所有者の受ける不利益とを比較衡量し、不利益が受忍すべき程度を超えるか否かを基準に検討すべきである。
そして、共同市場における、通路の幅が狭くなる改修工事を「特別の影響」を及ぼさない、と判決した。(平成9年5月27日:神戸地裁)
判断の基準は、前の第17条2項を読んでください。
{設問}次の記述は正しいか。
*共用部分の管理(保存行為を除く。)に関する集会の決議が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければ、その決議は、無効となる。
答え:正しい。
区分所有法第18条3項によれば、同法第17条2項の準用で、共用部分の管理(保存行為を除く。)に関する集会の決議が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
第十八条 |
4項 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。 |
過去出題 | マンション管理士 | R03年、H20年、 |
管理業務主任者 | R01年、H26年、H22年、H16年、 |
*「みなし規定」とは...本当はそうではないものをそう扱う特別規定で、損害保険の付保契約は内容の如何にかかわらず、この規定により管理行為として扱われることになる。反論を許しません。(参考:推定する・・・反証があれば、変わることもある)
*共用部分の管理に関する事項...これにより、第17条で説明した「B.狭義の管理」と同じ扱いとなり、普通決議(過半数)で決められる。(「保存行為」ではないことに注意。)
規約で別段を定めてもいい。(第18条2項)
★損害保険契約の特則
第18条4項は、損害保険の契約行為を共用部分の管理行為とみなす規定です。
★損害保険の契約が条文として必要なわけ 〜 管理組合(団体)としての保険の名義人が必要 〜
損害保険とは、火災保険等のように偶然の事故で物に生じた損害を填補する保険をいいますが、その場合に保険金を受領できるのは被害者即ち物の所有者となります。
そこで誰が共用部分の所有者かが問題となります。
共用部分の所有者を団体である管理組合としないで、区分所有者の共有とした場合は、各区分所有者が個人として自己の保険金をそれぞれ請求することになります。
しかし、もともとこの共用部分にかけた保険金は事故で傷ついた共用部分の修復に使用されるべきものですから、この保険金の請求を区分所有者の団体である管理組合の事務として一括して請求できることがその目的に添う方法です。
このような理由により共用部分につき損害保険契約をすることを区分所有者の団体(管理組合)の管理事務であることを正面から認めて(みなす、とする限度ではありますが。)個々の区分所有者の請求を認めないとするのが、保険事項を管理事項(即ち管理組合の事務ということ。)とする本項の趣旨といえます。
そして、管理者(理事長)は、集会の決議により、管理組合の名において、損害保険会社との間で、損害保険契約を締結できます。(区分所有法第26条1項、2項参照)
<参照>区分所有法第26条 (権限)
第二十六条 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。
保険契約は、理事長名(xxマンション管理組合 理事長 yyyyy)で締結しますが、被保険者(保険の対象者)は、区分所有者全員となります。
************************************************
★損害保険について
マンションの共用部分に火災損害保険をする場合には、「上塗り基準」(上下階との床スラブ、隣との境界は共用部分で含まれる)が「壁芯基準」(上下階との床スラブ、隣との界壁は中心線を堺にしてそれぞれ専有部分となり、共用部分にならない)より望ましい。
また、「住宅総合保険」に入り、普通の「住宅火災保険」での補償内容である、@共用部分の建物が火災、落雷、破裂・爆風、風・ひょう・雪災による損害補償をうけ、臨時費用・残存物片付け費用・損害防止費用などをカバーし、その住宅火災保険にプラスして、A建物外部からの飛来・落下・衝突、騒じょう・集団行動・労働争議に伴う暴行・破壊、水漏れ損害、水災、盗難による建物損害の補償を受けるのが一般である。
★地震保険 〜単独では加入できない 〜
地震・噴火またはこれらによる津波を原因とした火災・損壊・埋没・流失による損害補償を受けるには、住宅火災保険(住宅総合保険)と共に地震保険に加入が必要となる。地震保険単独では入れないので注意のこと。
★個人賠償責任保険
不注意による漏水、ベランダからの落下物による駐車中の自動車への損害、ボール遊びでのエントランスのガラスを割ったなど、住戸の所有・使用・管理中の偶然な事故や、個人の日常生活での偶然な事故による損害賠償の補償がされる。
など、他にも特約で補償されるものや、機械設備の保険などもあるので、管理組合の実態にあった保険を選らぶこと。
★分譲開始時での保険契約
まだ、分譲が開始されたばかりのマンションでは管理組合も実態がなく、管理者(理事長)も選任されていませんが、入居者があれば、引越し作業でタイルが欠けたり、漏水や駐車場での損害事故などが発生します。
加害者が特定できれば、その加害者に賠償請求ができますが、加害者が不明な状態が発生します。これに備えるために、分譲会社から管理を委託されたマンション管理会社がマンションの管理組合名義で保険契約に加入しています。
時々、被保険者の名義が理事長に変更されていない場合もありますので、管理組合は確認が必要です。
また、保険契約の内容も、マンションの実情にあっているか、適宜チェックすることも必要です。
*****************************************************************************
★ あるマンション販売でのサンプル
「xxxxマンション」管理に係わる承認書
(売主) AA 株式会社
(管理会社) BB 管理 株式会社 御中
今般、土地付き区分所有建物「xxxxマンション」の売買契約締結に伴い、下記の事項を承認します。
− 記 −
対象物件: 名称 :「xxxxマンション」
所在地 :東京都千代田区・・・・
1. 別記 「xxxxマンション 管理規約」、 「同使用細則」、「同宅配ボックス使用細則」、「同駐輪場使用細則」、「同共用駐車場使用細則」、「同共用駐車場使用契約書(書式)」、「同共同バイク置場使用細則」、「同共同バイク置場使用契約書(書式)」案を原案の通り承認し遵守いたします。
なお、この規約に基づき、「xxxxマンション管理組合」に加入し、他の組合員と協議の上、規約に定める役員を選任することを承認します。
また、専有部分を第三者に貸与する場合は、その者にも、この規約及び使用細則等に定める事項を遵守させることを、誓います。
2. 管理規約による正規の管理者(理事長)が選任されるまでの間は、「BB 管理 株式会社」が管理組合の職務を代行することを承認します。
また、本物件の維持管理の必要上、あらかじめ備品として清掃用具、管理組合印及び理事長印、電話加入権(名義上は、「BB 管理 株式会社」にしますが、費用の負担及び実質上の権利者は、本物件の管理組合とします。)などの購入及び管理組合の預金口座の開設を承認します。
3. 本物件の駐輪場、駐車場及びバイク置場の当初の区割りについては、「売主 AA 株式会社」 の指定の方法によることを承認します。
4. 別記 「xxxxマンション 管理費予算見積書」及び「xxxxマンション 管理委託契約書」により、管理組合が「BB 管理 株式会社」に管理を委託することを承認します。
5. 対象物件に関し、売主又はその指定する者が、建物及び共用部分を、次の販売活動のために、無償使用することを承認します。 (規約x条a項参照)
ア.対象物件内に販売案内所及びモデルルームを設置し、それらに伴う案内板や看板等を設置すること。
イ.対象物件の外壁面等に販売に関する垂れ幕、看板等を設置すること。
6. 管理の開始後、売主による未販売住戸がある場合には、売主による管理基金・修繕積立基金(一時払い金)の納付は要しないことを承認いたします。(規約x条b項参照)
7. 対象物件の管理開始後、部分管理(暫定管理)があることを承認します。(規約x条c項参照)
8. 管理規約ならびに管理委託契約書への署名捺印を、本書の署名捺印をもって代えることを承認します。
以上
年 月 日
xxxxマンション 号室 区分所有者
氏名 印
共有者 氏名 印
*****************************************************************************
<参考>「標準管理規約(単棟型)」24条:(損害保険)
第24条 区分所有者は、共用部分等に関し、管理組合が火災保険、地震保険その他の損害保険の契約を締結することを承認する。
2 理事長は、前項の契約に基づく保険金額の請求及び受領について、区分所有者を代理する。
{設問−1}平成16年 管理業務主任者試験 「問39」
マンションの共用部分に係る損害保険に関する次の記述のうち、区分所有法の規定およびマンション標準管理規約の定めによれば、誤っているものはどれか。
*注:標準管理規約は平成28年3月に改正があり、解説において未対応があるので、注意のこと。(ピンク字が該当です。)
1 管理組合は、共用部分に係る火災保険その他の損害保険に係る業務を行う。
答え:正しい。 (マンション標準管理規約[単棟型]第32条第七号)
設問の「共用部分に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務」は、管理組合の行う業務として示されている。
2 共用部分に係る火災保険料その他の損害保険料は、管理費から充当する。
答え:正しい。 (マンション標準管理規約[単棟型]第27条第五号)
設問の「共用部分に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料」は、管理費から充当するものとされている。
3 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の保存行為とみなされる。
答え:誤り。管理に関する事項とみなす。 (区分所有法第18条第4項)
「共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす」と規定されている。設問の「共用部分の保存行為」とあるのは誤りである。
4 理事長は、共用部分に係る損害保険契約に基づく保険金額の請求及び受領について、区分所有者を代理する。
答え:正しい。 (区分所有法第26条第2項)
「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第18条第4項の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得の返還金の請求及び受領についても同様とする。」とある。そして、マンション標準管理規約[単棟型]第38条2項「理事長は、区分所有法に定める管理者とする。」とあり、理事長は区分所有法の管理者であり、区分所有者の代理人である。設問とおりに規定されている。
正解:3
{設問−2}平成29年 管理業務主任者試験 「問43」
【問 43】 次の記述のうち、「地震保険に関する法律」によれば、正しいものの組み合わせはどれか。
ア 地震保険は、地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害(政令に定めるものに限る。)をてん補することを内容とする損害保険である。
〇 正しい。
地震保険に関する法律からの出題とは、新しい。
地震保険に関する法律に目的等は、地震保険に関する法律第2条
「(定義)
第二条 この法律において「保険会社等」とは、保険業法(平成七年法律第百五号)第三条第五項の損害保険業免許若しくは同法第百八十五条第五項の外国損害保険業免許を受けた者若しくは同法第二百十九条第五項の免許を受けた者の社員(第九条の二において「保険会社」という。)又は他の法律に基づき火災に係る共済事業を行う法人で財務大臣の指定するものをいう。
2 この法律において「地震保険契約」とは、次に掲げる要件を備える損害保険契約(火災に係る共済契約を含む。以下同じ。)をいう。
一 居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的とすること。
二 地震若しくは噴火又はこれらによる津波(以下「地震等」という。)を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害(政令で定めるものに限る。)を政令で定める金額によりてん補すること。
三 特定の損害保険契約に附帯して締結されること。
四 附帯される損害保険契約の保険金額の百分の三十以上百分の五十以下の額に相当する金額(その金額が政令で定める金額を超えるときは、当該政令で定める金額)を保険金額とすること。
3 この法律において「保険」、「保険金」又は「保険責任」とあるのは、共済契約については、それぞれ「共済」、「共済金」又は「共済責任」と読み替えるものとする。」
とあり、
地震保険に関する法律第2条2項2号によれば、地震保険は、地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害(政令に定めるものに限る。)をてん補することを内容とする損害保険であるは、正しい。
イ 地震保険は、火災保険等特定の損害保険に附帯して締結され、地震保険単独での締結はできない。
〇 正しい。 地震保険は、単独では締結できない。
これは、知っている。
選択肢アで引用しました、地震保険に関する法律第2条2項3号
「三 特定の損害保険契約に附帯して締結されること」
とあり、
地震保険に関する法律第2条2項3号によれば、地震保険は、火災保険等特定の損害保険に附帯して締結され、地震保険単独での締結はできないは、正しい。
ウ 地震保険は、居住の用に供する建物のみを保険の目的とし、生活用動産を保険の目的とすることはできない。
X 誤っている。 居住の用に供する建物又は生活用動産のみが目的である。
設問は、 選択肢アで引用しました、地震保険に関する法律第2条2項1号、
「一 居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的とすること。」
とあり、
地震保険に関する法律第2条2項1号によれば、地震保険は、居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的としていますから、地震保険は、居住の用に供する建物のみを保険の目的とし、生活用動産を保険の目的とすることはできないは、誤りです。
なお、生活用動産とは、国税庁では、家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産としています。
エ 地震等により損害を受けた場合に支払われる保険金額は、損害の区分によって異なり、損害の区分として政令に定められているのは「全損」と「一部損」の2つである。
X 誤っている。 全損、大半損、小半損、一部損の4つがある。
地震保険で支払われる保険金は、地震保険の始期日が、平成29年(2017年)1月1日以降なら、地震保険に関する法律施行令第1条
「(填補される損害及び金額)
第一条 地震保険に関する法律(以下「法」という。)第二条第二項第二号に規定する政令で定める損害は、次の各号に掲げる損害とし、同項第二号に規定する政令で定める金額は、当該各号に掲げる損害の区分に応じ、当該各号に定める金額とする。
一 居住の用に供する建物(以下「居住用建物」という。)の全損(居住用建物の主要構造部の損害額が当該居住用建物の時価の百分の五十以上である損害又は居住用建物の焼失し若しくは流失した部分の床面積の当該居住用建物の延べ床面積に対する割合が百分の七十以上である損害をいう。) 保険金額の全額
二 居住用建物の大半損(居住用建物の主要構造部の損害額が当該居住用建物の時価の百分の四十以上百分の五十未満である損害又は居住用建物の焼失し若しくは流出した部分の床面積の当該居住用建物の延べ床面積に対する割合が百分の五十以上百分の七十未満である損害をいう。) 保険金額の百分の六十に相当する金額
三 居住用建物の小半損(居住用建物の主要構造部の損害額が当該居住用建物の時価の百分の二十以上百分の四十未満である損害又は居住用建物の焼失し若しくは流出した部分の床面積の当該居住用建物の延べ床面積に対する割合が百分の二十以上百分の五十未満である損害をいう。) 保険金額の百分の三十に相当する金額
四 居住用建物の一部損(居住用建物の主要構造部の損害額が当該居住用建物の時価の百分の三以上百分の二十未満である損害をいう。) 保険金額の百分の五に相当する金額
五 生活用動産の全損(生活用動産の損害額が当該生活用動産の時価の百分の八十以上である損害をいう。) 保険金額の全額
六 生活用動産の大半損(生活用動産の損害額が当該生活用動産の時価の百分の六十以上百分の八十未満である損害をいう。) 保険金額の百分の六十に相当する金額
七 生活用動産の小半損(生活用動産の損害額が当該生活用動産の時価の百分の三十以上百分の六十未満である損害をいう。) 険金額の百分の三十に相当する金額
八 生活用動産の一部損(生活用動産の損害額が当該生活用動産の時価の百分の十以上百分の三十未満である損害をいう。) 保険金額の百分の五に相当する金額
2 前項各号の「時価」とは、損害の発生する直前の保険の目的のその所在地における価額をいう。
3 第一項第一号から第四号までの居住用建物の主要構造部の損害額には、法第二条第二項第二号に規定する地震等(以下「地震等」という。)による損害が生じた居住用建物の原状回復のため地盤等の復旧に直接必要とされる最小限の費用を含むものとする。
4 地震等を直接又は間接の原因とする地すべりその他の災害による急迫した危険が生じたため居住用建物が居住不能のものとなつたときは、当該居住用建物は、第一項第一号に規定する全損に該当する損害を受けたものとみなす。
5 地震等を直接又は間接の原因とする洪水等による水災が発生したため居住用建物が床上浸水又はこれに準ずる損害で財務省令で定めるものを受けた場合(当該居住用建物が第一項第一号から第四号までに規定する全損、大半損、小半損又は一部損に該当する損害を受けた場合を除く。)には、当該居住用建物は、同号に規定する一部損に該当する損害を受けたものとみなす。」
とあり、
地震保険に関する法律施行令第1条1項によれば、居住の用に供する建物も生活用動産も「全損・大半損・小半損・一部損」の4段階に分けられ、この損害区分によって支払われる保険金額が決まっていますから、政令に定められているのは「全損」と「一部損」の2つであるは、誤りです。
なお、支払う地震保険料は、建物の構造と都道府県によって異なり(東京、千葉などは高く、岩手、鳥取などは安い)、損害区分の認定は損害保険会社が行い、それに従い、100%とか5%とかの契約金額が支払われます。
改正以前は、全損・半損・一部損の3段階でした。
1 ア・イ
2 ア・エ
3 イ・ウ
4 ウ・エ
答え:1 正しいのは、ア と イ 。
地震保険からの出題とは、まったく予想していなかった。 選択肢 ア と イ は正しいと分かるが、他の選択肢は、絞り込めない。
第十九条 |
各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。 |
過去出題 | マンション管理士 | H27年、H25年、H24年、H23年、H22年、H21年、H17年、H13年 |
管理業務主任者 | R03年、R02年、R01年、H30年、H28年、H26年、H25年、H24年、H23年、H19年、H14年、 |
*収取する...金品などをうけとること
本第19条も前の第12条で区分所有者全員の共有部分である「共用部分」については、民法の共有関係と異なった第13条から第19条までの規定を適用することにしたことを受けた最後の規定です。
★趣旨:
第19条は、1棟の建物を構成する専有部分を除いた共用部分は区分所有者全員の共有とされ(第11条1項)、その持分は原則として専有部分の床面積の割合によるとされていることから(第14条1項)、区分所有者全員が共用部分の共有者としてその管理にかかる費用を分担し、また共用部分の管理から利益が上がればそれを享受するという原則を宣言した規定です。
★共用部分の負担の内容
・主な共用部分の負担には管理費と修繕積立金がある
共用部分の負担とは、玄関や廊下など共用部分の清掃費・照明代・動力費・管理員人件費・エレベーターその他機器の保守・点検費等からなる管理費と、大規模・計画修繕費からなる修繕積立金のように共用部分を維持・保全・修繕・改良するための費用および共用部分に起因する不法行為の賠償金その他共用部分に関して発生する一切の責任をいいます。
なお、このような定義付けや「共用部分の負担」という文面からは管理や修繕に関する直接費用のみが本条に該当し、理事会の会議費や通信費等の組合の運営費的な費用や滞納された管理費等の徴収費用等の間接費については定めていないようにも思われますが、このような間接費も区分所有者に便益を与える一方、他に負担者がいないという点では共用部分の負担である直接費と同様ですから、これらの間接費用に関しても本条が準用又は類推適用され、それらの費用も持分に応じて全員で負担するものであると考えるべきでしょう。
★保存行為、狭義の管理行為、重大変更などの費用を、区分所有者全員で負担し、収益があればとる。規約で別段を定めてもいい。
なお、支払が遅れた管理費・修繕積立金などは債権なので、特定承継人(買った人など)にも請求ができる。
(*注)賃借人などの占有者は、区分所有者ではないので、管理費などの請求は当然できない。
規約でこの第19条と異なった負担割合は決めてもいいが、負担義務者は区分所有者以外に規約で定めても無効。
<参照> 第8条(特定承継人の責任)
★管理費用の負担割合の決め方
管理費用の負担は、規約に別段の定めがない限り、共用部分に対する各区分所有者の「持分に応じ」、分担されると区分所有法第19条に定められています。そして、この「持分」は、原則として専有部分の床面積の割合による(第14条1項)とされています。
この定め方は、固定資産税や、都市計画税などの負担割合においては、区分所有者も納得し易いのですが、他の点では問題もあります。
たとえば、エレベーターの運転経費については、持分ではなく、各区分所有者の使用頻度を基準に分担することも考えられないわけではありません。
しかし、純然たる使用回数などによるのは、理論的には公平かつ合理的と思われますが、現実問題としては、どの人が何回エレベーターに乗ったか、廊下を何回行き来したかなど、各区分所有者ごとの使用回数を正確に算定・記録することは24時間・365日のビデオ・カメラを設置すれば可能でしょうが、その家族や訪問者までを含むとなると、算定は経費面からも妥当ではありません。
また、例えば外灯の維持費に至っては、特定の区分所有者が、夜間外出しないこと等を理由に支払いを拒む事態さえ起こりかねません。
そこで区分所有法は、共用部分の負担につき、技術上の可能性および区分所有の全体的運営の視点に立ち、各人の持分を算定の基準とすることによって、区分所有者の円滑な継続を企図することになったのです。
これにより、1階の区分所有者が、自分はエレベーターに乗らないからエレベーターの保守管理費は払わないと主張は出来ませんし、夜間外出しない人が外灯の電気代の支払を拒否できません。
また、ごみの量が少ないから、管理費を他の人より減じてくれという要求も拒否できます。
★負担金の種類 〜@管理費 と A修繕積立金 がある〜
標準管理規約(単棟型)では、負担費用を清掃など通常の管理に使用する「管理費」と将来の修繕などに使用する「修繕積立金」とに分けて負担させています。
また、負担の基準は、専有部分の割合で、多くの場合分譲時に決められています。
<参考>標準管理規約(単棟型)25条:(管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
2. 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
<参考>「標準管理規約 第25条関係コメント
@ 管理費等の負担割合を定めるに当たっては、使用頻度等は勘案しない。
A 管理費のうち、管理組合の運営に要する費用については、組合費として管理費とは分離して徴収することもできる。
B 議決権割合の設定方法について、一戸一議決権(第46条関係A)や価値割合(第46条関係B)を採用する場合であっても、これとは別に管理費等の負担額については、第2項により、共用部分の共有持分に応じて算出することが考えられる。
C なお、管理費等の徴収や、滞納があった場合の取扱い等については、第 60条を参照のこと。
★規約で負担割合は変更できる
管理費用の負担は、第19条では「規約に別段の定めがない限り」、共用部分に対する各区分所有者の「持分(=専有部分の床面積の割合)に応じて」分担される、としていますので、規約で別段の定めをすることを認めています。
したがって、管理費用等の負担割合を各区分所有者が所有する専有部分の戸数の割合による旨規約に規定すれば、この規約の規定が優先し、管理費用等を専有部分の戸数で按分して負担することができます。
しかし、各区分所有者の専有面積がほぼ同じ大きさであればともかく、2倍、3倍と極端な差がある場合は、逆に不満がでやすいことを付記しておきます。
{判例-1}共用部分の管理費の負担割合をどのように定めるかは区分所有者内部の自治に委ねる性質の事項であるから、区分所有法第14条(旧:現第19条)は任意規定と解するのが相当であり、
集会の決議で持分割合のほか他の要素を加味した基準により管理費の負担割合を定めることもその内容が著しく不公正、不公平でない限り許されると解して妨げない。(東京高裁:昭和62年5月27日判決)
★管理組合が区分所有者や、状況によっては賃借人等の占有者から徴収する費用・利益(使用料)については、様々なものがあります。
代表的なものは、管理費、修繕積立金です。
その他、状況に応じて、集会所使用料、テニスコート使用料、掲示板使用料、駐輪場使用料、駐車場使用料、専用庭使用料、倉庫使用料、トランクルーム使用料等が発生するマンションもあるでしょう。
★管理費等は民法の不可分債務と解される
専有部分に通じる廊下、階段室など共用部分の維持・管理に必要な経費である、管理費や修繕積立金(管理費等)の支払い義務があるのは、区分所有者です。
管理費等は金銭債務ですが、その負担額の一部が支払われただけでは、共用部分の維持・管理の目的を達することができませんから、民法での「不可分債務」と解されて、各区分所有者はそれぞれが、負担する全額の支払義務を負います。(民法第430条、同法第432条参照)
専有部分が共有になっていれば、どちらかに対して、滞納している管理費等の全額または一部の支払いを請求できます。
<参照> 民法 第430条(不可分債務) (改正有)
第四百三十条 第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債務者があるときについて準用する。
<参照> 民法 第432条(連帯債権者による履行の請求等)(新設)
第四百三十二条 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
★管理費等が余っても、各区分所有者は返還請求や分配請求ができない
ここが、民法での共有と異なっている点です。
一度支払った、管理費や修繕積立金は、区分所有者の団体(管理組合)が法人化されていなくても、区分所有者の団体(区分所有法第3条参照)に「合有的に帰属して団体の財産を構成する」ため、そのマンションの区分所有者でなくなっても、今まで支払った積立金の返還請求はできないと考えられています。
★管理費と修繕積立金は分離して会計処理をすること
マンションでは、管理人の人件費、清掃代や備品・通信費などを一般的に管理費勘定とし、建物の定期的な修繕や災害による修繕に備えた修繕積立金勘定とは分けて会計処理を行います。
この分離会計制度により、各々の金額が明らかになり、修繕計画なども立てやすくなりました。
具体的な「管理費」と「修繕積立金」の内容は、標準管理規約(単棟型)では、次のようになっています。
<参考>「標準管理規約(単棟型)」における管理費の内容;(管理費)
第27条 管理費は、次の各号に掲げる通常の管理に要する経費に充当する。
一 管理員人件費
二 公租公課
三 共用設備の保守維持費及び運転費
四 備品費、通信費その他の事務費
五 共用部分等に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料
六 経常的な補修費
七 清掃費、消毒費及びごみ処理費
八 委託業務費
九 専門的知識を有する者の活用に要する費用
十 管理組合の運営に要する費用
十一 その他第32条に定める業務に要する費用(次条に規定する経費を 除く。)
(注:平成28年3月の改正前は、十 地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用 があったが削除された。)理由は、下のコメントA、Bを参考にしてください。
<参考>標準管理規約 27条関係 コメント;
@ 管理組合の運営に要する費用には役員活動費も含まれ、これについては一般の人件費等を勘案して定めるものとするが、役員は区分所有者全員の利益のために活動することに鑑み、適正な水準に設定することとする。なお、コメント第37条関係Aを参照のこと。
A 従来、本条第十号に掲げる管理費の使途及び第32条の管理組合の業務 として、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成 (に要する費用)」が掲げられていた。
これは、日常的なトラブルの未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するコミュニティ形成について、マンションの管理という管理組合の目的の範囲内で行われることを
前提に規定していたものである。
しかしながら、「地域コミュニティにも 配慮した居住者間のコミュニティ形成」との表現には、定義のあいまいさ から拡大解釈の懸念があり、とりわけ、管理組合と自治会、町内会等とを混同することにより、自治会費を管理費として一体で徴収し自治会費を払 っている事例や、自治会的な活動への管理費の支出をめぐる意見対立やトラブル等が生じている実態もあった。
一方、管理組合による従来の活動の中でいわゆるコミュニティ活動と称して行われていたもののうち、例えば、マンションやその周辺における美化や清掃、景観形成、防災・防犯活動、生活ルールの調整等で、その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動は、それが区分所有法第3条に定める管理組合の目的である「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の範囲内で行われる限りにおいて可能である。
以上を明確にするため、第十号及び第32条第十五号を削除するとともに、第32条第十二号を「マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」と改めることとした。
また、従来、第十二号に「その他敷地及び共用部分等の通常の管理に要する費用」が掲げられていたが、第32条に定める業務との関連が不明確であったことから、「その他第32条に定める業務に要する費用(次条に規定する経費を除く。)」と改めることとした。
上述の第32条第十二号 の業務に要する費用は、本号あるいは別の号の経費として支出することが可能である。
B 管理組合は、区分所有法第3条に基づき、区分所有者全員で構成される強制加入の団体であり、居住者が任意加入する地縁団体である自治会、町内会等とは異なる性格の団体であることから、管理組合と自治会、町内会等との活動を混同することのないよう注意する必要がある。
各居住者が各自の判断で自治会又は町内会等に加入する場合に支払うこととなる自治会費又は町内会費等は、地域住民相互の親睦や福祉、助け合い等を図るために居住者が任意に負担するものであり、マンションを維持
・管理していくための費用である管理費等とは別のものである。 自治会費又は町内会費等を管理費等と一体で徴収している場合には、以下の点に留意すべきである。
ア 自治会又は町内会等への加入を強制するものとならないようにすること。
イ 自治会又は町内会等への加入を希望しない者から自治会費又は町内会費等の徴収を行わないこと。
ウ 自治会費又は町内会費等を管理費とは区分経理すること。
エ 管理組合による自治会費又は町内会費等の代行徴収に係る負担について整理すること。
C 上述のような管理組合の法的性質からすれば、マンションの管理に関わりのない活動を行うことは適切ではない。例えば、一部の者のみに対象が 限定されるクラブやサークル活動経費、主として親睦を目的とする飲食の
経費などは、マンションの管理業務の範囲を超え、マンション全体の資産価値向上等に資するとも言い難いため、区分所有者全員から強制徴収する 管理費をそれらの費用に充てることは適切ではなく、管理費とは別に、参
加者からの直接の支払や積立て等によって費用を賄うべきである。
新しく地域コミュニティーの概念が管理費に入ってきたことに注意。 (平成28年 3月14日の改正では、地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用 が削除された。)
マンション全体で加入する町会費と個人で加入する町会費では扱いが異なる。
★町会費を管理費と共に徴収するには、注意が必要。
標準管理規約では、新しくマンションの居住者も「地域コミュニティー」に積極的に参加を勧めていますが、 判例は管理費と共に町会費(自治会費)をとることはできないといっています。
{平成19年8月7日判決言渡:東京簡易裁判所:町内会費相当額を管理組合費に含めて徴収することを管理規約等で定めても、拘束力はないとされた事例。また平成17年04月26日
最高裁第三小法廷判決もある。 }
<参考>「標準管理規約(単棟型)」における修繕積立金の内容;(修繕積立金)
第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。) に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
2 前項にかかわらず、区分所有法第62条第1項の建替え決議(以下「建替え決議」という。)又は建替えに関する区分所有者全員の合意の後であっても、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(平成14年法律第
78号。以下「円滑化法」という。)第9条のマンション建替組合の設立の認可又は円滑化法第45条のマンション建替事業の認可までの間において、建物の建替えに係る計画又は設計等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、修繕積立金から管理組合の消滅時に建替え
不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、修繕積立金を取り崩すことができる。
3 第1項にかかわらず、円滑化法第108条第1項のマンション敷地売却決議(以下「マンション敷地売却決議」という。)の後であっても、円滑化法第120条のマンション敷地売却組合の設立の認可までの間において、マンション敷地売却に係る計画等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、修繕積立金から管理組合の消滅時にマンション敷地売却不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、修繕積立金を取り崩すことができる。
4 管理組合は、第1項各号の経費に充てるため借入れをしたときは、修繕積立金をもってその償還に充てることができる。
5 修繕積立金については、管理費とは区分して経理しなければならない。
注:マンションの建替え等の円滑化に関する法律の改正により、マンション敷地売却決議が新しく追加になった。
<参考>標準管理規約第28条関係コメント
@ 対象物件の経済的価値を適正に維持するためには、一定期間ごとに行う計画的な維持修繕工事が重要であるので、修繕積立金を必ず積み立てることとしたものである。
A 分譲会社が分譲時において将来の計画修繕に要する経費に充当していくため、一括して購入者より修繕積立基金として徴収している場合や、修繕時に、既存の修繕積立金の額が修繕費用に不足すること等から、一時負担金が区分所有者から徴収される場合があるが、これらについても修繕積立金として積み立てられ、区分経理されるべきものである。
B 円滑化法に基づく建替組合によるマンション建替事業における建替えまでのプロセスの概要は、円滑化法の制定を踏まえ作成された「マンション の建替えに向けた合意形成に関するマニュアル」(平成15年1月国土交通
省公表)によれば、次のとおりである。
A.建替え決議までのプロセス
(ア)準備段階:一部の区分所有者から建替えの発意がなされ、それに賛同する有志により、建替えを提起するための基礎的な検討が行われる段階であり、「管理組合として建替えの検討を行うことの合意を得る
こと」を目標とする。
(イ)検討段階:管理組合として、修繕・改修との比較等による建替えの必要性、建替えの構想について検討する段階であり、「管理組合として、建替えを必要として計画することの合意を得ること」を目標とする。
(ウ)計画段階:管理組合として、各区分所有者の合意形成を図りながら、建替えの計画を本格的に検討する段階であり、「建替え計画を策定するともに、それを前提とした建替え決議を得ること」を目標とす
る。
B.建替え決議後のプロセス
(ア)建替組合の設立段階:定款及び事業計画を定め、都道府県知事等の認可を受けて建替組合を設立する段階。
(イ)権利変換段階:権利変換計画を策定し、同計画に関し都道府県知事等の認可を受け、権利変換を行う段階。
(ウ)工事実施段階:建替え工事を施工し、工事完了時にマンション建替事業に係る清算を行う段階。
(エ)再入居と新管理組合の設立段階:新マンションに入居し、新マンションの管理組合が発足する段階。
C Bのプロセスのうち、BのA(イ)及び(ウ)の段階においては、管理組合が建替えの検討のため、調査を実施する。調査の主な内容は、再建マンシ ョンの設計概要、マンションの取壊し及び再建マンションの建築に要する費用の概算額やその費用分担、再建マンションの区分所有権の帰属に関する事項等である。
D Bのプロセスのうち、BのB(ア)の段階においても、修繕積立金を取り崩すことのできる場合があることを定めたのが第2項である。
E Bのプロセスによらず、円滑化法第45条のマンション建替事業の認可に基づく建替え、又は区分所有者の全員合意に基づく任意の建替えを推進する場合であっても、必要に応じて、第1項及び第2項、又は第2項と同様の方法により、修繕積立金を取り崩すことは可能である。ただし、任意の組織に関しては、その設立時期について管理組合内で共通認識を得ておくことが必要である。
F 円滑化法に基づくマンション敷地売却組合によるマンション敷地売却事業のプロセスの概要は、平成26年の円滑化法の改正を踏まえ作成された 「耐震性不足のマンションに係るマンション敷地売却ガイドライン」(平成26年12月国土交通省公表)を参考とされたい。この場合にも、建替えの場合と同様に、第1項及び第3項に基づき、必要に応じて、修繕積立金を取り崩すことは可能である。
G 建替え等に係る調査に必要な経費の支出は、各マンションの実態に応じ て、管理費から支出する旨管理規約に規定することもできる。
★管理費・修繕積立金の額はだれが決めるのか
新規に分譲されたマンションでも入居時において、管理費と修繕積立金の額や駐車場使用料などが既に決められています。
一般に、管理費については、マンション分譲会社が管理委託会社に清掃・エレベーター保守など管理費の見積もりを出させ総額を把握し、各戸の専有部分の面積割合で按分する方法がとられています。
一方、修繕積立金は、内容が将来に渡り不確かな要素が多いため、 概算で設定され、これも各戸の専有部分の面積で按分されます。
共に、当初の管理費と修繕積立金の額は分譲会社が決めますが、暫定的な内容であるため、分譲後の会計(収支報告書)により、実際の数値での赤字・黒字を精査して、管理費・修繕積立金の精度を高める必要があります。
管理費の方は現実的な数値があるので、極端な差異は生じないでしょうが、修繕積立金については、長期修繕計画を検討し金額の修正が必要となることがかなりあります。
これは、マンション分譲会社が販売時での必要経費を少なく見せる販売方法にも問題がありますが、分譲後は、区分所有者の責任で必要に応じ金額の変更を行います。
★修繕費の徴収 〜修繕積立金の徴収方法〜
マンションだけでなく建物や設備は必ず経年により、外壁にひびが入ったり、屋上の防水層が劣化して雨漏りがしたり、排水設備も詰まったりします。
また、地震や火災などによる不測の事態による建物や共用設備の損壊もあるでしょう。
これら物理的な原因での修繕だけでなく、生活様式や社会環境の変化により、建物や設備を以前よりもよくするための修繕もあります。
これらの修繕において必要とされる費用は区分所有者の負担となります。
しかし、これらの修繕工事で必要とされる費用は多額となりますから、工事を実施する際に費用を一括で区分所有者から徴収するとなると、区分所有者の負担が大きくて、費用の負担ができない区分所有者が現れて工事費用不足で必要な工事ができないという事態になりかねません。
そこで、将来予想される建物の定期的な修繕や災害による修繕に備え、また耐震性・防犯性の増強などの機能や設備の向上に対し、必要と見込まれる修繕工事の費用を計画的に毎月積み立てて、修繕工事費不足で必要な工事ができないような事態を防ぐための方法として、多くの管理組合では修繕積立金方式が採用されています。
修繕費用を徴収する方法としては、工事の必要な時に一時的に徴収する「一時金方式」もありますが、一定の金額を毎月積み立てる方法として、次のような2方式が考えられます。
@単純均等積立方式...想定される修繕費用の総額を計画期間で均等に割って、毎月均等な金額を積み立てる。
A段階増額積立方式...建物等の調査・劣化診断を定期的(5年程度ごと)に行い修繕計画を定期的に見直し、費用を段階的に改定して積み立てる。
現在、長期修繕計画は、5年程度で見直すことが国土交通省などからも推奨されていますし、工事のやり方も技術革新により必要とされる単価も変動することも考えると、Aの段階的に均等で積み立てる方式がいいと思います。
★参考までに...国土交通省の調査によると、(平成17年 303件)、修繕積立金の 月 徴収額 ¥9,826/月・戸、 専有面積当たり、 ¥131/月・u とのことです。
また、平成21年に発表された、国土交通省の平成20年実施の「マンション総合調査」、さらに、平成25年実施のデータは、以下のようになっています。
そして、平成30年度のデータ(平成31年4月公表)も入れました。
月:戸当たり | 項目 | 平成15年 | 平成20年 | 増減 | 平成25年 | 平成30年 |
管理費 | ¥12,565 | ¥15,848 | +¥3,283 | ¥15,257 | ¥15,956 | |
修繕積立金 | ¥10,967 | ¥11,877 | +¥910 | ¥11,800 | ¥11,243 |
<参考>標準管理規約(単棟型) 61条:(管理費等の過不足)
第61条 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する。
2. 管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。
★支払が遅れた時の債務(滞納管理費等)の消滅時効期間 〜 10年か 5年か → 5年で決着
以下の解説は、、民法の改正(2020年4月1日施行)前の解説です。
ご参考までに。
---------------------------------------------------------------
管理費や修繕積立金として具体化された管理組合へ納入すべき債権に関し、滞納があった場合に、その消滅時効期間について定期給付債権(民法 旧:第169条)に該当し5年間とする考えと、一般債権(民法 旧:第167条1項)に該当して10年間とする考えがありました。
しかし、現在では、平成16年4月23日の最高裁判所の判決 により、滞納管理費などの請求は”5年”で消滅時効となっています。
<参照>
民法 旧:第169条 (削除され、別に新設された)
(定期給付債権の短期消滅時効)
第百六十九条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
民法 旧:第167条 (削除され、別に新設された)
(債権等の消滅時効)
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
定期給付債権とは、地代家賃や年金のように原則として毎月定期的に支払がなされる債権であり、怠られがちであると共に支払い証書が債務者の手元にないことが一般のため債務者を保護の目的で短期:5年の消滅時効を認められたものです。
◎この債権の扱いが論点となった事件の高裁判決では10年説が採られましたが、その上告審の最高裁判決では定期給付債権だとして5年説が採られ、5年で確定しました。(平成16年4月23日:最高裁)
★修繕積立金も5年の消滅時効でいいのか?
一応、最高裁の判決で、管理費等の消滅時効は、5年となりましたが、修繕積立金については、その性質が、一次的な修理においても徴収されることがあるなど定期金でないこともあるため、管理費とまとめて、5年の消滅時効にしていいかは、疑問があります。
---------------------------------------------------------------
★滞納管理費等の請求裁判では、まだ発生していない管理費等(将来の給付)でも支払い請求が認められることもある
管理費等が滞納となり、その支払いを求める訴訟においては、滞納しているという事実は当事者(管理組合と滞納区分所有者間)ではほとんど争いがありません。
そこで、滞納の常習者となると、管理組合は、滞納が発生するたびに、滞納管理費等の請求訴訟を起こして、遅延損害金等も含めた滞納管理費等を支払えという確定判決を貰うことになるわけですが、これでは、面倒ですから、1つの裁判で、滞納した管理費等の請求と共に「被告は、区分所有権を失うまで(管理組合員でなくなるまで)、毎月末までに、1ヶ月分の管理費等を支払え」という、現在は請求できませんが,期限が到来したとき,または,条件が成就したとき,支払うようにあらかじめ判決主文で認める「将来の給付」も請求する訴訟もあります。
「将来の給付」を求める必要性については、裁判所でも厳格な判断がなされますが、該当の滞納者の過去の滞納状況がひどいと、かなりの裁判においても、「将来の給付」も認められています。(東京地裁:平成10年4月14日。東京地裁:平成15年11月28日。東京地裁:平成18年12月25日)
滞納常習者に対しては、まだ発生していない管理費等(将来の給付)の支払い請求を過去の滞納金額の請求に併せてしてもいいようです。
<参考> 民事訴訟法第135条
(将来の給付の訴え)
第百三十五条 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。
{設問−1} 平成26年管理業務主任者試験 「問42」
【問 42】 マンションの共用部分に係る損害保険に関する次の記述のうち、区分所有法及びマンション標準管理規約によれば、最も不適切なものはどれか。
(*注:標準管理規約は平成28年3月に改正があり、解説において未対応がありますので、注意してください。) (規約のピンク字が該当箇所です。)
1 共用部分について、損害保険契約を締結することは、共用部分の管理に関する事項とみなされる。
○ 適切である。管理に関する事項とみなしている。 平成22年管理業務主任者試験 「問3」。
共用部分について、損害保険契約を締結することは、区分所有法18条4項
「(共用部分の管理)
第十八条 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
4 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。」 とあり、
4項に該当し、 共用部分の管理に関する事項とみなすは、正しい。
2 管理規約において、共用部分について、管理組合が損害保険契約の締結をすることが定められていても、損害保険契約を締結するにあたっては、別途、集会決議が必要である。
X 適切でない。 規約で定められていれば、別途、集会の決議は不要。
選択肢1でも引用しましたように、「共用部分について、損害保険契約を締結することは、共用部分の管理に関する事項とみなされ」ると、
区分所有法第18条2項
「2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。」 により、
前項の規定は区分所有法第17条
「(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
」 となり、規約があれば、毎回集会の決議は不要です。
そこで、標準管理規約24条1項
「(損害保険)
第24条 区分所有者は、共用部分等に関し、管理組合が火災保険、地震保険その他の損害保険の契約を締結することを承認する。
2 理事長は、前項の契約に基づく保険金額の請求及び受領について、区分所有者を代理する。」 とありますから、
適切です。
3 理事長(区分所有法で定める管理者)は、共用部分に係る損害保険契約に基づく保険金の請求及び受領について、区分所有者を代理する。
○ 適切である。
設問は、まず管理者の代理は、区分所有法第26条
「(権限)
第二十六条 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。
」 とあり、
2項によれば、管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理していますし、共用部分に係る損害保険契約に基づく保険金の請求及び受領についても、同様に区分所有者を代理していますから、適切です。
また、標準管理規約24条
「(損害保険)
第24条 区分所有者は、共用部分等に関し、管理組合が火災保険その他の損害保険の契約を締結することを承認する。
2 理事長は、前項の契約に基づく保険金額の請求及び受領について、区分所有者を代理する。」 とあり、
2項により、適切です。
なお、管理組合の理事長は、標準管理規約38条(該当の条文:2項は、平成28年3月の改正でも変更なし。)
「(理事長)
第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
一 規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
二 理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3 理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4 理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。」 とあり
2項により、区分所有法で定める管理者です。
4 共用部分に係る損害保険料は、規約に別段の定めがない限り、専有部分の床面積の割合に応じて負担する。
○ 適切である。
まず、共用部分に係る損害保険料は、区分所有法第19条、
「(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。 」 とあり、
共用部分に係る損害保険料などの負担金は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて負担します。
そこで、原則は、区分所有法第14条
「(共用部分の持分の割合)
第十四条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
2 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき
各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。
3 前二項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。
4 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。」 とあり、
1項により、 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合ですから、正しい。
なお、標準管理規約25条(該当の条文は、平成28年3月の改正でも変更なし。)
「(管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。」 ともあります。
答え:2。 ここも、難しくない出題です。
******************************************
★債権(滞納管理費・修繕積立金など)の回収方法
管理費等が滞納(債務不履行)になると、その回収策として、まず、一般には、電話や手紙、訪問などの督促を行います。しかし、それでも滞納金の回収ができないときは、少額訴訟制度(訴額60万円以下)や支払督促の制度(簡易裁判所書記官に申し立て)、など通常の訴訟などの裁判での回収となります。
また、滞納管理費の他に遅延損害金(民法第415条)や督促にかかった電話代、訴訟費用なども加算して滞納者に請求できます。
この滞納した管理費等は、金銭債務の不履行による訴訟であるため、損害賠償として弁護士費用を含めて請求できるかは争いがあります。
弁護士費用を含めて請求できるとの管理規約があれば、弁護士費用を含めて請求できると解する説が有力です。
遅延損害金の利率は、管理規約で決めることができ、特に管理規約で定めが無いときは、法定利率の年3%(改正5%。民法第404条))を請求できますが、管理規約で多少多めに設定し滞納防止策とすることもできます。(参考:国税の滞納した場合;14.6%)
◎駐車場使用契約の解除も考えること。
通常、管理費や修繕積立金と駐車場使用料も一括して、組合員の預金口座から管理組合の口座に振り替える収納方法をとっていますから、管理費などの滞納があると、駐車場を利用している場合は駐車場使用料も共に滞納になるケースが一般です。
この場合、早期に駐車場使用契約も解除して、滞納金額が大きくならないようにします。
滞納した管理費や修繕積立金については、特定承継人(滞納者から、該当の専有部分を後で購入した人)も、その滞納した管理費や修繕積立金の支払いの責任を有しますが(第8条参照)、滞納した駐車場使用料については、特定承継人には支払いの義務がないと考えられますから、早期の対応が肝心です。
★滞納者に対する回収の方法
滞納が発生しますと、目安として、滞納期間が3ヶ月以内では、穏やかな回収方法として電話や対面、通常の文章での支払い督促を行い、それでも回収がされずに、4ヶ月を過ぎた頃からは、理事長(管理組合)名でのやや厳しい内容での支払い勧告と滞納がもたらす今後の状況が裁判などにもなるとの警告を行います。
この間、常に滞納者の状況を検討し、回収ができない場合も想定して、少額訴訟(訴額60万円以下)、支払督促制度など法的措置の行使を考えます。
そして、滞納期間が6ヶ月になる前に、法的措置をとるのか、現在の方法で当分様子を見るのか、滞納者の状況を検討し、理事会での対応方針を固めるといいでしょう。
◎対面での督促は勇気がいる
回収業務に直接タッチしていない、解説本の著者や弁護士は簡単に訪問して督促しなさいなんて、いいますが、対面での督促は、滞納者が暴力団関係などであることも多く、普通のマンションの管理組合の役員では簡単にはできません。
暴力行為や脅迫的な言動も受けることもあります。
このため、管理会社もできるだけ、訪問しての督促は避けたがります。
滞納者としては、自分が滞納しているのは分かっているため、できるだけ督促者の言葉じりを捉えて、少しでも自分に有利な状態にもっていこうとします。
対面での督促は、絶対一人では行わないでください。必ず、二人以上で対面し、記録を残してください。
◎督促の記録をとっておくこと
滞納の当初は回収できると思っていますが、多くの滞納者(平成15年で滞納戸数は32%もある。平成25年度の調査では、37.0%))は、請求すると払うというものの、実際は支払いがありません。
将来の訴訟を見据え、戸別の督促記録簿を作り対応します。
督促記録簿の内容としては、日時、電話・手紙・訪問の区別、督促の内容、相手の回答内容を記載しておきます。
★マンションの管理費・修繕積立金の滞納の時効は5年(民法改正前)である。
管理費や修繕積立金の請求権は5年で時効が完成し、請求できなくなりますので、注意してください。
管理費等は民法 旧:第169条所定の定期給付債権に当たるとして、時効が成立することが認められています(平成16年4月23日:最高裁判決)。
◎民法改正(施行:2020年4月1日)に伴うマンションの管理費や修繕積立金の時効について
民法が改正・施行される2020年4月1日までは、マンションの管理費や修繕積立金の時効は、5年の判例がありますが、改正民法では、裁判の基本となった民法第169条を含む時効関係の条文が大きく変更になり、削除されたり条文が変わっています。
民法改正で管理費や修繕積立金の時効に関係する条文は、以下の通りです。
<参考> 改正後の民法、時効関係
民法第166条
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる
民法の改正により、管理費や修繕積立金も一般の「債権」として扱われることになり、改正民法第166条1項により
「債権者が権利を行使することができることを知った時」は、通常「債権が発生した時」からとなり、該当の管理費や修繕積立金の滞納発生時点から、5年間行使しないときには、消滅時効となりますから注意してください。
★滞納者氏名の公表はできるか
管理費・修繕積立金の滞納金は会計処理では、発生主義により「未収入金」として表されます。
月次の会計処理により、滞納者氏名も当然に把握され、督促もされます。
滞納は、多くの場合、理事会での対応となりますが、総会での会計報告事項ともなります。
この場合、一部の管理規約では、滞納者氏名の公表を認めている規定もありますが、プライバシー保護の観点から、総会での決算報告では氏名の公表は避ける方がいいと思います。
<参考>標準管理規約(単棟型) 60条:(管理費等の徴収)
第60条 管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使 用料について、組合員が各自開設する預金口座から口座振替の方法により 第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。
2 組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対し て請求することができる。
3 管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。
4 理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。
5 第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
6 組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。
<参考>「標準管理規約 第60条関係コメント
@ 管理費等に関し、組合員が各自開設する預金口座から管理組合の口座に 受け入れる旨を規定する第1項の規定は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則(平成13年国土交通省令第110号。以下「適
正化法施行規則」という。)第87条第2項第一号イの方法(収納口座の名義人を管理組合又は管理者とする場合に限る。)又は同号ハの方法を前提とした規定であり、これ以外の方法をとる場合には、その実状にあった規定とする必要がある。その際、管理費等の管理をマンション管理業者に委託する場合には、適正化法施行規則第87条第2項に定める方法に則した管理方法とする必要がある。
A 徴収日を別に定めることとしているのは、管理業者や口座(金融機関) の変更等に伴う納付期日の変更に円滑に対応できるようにするためである。
B 管理費等の確実な徴収は、管理組合がマンションの適正な管理を行う上での根幹的な事項である。管理費等の滞納は、管理組合の会計に悪影響を及ぼすのはもちろんのこと、他の区分所有者への負担転嫁等の弊害もある
ことから、滞納された管理費等の回収は極めて重要であり、管理費等の滞納者に対する必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要 な職務の一つであるといえる。管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について段階的にまとめたフローチャート及びその解説を別添3に掲
げたので、実務の参考とされたい。
C 滞納管理費等に係る遅延損害金の利率の水準については、管理費等は、 マンションの日々の維持管理のために必要不可欠なものであり、その滞納 はマンションの資産価値や居住環境に影響し得ること、管理組合による滞
納管理費等の回収は、専門的な知識・ノウハウを有し大数の法則が働く金融機関等の事業者による債権回収とは違い、手間や時間コストなどの回収コストが膨大となり得ること等から、利息制限法や消費者契約法等におけ
る遅延損害金利率よりも高く設定することも考えられる。
D 督促及び徴収に要する費用とは、次のような費用である。
ア)配達証明付内容証明郵便による督促は、郵便代の実費及び事務手数料
イ)支払督促申立その他の法的措置については、それに伴う印紙代、予納切手代、その他の実費
ウ)その他督促及び徴収に要した費用
E 第2項では、遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することが「できる」 と規定しているが、これらについては、請求しないことについて合理的事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられる。
★少額訴訟制度について (時々、マンション管理士・管理業務主任者の試験で出題があるので、ここで解説します。)
少額訴訟の制度は、民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1期日の審理(1回の口頭弁論期日で審理を完了する)で即決判決・一審限りで紛争解決を図る手続です。
迅速・簡便・低費用での強制執行手続きを目指して、平成16年の改正で、簡易裁判所およびその裁判所書記官を執行機関として行えるようにしました。
具体的には、民事訴訟法 第6編 第368条〜第381条に定められています。
◎訴額の合計は、60万円以下の金銭債権に限る。
訴額が60万円以下の金銭債権だけを対象とし、複雑な状況が想定される不動産執行や動産に対する執行は認められていません。(民事訴訟法第368条)
また、同一の年で利用できるのは、貸金業者等の乱用を防ぐためか、10回までとなっていて、この利用回数は届け出ます。回数で虚偽の届出をすると、10万円以下の過料となります。(民事訴訟法第381条)
訴状(請求の趣旨)もある程度定型化したサンプルが簡易裁判所に用意されており、裁判というと初めて経験する人は腰が引けるかも知れませんが、弁護士等の裁判の専門家に依頼しなくても争いを解決できますので、「マンション管理士 香川事務所」 に相談してください。
<参照>民事訴訟法第368条 :(少額訴訟の要件等)
第三百六十八条 簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数(注:10回)を超えてこれを求めることができない。
2 少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない。
3 前項の申述をするには、当該訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数を届け出なければならない。
<参照>民事訴訟法第381条 :(過料)
第三百八十一条 少額訴訟による審理及び裁判を求めた者が第三百六十八条第三項の回数について虚偽の届出をしたときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。
2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
3 第百八十九条の規定は、第一項の規定による過料の裁判について準用する。
即時解決を目指すため、証拠書類や証人は、審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られます。
そのため、攻撃防御の方法は、すべて、口頭弁論期日の前、またはその期日において提出をします。(民事訴訟法第370条)
<参照>民事訴訟法第370条 :(一期日審理の原則)
第三百七十条 少額訴訟においては、特別の事情がある場合を除き、最初にすべき口頭弁論の期日において、審理を完了しなければならない。
2 当事者は、前項の期日前又はその期日において、すべての攻撃又は防御の方法を提出しなければならない。ただし、口頭弁論が続行されたときは、この限りでない。
また、被告が、口頭弁論終結前に同じ裁判の中で、原告を相手方として新たに提起する訴え(反訴)はできません。(第369条)
<参照>民事訴訟法第369条 :(反訴の禁止)
第三百六十九条 少額訴訟においては、反訴を提起することができない。
当事者等の申し出があると、電話会議で、証人を尋問することもできます。(民事訴訟法第372条3項。民事訴訟法規則第226条)
<参照>民事訴訟法第372条 :(証人等の尋問)
第三百七十二条 証人の尋問は、宣誓をさせないですることができる。
2 証人又は当事者本人の尋問は、裁判官が相当と認める順序でする。
3 裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方と証人とが音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、証人を尋問することができる。
◎通常の訴訟への移行
民事訴訟法第368条1項によれば、特に滞納額が60万円以下でも、この「少額訴訟制度」によることを強制されていませんから、1日で終わりそうもない場合とか、相手(被告)が希望すれば、通常の訴訟に移ることもあります。
また、原告が少額訴訟手続きを選択しても、被告には、通常の三審制の裁判審理を求めることができます。(民事訴訟法第373条)
<参照>民事訴訟法第373条 :(通常の手続への移行)
第三百七十三条 被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。ただし、被告が最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をし、又はその期日が終了した後は、この限りでない。
2 訴訟は、前項の申述があった時に、通常の手続に移行する。
3 次に掲げる場合には、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。
一 第三百六十八条第一項の規定に違反して少額訴訟による審理及び裁判を求めたとき。
二 第三百六十八条第三項の規定によってすべき届出を相当の期間を定めて命じた場合において、その届出がないとき。
三 公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないとき。
四 少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき。
4 前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
5 訴訟が通常の手続に移行したときは、少額訴訟のため既に指定した期日は、通常の手続のために指定したものとみなす。
◎判決の言渡し
審理が完了しますと、直ちに(1時間程度)判決が言い渡されます。(民事訴訟法第374条1項)
<参照>民事訴訟法第374条 :(判決の言渡し)
第三百七十四条 判決の言渡しは、相当でないと認める場合を除き、口頭弁論の終結後直ちにする。
2 前項の場合には、判決の言渡しは、判決書の原本に基づかないですることができる。この場合においては、第二百五十四条第二項及び第二百五十五条の規定を準用する。
被告の資力の状況によっては、判決の言い渡しの日から3年を超えない範囲で支払の猶予もあります。(民事訴訟法第375条)
<参照>民事訴訟法第375条 :(判決による支払の猶予)
第三百七十五条 裁判所は、請求を認容する判決をする場合において、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決の言渡しの日から三年を超えない範囲内において、認容する請求に係る金銭の支払について、その時期の定め若しくは分割払の定めをし、又はこれと併せて、その時期の定めに従い支払をしたとき、若しくはその分割払の定めによる期限の利益を次項の規定による定めにより失うことなく支払をしたときは訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをすることができる。
2 前項の分割払の定めをするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならない。
3 前二項の規定による定めに関する裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
◎少額訴訟の判決に対する異議(不服)申立て
少額訴訟の判決に対しては、別の上級裁判所に対する控訴ができません(民事訴訟法第377条)が、判決書又は調書の送達を受けた日から2週間内なら、その裁判所に対して不服として異議(上級裁判所に対する上訴ではありません)は申立てられます。(民事訴訟法第378条)
<参照>民事訴訟法第377条 :(控訴の禁止)
第三百七十七条 少額訴訟の終局判決に対しては、控訴をすることができない。
<参照>民事訴訟法第378条 :(異議)
第三百七十八条 少額訴訟の終局判決に対しては、判決書又は第二百五十四条第二項(第三百七十四条第二項において準用する場合を含む。)の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、その期間前に申し立てた異議の効力を妨げない。
2 第三百五十八条から第三百六十条までの規定は、前項の異議について準用する。
◎差押えと取立て 〜民事執行法へ〜
少額訴訟に係る確定判決や仮執行宣言付少額訴訟の判決により、「債務名義」が成立しますと、少額訴訟債権執行の申立てができ、裁判所書記官の差押え処分が開始され、取立てとなります。(民事執行法第167条の2。167条の5 1項)
<参照>民事執行法第167条の2 :(少額訴訟債権執行の開始等)
第百六十七条の二 次に掲げる少額訴訟に係る債務名義による金銭債権に対する強制執行は、前目の定めるところにより裁判所が行うほか、第二条の規定にかかわらず、申立てにより、この目の定めるところにより裁判所書記官が行う。
一 少額訴訟における確定判決
二 仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決
三 少額訴訟における訴訟費用又は和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分
四 少額訴訟における和解又は認諾の調書
五 少額訴訟における民事訴訟法第二百七十五条の二第一項 の規定による和解に代わる決定
2 前項の規定により裁判所書記官が行う同項の強制執行(以下この目において「少額訴訟債権執行」という。)は、裁判所書記官の差押処分により開始する。
3 少額訴訟債権執行の申立ては、次の各号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める簡易裁判所の裁判所書記官に対してする。
一 第一項第一号に掲げる債務名義 同号の判決をした簡易裁判所
二 第一項第二号に掲げる債務名義 同号の判決をした簡易裁判所
三 第一項第三号に掲げる債務名義 同号の処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所
四 第一項第四号に掲げる債務名義 同号の和解が成立し、又は同号の認諾がされた簡易裁判所
五 第一項第五号に掲げる債務名義 同号の和解に代わる決定をした簡易裁判所
4 第百四十四条第三項及び第四項の規定は、差押えに係る金銭債権(差押処分により差し押さえられた金銭債権に限る。以下この目において同じ。)について更に差押処分がされた場合について準用する。この場合において、同条第三項中「差押命令を発した執行裁判所」とあるのは「差押処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所」と、「執行裁判所は」とあるのは「裁判所書記官は」と、「他の執行裁判所」とあるのは「他の簡易裁判所の裁判所書記官」と、同条第四項中「決定」とあるのは「裁判所書記官の処分」と読み替えるものとする。
<参照>民事執行法第167条の5 :(差押処分)
第百六十七条の五 裁判所書記官は、差押処分において、債務者に対し金銭債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
2 第百四十五条第二項から第四項までの規定は、差押処分について準用する。
3 差押処分の申立てについての裁判所書記官の処分に対する執行異議の申立ては、その告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければならない。
4 前項の執行異議の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 民事訴訟法第七十四条第一項 の規定は、差押処分の申立てについての裁判所書記官の処分について準用する。この場合においては、第三項及び前項並びに同条第三項
の規定を準用する。
(以下、略)
★標準管理規約の問題点
{設問} 平成19年 管理業務主任者 試験 「問29」(似た例は、平成20年 管理業務主任者 試験 「問10」など。
あるマンションの管理規約に関する次の記述は適切か。
* 管理費滞納者に対し、遅延損害金のほか、違約金としての弁護士費用、督促及び徴収の諸費用を加算して請求することができる旨の定めは有効である。
参考:標準管理規約60条2項(該当の条文:2項は、平成28年3月の改正でも変更なし。)
2 組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。
★この設問での問題点:標準管理規約60条2項での管理費等の未納者に対する費用請求に弁護士費用を含めていいか?
本来、管理費滞納は、債務不履行であるので、債権者は債務者に対して損害賠償が請求できる。
民法第415条「(債務不履行による損害賠償)
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」
そして、 その損害賠償の範囲は民法第416条1項 (損害賠償の範囲)
「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」
とあり、
「通常生ずべき損害」には、遅延損害金は入るが、一般には損害賠償責任を生じる原因となる事実と相当因果関係にあるものに限られ、弁護士費用や回収費用などは入らないと解されている。
現行制度上、民事事件では、弁護士に依頼することは不要であり、また、訴訟当事者がその依頼した弁護士に支払う弁護士報酬は、原則として訴訟費用に含まれず、訴訟の勝敗に関わりなく、各自負担とされている。ただ、判例により、不法な訴えに応ずるため専門知識を有する弁護士に委任し、報酬を支払った場合、および不法行為に基づく損害賠償請求権の行使のため、弁護士に委任して訴えを提起することを余儀なくされた場合には、勝訴当事者が支払った弁護士報酬は、「相当と認められる額の範囲」で、損害の一部として相手方に請求できるとされている。
これを、金銭債務の争いまでに広げて含めることには、学説でも争いがあり、決着していない。
しかし、標準管理規約(単棟型)60条2項
「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。」
と定めているので、一応、公序良俗に反しない範囲で、規約の自治性から適切ということにする。
平成26年4月16日:東京高裁は、一切の弁護士費用を含めて請求できるとした。
判決の趣旨:滞納管理費等の支払いについて、管理組合が訴訟上、債務不履行として債務者(滞納している組合員=区分所有者)に損害賠償を請求する際に発生する一切の弁護士費用は、債務者に対して請求できないと解すると、管理組合が弁護士費用や訴訟手続き料を持ち出し負担することとなり、区分所有者が当然に負担すべき支払い義務の履行との衡平の観点からよくない。
管理組合は、当然の義務の履行を求めているのであるから、規約で「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利18%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。」の定めは合理的で、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解して、違約金には管理組合が弁護士に支払う一切の費用を含むと解され、管理組合は、弁護士費用を債務者に請求して良い。
判決文:
「そこで、判断するに、国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約(甲8)は、管理費等の徴収について、組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依拠するものである。そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。
これに対して、控訴人は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない。(以下、略)」
★滞納している室が競売になることが多い
多くの場合、マンションの購入に際し、銀行などから融資(金銭消費貸借契約)をうけ、抵当権が設定されています。
この場合、融資金の返済ができないと競売になります。そして、競売で落とした人は「特定承継人」となるため、この「特定承継人」に対して滞納管理費等が請求できます。(区分所有法第8条)
しかし、現実には、滞納された管理費等の回収は殆ど出来ません。
そこで、債権の放棄も検討します。
債権の放棄は、「不動産登記簿」も取り寄せて、誰が区分所有者か抵当はどうなっているかなども検討します。
★債権(滞納金)の放棄
様々な回収手段を使っても、滞納者に財産が無ければ実際の回収はできないことが数多くあります。
また、裁判での弁護士費用などの支出が回収額に見合ったものであるかの検討も必要です。
それらを検討し、債権の放棄となることもありますが、債権放棄の手続きは、法人でない管理組合と法人である管理組合とでは異なります。
1.法人でない管理組合の債権放棄手続き
滞納管理費などの債権は区分所有者全員の債権であるため、放棄には「区分所有者全員の合意」が必要で、多数決の決議ではできないと解されています。
2.管理組合法人の債権放棄手続き
滞納管理費などの債権処理は管理組合法人の事務処理に関するものと解され、区分所有法第52条により、集会の普通決議(過半数)で放棄できます。
<参照>区分所有法 第52条:(事務の執行)
1項 管理組合法人の事務は、この法律に定めるもののほか、すべて集会の決議によつて行う。ただし、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項及び第五十七条第二項に規定する事項を除いて、規約で、理事その他の役員が決するものとすることができる。
2項 前項の規定にかかわらず、保存行為は、理事が決することができる。
★滞納者の水道、電気等を止めていいか?
いくら督促しても、支払のない場合には、つい、滞納者の室の水道やガス、電気の供給を停止したくなりますが、これはしてはいけません。
生活上必要不可欠なものを奪った「権利の濫用の不法行為」として、返って滞納者から訴えられます。
気を付けてください。
***********************************************************
★共用部分から生じる利益
区分所有法第19条の解説に戻ります。
共用部分の使用から生じる利益については区分所有法第13条で民法で規定される「持分」ではなく「用方に従い平等に使用できること」になっていますから、ここでの利益とは使用以外から発生する駐車場使用料・ベランダなど各種専用使用料、状況によっては、電柱や看板の設置料等の共用部分の使用の対価が主なものでしょう。
勿論共用部分や附属施設・設備の売却代金や、地方自治体からの資源ゴミの回収収益等が発生すればそれも含みます。
★利益の帰属先
これら利益は民法での可分債権である金銭債権となりますので区分所有法第19条をストレートに適用すれば、持分に応じた債権を各区分所有者が取得するようにも思えますが、これらの実態が社団(団体若しくは管理組合)財産の使用の対価等である以上、この財産はまず社団(団体若しくは管理組合)に帰属しますので(区分所有者単位で表現すれば総有的帰属と合有的帰属となります。)、各区分所有者への配分も組合財産の処分の一環として総会決議が必要であることは上記の組合財産の放棄の場合と同様です。
従って、この決議無しには各区分所有者は当然には自己の収益分を管理組合に請求する権利はありません。
その意味で、利益の収取の場合にも第19条は総会決議で具体的な債権にならない限り抽象的な権利にとどまります。
*一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料に対して各区分所有者が持分割合につき、個人として不当利得返還請求ができるか?
平成27年 9月18日 の最高裁の判例です。
*事件の概要
ある区分所有者が携帯電話の基地局を設置させる目的で賃貸契約を締結した。アンテナを制御する機器等は自分の専有部分に設置できたが、アンテナの支柱やケーブルの配管などは共用部分に設置され、月額賃料として、122,000円が共用部分の使用対価として認定されている。
マンションの共用部分を第三者に賃貸して賃料を得たことは、法律上の原因なく利益を受けたので、不当利得が成立する。
★ここまでは、いいのですが、この不当利得請求は、各区分所有者が持分割合に応じて各自が行使できるか、それとも、団体(管理組合)でしか行使できないのかが争点になっています。
判決文:
一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから,各区分所有者は,原則として,上記請求権を行使することができるものと解するのが相当である。
他方において,建物の区分所有等に関する法律は,区分所有者が,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有者の団体)を構成する旨を規定し(3条前段),この団体の意思決定機関としての集会の招集手続並びに決議の方法及び効力等や,この団体の自治的規範としての規約の設定の手続及び効力等を規定している(第1章第5節)。また,同法18条1項本文及び2項は,区分所有者に建物の区分所有という共同の目的があり,この共同目的達成の手段として共用部分が区分所有者全員の共有に属するものとされているという特殊性に鑑みて,共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか,又は規約で定めをする旨を規定し,共用部分の管理を団体的規制に服させている。
そして,共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項に当たるところ,上記請求権は,共用部分の第三者に対する賃貸による収益を得ることができなかったという区分所有者の損失を回復するためのものであるから,共用部分の管理と密接に関連するものであるといえる。
そうすると,区分所有者の団体は,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し,又は規約で定めることができるものと解される。
そして,上記の集会の決議又は規約の定めがある場合には,各区分所有者は,上記請求権を行使することができないものと解するのが相当である。
そして,共用部分の管理を団体的規制に服させている上記のような建物の区分所有等に関する法律の趣旨に照らすと,区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めがある場合には,上記の集会の決議又は規約の定めは,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。
これを本件についてみると,本件マンションの管理規約には,管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり,この定めは,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから,上告人は,不当利得返還請求権を行使することができない。
として、不当利得返還請求権が区分所有者の団体のみが行使できると、集会で決議したり、規約で定めていると、各区分所有者は、独自には、不当利得返還請求権を行使できないとしていますから、注意してください。
ここでも、区分所有法で定める「区分所有者の団体」が論じられていますが、早期に区分所有法を改正して、曖昧な存在である「区分所有者の団体」をはっきりとした団体の「管理組合」とする方策をとることを要望します。
{設問-1}Aは、B法人所有の中古マンションの1室を購入したが、その際、Bの役員C(マンション管理担当)から管理費等の滞納の事実について説明されていなかった。このため、Aが管理組合Dから管理費等の滞納分を請求されることになった場合に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。
1 Aが滞納管理費等の全額をDに支払った場合は、Aは、その全額について、Bに対して損害賠償を請求することができる。
答え: 正しい。
滞納の責任は本来は滞納者のBにあり、区分所有法第8条「前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」規定により、特定承継人として支払ったAはBに対して保証債務の履行による償還(民法第459条)ができ、また無瑕疵の物件を移転する義務に反した債務不履行やAに損害を与えた不法行為としての損害賠償請求もできる。
2 Bの管理費等の滞納の事実を知らないことについてAに過失がない場合、Aは、Dに対する債務を免れる。
答え:間違いである。
区分所有法第8条の責任は無過失の法定責任のため、Aの過失の有無を問わず責任を免れない。
3 Cの着服によりBの管理費等の滞納が生じたものであった場合は、Aは、Bに対して損害賠償を請求することができない。
答え:間違いである。
Cが着服したことが原因でも管理組合にBが滞納した以上、Bは肩代わりしたAに対する責任を免れない。
4 DのAに対する滞納管理費等に係る債権の消滅時効期間は、Aが購入してから5年間である。
答え:間違いである。
滞納管理費の消滅時効はBの弁済期から(民法第166条1項「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」参照)始まり、民法第169条「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する」 により 5年で、Aの購入日は起算日とはならず、起算日は管理費の支払時期である。
正解:1
{設問-2}マンションの滞納管理費を請求するために、民事訴訟法(平成8年法律第109号)に定められている「少額訴訟」を利用する場合に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 少額訴訟を提起する場合は、必ず簡易裁判所の調停を経なければならない。
答え:間違いである。
民事訴訟法第368条(少額訴訟の要件等)の規定
「簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数(10回)を超えてこれを求めることができない。
2 少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない。
3 前項の申述をするには、当該訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数を届け出なければならない。」
には、調停が必要(調停前置)とは記載がない。
2 少額訴訟を提起する場合、原告は管轄の地方裁判所又は簡易裁判所のいずれかを選択することができる。
答え:間違いである。
民事訴訟法368条1項「簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。」の規定により、簡易裁判所以外ではできない(専属管轄)。
3 少額訴訟においては、被告は反訴を提起することができない。
答え: 正しい。
民事訴訟法第369条「少額訴訟においては、反訴を提起することができない」 の規定どおり。
4 少額訴訟の審理においては、訴訟代理人が選任されている場合でも必ず当事者本人が裁判所に出頭しなければならない。
答え:間違いである。
民事訴訟法第六編 少額訴訟に関する特則にそのような規定は無い。
民事訴訟では、訴訟代理人を選任でき(民事訴訟法第54条1項:法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
)、少額訴訟審理でも、訴訟代理人を選任したときは、その訴訟代理人が当事者の代理として裁判所に出頭すればいい(民事訴訟法第139条:訴えの提起があったときは、裁判長は、口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出さなければならない。
)
正解:3
{設問-3}平成23年 マンション管理士試験 「問2」
〔問 2〕区分所有者の責任に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。ただし、規約に別段の定めはないものとする。
1 区分所有者は、管理者がその職務の範囲内において第三者との間にした行為につき、専有部分の床面積の割合に応じて責任を負う。
○ 正しい。
管理者が正当な職務内でした行為での、区分所有者の負う責任の割合は、区分所有法第29条1項
「(区分所有者の責任等)
第二十九条 管理者がその職務の範囲内において第三者との間にした行為につき区分所有者がその責めに任ずべき割合は、第十四条に定める割合と同一の割合とする。ただし、規約で建物並びにその敷地及び附属施設の管理に要する経費につき負担の割合が定められているときは、その割合による。
」とあり、
規約で別段の定めがないから、同法第14条1項の適用となり
「(共用部分の持分の割合)
第十四条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。」とあり、正しい。
2 区分所有者は、共用部分の設置又は保存の瑕疵により生じた損害賠償責任につき、共用部分の持分の割合に応じて責任を負う。
○ 正しい。
共用部分の設置又は保存の瑕疵により生じた損害賠償責任は、区分所有法第9条
「(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
第九条 建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。 」とあり、
「共用部分の設置又は保存にあるものと推定」されますから、共用部分の負担は、同法第19条
「(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」とありますから、
ここも、規約に別段の定めがないので、共用部分の持分(その有する専有部分の床面積の割合)となり、正しい。
3 区分所有者は、その共用部分を保存するため他の区分所有者の専有部分を使用し、その結果、当該他の区分所有者に損害を与えた場合には、その償金につき、共用部分の持分の割合に応じて支払の責任を負う。
○ 正しい。
区分所有者は、その共用部分を保存するため他の区分所有者の専有部分を使用することができます。それは、区分所有法第6条2項
「(区分所有者の権利義務等)
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
」とあります。
その結果損害を与えた場合には、その行為者だけの責任ではなく、規約に別段の定めがない場合には、共用部分の共有者全員が共同して責任を負うという説があります。
それによれば、同法第19条
「(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」とあり、
その償金につき、共用部分の持分の割合に応じて支払の責任を負うことになります。
(ここは、もっと明確に、「行為者に故意・過失がない場合」とかを加えてくれないと、曖昧な設問だ。)
4 区分所有者は、管理所有者が共用部分の管理に要した相当な費用及びそれとは別の管理所有者としての報酬につき、共用部分の持分の割合に応じて支払の責任を負う。
X 誤っている。
管理所有者が共用部分の管理に要した相当な費用の請求は区分所有法第20条1項
「(管理所有者の権限)
第二十条 第十一条第二項の規定により規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者は、区分所有者全員(一部共用部分については、これを共用すべき区分所有者)のためにその共用部分を管理する義務を負う。この場合には、それらの区分所有者に対し、相当な管理費用を請求することができる。
」とあり、
相当な管理費用は請求できますが、ここでの相当な管理費用の範囲としては、変更の費用や保存費用など一般に必要な費用で、報酬は入らないと考えられます。
報酬を除いた相当な費用は、同法第19条
「(共用部分の負担及び利益収取)
第十九条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」により、
区分所有者は、共用部分の持分の割合に応じて支払の責任を負いますが、管理所有者としての報酬は、規約がなければ、責任はありません。
参考:民法第648条1項 「(受任者の報酬) 第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。 」
答え:4
(管理所有者の権限) |
第二十条 |
1項 第十一条第二項の規定により規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者は、区分所有者全員(一部共用部分については、これを共用すべき区分所有者)のためにその共用部分を管理する義務を負う。この場合には、それらの区分所有者に対し、相当な管理費用を請求することができる。 |
過去出題 | マンション管理士 | H24年、H23年、H20年、 |
管理業務主任者 | R02年、H18年、 |
*第11条第2項の規定...前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。
★本第20条は、管理所有者の権限を定めています。
★管理所有とは
建物の共用部分は区分所有者全員の共有とされ、また一部共用部分はそれを利用する一部区分所有者の共有となっていますが、規約で特定の区分所有者(1人でも複数でも可)だけを建物の共用部分の所有者にでき(第11条2項)、また第25条により選任された管理者(区分所有者でも第三者でもいい)も規約により共用部分の所有者になることがあります。(第27条1項)。
このときの共用部分の所有形態を「管理所有」といいその所有者を「管理所有者」とよびます。
★この規定も、なぜこんな例外をもってくるのか、当初は分かり難い。
いままでの、マンションの管理が杜撰だったため分譲時に分譲会社が勝手に管理人室などを所有している実態の、整理規定と考えるといいかも。
また、共有関係では、管理が面倒なため、誰かに一本化して、管理を簡単にするためともとらえられます。
★管理所有の立法趣旨とは
管理所有制度の立法趣旨に関しては、立法担当者の説明によれば(新しいマンション法)、「区分所有法制定当時に共用部分を実際に管理する者の所有にしているケースがあって、その実態を認めるために規定したもの」とのことであり、このように管理対象が単独所有であればその委託契約もその者が単独で可能であり管理の便宜に資する、というものです。
たとえば、5人の区分所有者がいて、その内の1人を規約で共用部分の所有者に定める場合です。
★管理所有の法的性質 〜信託的〜
現在、管理所有方式はあまり見られませんが、一応の検討をしてみますと、まず、管理所有者は規約の設定又は変更により本来区分所有者全員の共有である建物の共用部分の所有権移転を受け所有者となり(第11条2項)、第20条1項により区分所有者全員(一部共用部分については、これを共用すべき区分所有者)のためにその共用部分を管理する義務を負うとされていますから、全員のための管理義務が付着したという民法にはない非常に特殊な所有権を取得するに過ぎないこととなります。
元来、民法で定める所有権は、物権として、他からの制約や特別の負担なしに、自由に物を支配でき処分できる権利ですから、区分所有法の共用部分での、このような制約を伴った所有権の移転というのは通常のものとはいえません。
そこで、区分所有法における、このような制限が付いている権利移転とは、まさに、旧信託法が「本法に於て信託と称するは財産権の移転の他の処分を為し他人をして一定の目的に従い財産の管理又は処分を為さしむるを謂う」(旧信託法第1条)ということですから、共用部分の管理を目的としてその所有権を移転するという管理所有が信託の一種であることを示しています。
これは即ち、区分所有法での管理所有が信託的譲渡といわれる所以です。
なお、信託的譲渡とは、特別の意味のある表現ではなく、この信託における譲渡行為ないし単純な譲渡ではなく信託上の制約のある譲渡行為という程度の意味合いです。
<参照>区分所有法 第11条2項(共用部分の共有関係):
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。
★相当な管理費用の請求ができる
管理所有者は、管理について一般に必要とされる費用をそれらの区分所有者に対し請求できます。管理費用の算定にあたっては、規約があればその規定に従いますし、規約がなければ、前払の請求もできると解釈されます。
なお、管理者の報酬については、本第20条の相当な管理費用には含まれず、別途の取り決めが必要と考えられます。
<参考> 民法 第648条 と 第649条
(受任者の報酬)(一部改正有)
第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。
(受任者による費用の前払請求) (改正なし)
第六百四十九条 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
★規約があれば、建物の共用部分(管理室など)でも特定の区分所有者または管理者(第27条1項)の単独所有(複数でも可)にできる。
この方が複雑な管理となる共有よりも単独で管理ができるので便利。
しかし、その共用部分の所有は管理方法を便宜的にした規約での名義的なもので、実質はあくまでも他の区分所有者たちの共有下にあると考えていい。
管理所有は「信託」に近く管理の義務はあるが、管理にかかる費用は、区分所有者に請求できる。
★また、管理者になっているなら区分所有者でなくてもいい(外部の分譲会社など)が、他の身分の人が規約で共用部分を所有するなら、権利関係が複雑になるので、必ず区分所有者の中から指定されること。(外部の人には認めない。)
◎管理所有(第27条)は、共用部分(建物。法定共用部分と規約共用部分を含む)にだけ認められる。
敷地(土地)には認められていない。
<参照>区分所有法 第27条1項(管理所有):
管理者は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分を所有することができる。
第二十条 |
2項 前項の共用部分の所有者は、第十七条第一項に規定する共用部分の変更をすることができない。 |
過去出題 | マンション管理士 | H24年、H20年、H15年、 |
管理業務主任者 | H18年、 |
*共用部分の変更をすることができない...規約で建物の共用部分(管理室など)の所有者(管理所有者)となっても、「A.保存行為」と「B.狭義の管理」はできるが、その共用部分の「C.重大変更」は出来ない。
重大変更をするなら、集会の決議(これも第17条に従うと考えていいのか?)がいる。
ここも、改正があり、以前は、規約があれば、管理所有者も変更行為ができるとしていたのを、軽微の変更を除いては、必ず集会の決議によるとしたものです。
<参照>区分所有法 第17条1項(共用部分の変更):
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
★管理所有者は、管理義務を負うが、その共用部分の重大変更はできない。
★区分所有法第17条を中心に、共用部分の管理の方法を、管理所有者とこれから出てくる管理者、集会の決議との関係でまとめました。
◎共用部分の管理の方法 (○可能、X不可、*規約可) | |||||
行為 | 集会 | 各区分所有者 | 管理所有者 | 管理者 | |
保存行為 | 普通決議 | ○ | ○ | ○ | |
管理行為 | 普通決議 | X(*) | ○ | X(*) | |
変更行為 | 軽微 | 普通決議 | X(*) | ○ | X(*) |
重大 | 特別多数決議 | X | X | X |
{設問}次の記述は正しいか。
* 規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者は、規約で定めれば、その形状又効用の著しい変更を伴う共用部分の変更行為をすることができる。
答え:間違いである。重大変更はできない。
区分所有法第20条2項によれば、規約で定めても共用部分の所有者と定められた区分所有者は、同法第17条1項で定める「その形状又効用の著しい変更を伴う共用部分の変更行為をすることはできない」(重大変更)。
(共用部分に関する規定の準用) |
第二十一条 |
建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第十七条から第十九条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。 |
過去出題 | マンション管理士 | R01年、H28年、H26年、H24年、H23年、H17年、H16年、 |
管理業務主任者 | H28年、H16年 |
<参照>
第17条(共用部分=重大変更 の変更)、
第18条(共用部分の管理)、
第19条(共用部分の負担及び利益収取)
★準用の対象
第21条は、敷地と建物の共用部分以外の附属施設について第17条の「共用部分の重大変更」、第18条の「共用部分の管理」、第19条の「共用部分の負担及び利益収取」の規定がそれぞれ準用される旨の規定です。
ただし、共用部分の規定である、第2節の第11条から第16条は適用がないことも注意してください。
区分所有法では、共用部分として専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物を定義することにより(第2条4項)、建物内の設備関係も含めて共用部分に網羅し、民法の特則としての取扱いを第17条から第19条に規定しておりますから、区分所有者の団体(管理組合)や区分所有者間において残る問題は、敷地と附属施設及び債権等の財産関係となります。
★条文制定の理由
当初の区分所有法では、建物の敷地や、共用部分以外の附属施設が、区分所有者の共有(または準共有)である場合には、規定がなかったために、これらの管理には、規約があれば規約に従い、それ以外の場合には民法の規定が適用されていました。
しかし、区分所有者の団体(第3条参照)が存在する以上、特に、建物の敷地と共用部分以外の附属施設を、建物の共用部分と異なった管理と区別する必要がないため、第21条として、共用部分の規定をその敷地又は附属施設に準用すると規定されました。
★敷地の場合
今まで述べたように、建物の共用部分は民法の共有の原則では、「全員の合意」を必要とするなど共同で管理・変更することが現実的に困難であることから、区分所有法で第17条以下の特則を置き、「多数決」を取り入れるなど、区分所有者団体の現実的な運営を可能とする手段を講じています。
これは、マンションの敷地にも当てはまります。
通常、土地(敷地)の権利は、建物の権利とは別個の区分所有者個人の財産であり、その保存・管理・変更は特段の定めのない限り民法の適用を受けます。
しかし、マンションの敷地の権利(所有権・地上権・賃借権)は、区分所有者の共有(または準共有)が通常です。
それならば、敷地の変更・管理・負担も建物の共用部分と同じように、集会での多数決の原理にしようと定めたのがこの特則です。
★附属施設の場合
そこで、後に残るのは附属施設と債権関係ですが、このうち附属施設はその存在意義は共用部分と同様に区分所有者全員の便益に供されることにあるのですから、附属施設が共有の場合には共有関係に伴う管理や処分・変更行為の実施について他の共有者間との団体的共同が必要なことは建物の共用部分の場合と同様です。
従って、その場合の多数決要件等も、民法のように単に持分で且つ変更等に全員の合意が必要とすることは実態に合うとはいえませんから、附属施設についても建物の共用部分の場合と同様の取扱いをすべき必要性と合理性が認められます。
そこで、附属施設についても建物の共用部分の取扱いと同様に取り扱うのが妥当であり、仮にこの規定がなくとも民法の規定を適用するのではなく、区分所有法の第17条から第19条の規定を類推適用すべきですから、このことを正面から認めたのが本条の準用の趣旨といえます。
この第21条の準用で、建物の敷地及び附属の施設についても 損害保険契約を締結することは、「その管理に関する事項」みなされますから(第18条4項参照)、集会の決議で、建物の敷地及び附属の施設についての保険契約の締結が決定され、管理者が、区分所有者全員を代理して契約の締結ができます。
★債権の場合はどうなる?
最後の債権関係に関しては、第21条には規定がありません。
区分所有者の間に第21条に定める物的権利関係以外に債権的権利関係が生じることは明らかですから、何らかの規定を置くべきであるとも思います。
しかし、債権の場合はその発生原因が様々であり、そのためもあってか区分所有者の団体ないし区分所有者全員に総体的に帰属するものから各個人に帰属するものまで様々のものが予想されます。
例えば、管理費・修繕積立金や各種使用料等の管理組合対個人の関係で発生する債権は団体に帰属し、団体的処理に適するものといえますが、個人財産である敷地の収用対価や補償料は個人に、また共有の共用部分や附属施設は団体に帰属するともいえる半面、専有部分との一体性の原則にもあるように個人財産としての性格もあり、こと交換価値という面では個人財産性が勝るというべきでしょうから、共用部分の瑕疵や損害による交換価値の減少補償の賠償金は個人に帰属する債権といえます。
このように、債権関係に関するこの法:区分所有法の沈黙(規定しないこと)は単なる規定の失念という訳ではなくケースバイケースの処理が必要な事項にため一律的な規定が馴染まないとして解釈に任せたものと考えるべきでしょう。
従って、区分所有法に規定がないからすべて民法の原則によるという考え方には賛成できません。
この債権関係の帰属の違いが現実の取扱いにどういう違いをもたらすかといいますと、組合ないし区分所有者総体に帰属する場合は管理者ないし区分所有者の代表者が当事者適格者として管理組合ないし区分所有者を代表して訴訟することになり、個人に帰属する場合は当該個人が自己の権利につき当事者適格者として訴訟することになります。
区分所有法での「区分所有者の団体」を、早急に明確に規定することが必要です。
★敷地や附属施設(倉庫、駐車施設など)が区分所有者の共有なら、変更や管理では集会の決議や4分の3以上の決議がいる。
また、持分に応じて負担・利益を得る。
{設問-1}効用の著しい変更を伴う区分所有者の共有に属する建物の敷地の変更は、規約で定めれば、規約により設置された理事会で決議するものとすることができるか。
答え:出来ない。
区分所有法17条1項によれば、共用部分の著しい変更は集会の特別多数決議が必要で、この規定は同法第21条で敷地に準用されているので、規約での変更はできない。
{設問-2}民法及び区分所有法の規定によれば、区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議によって行うことができないものはどれか。ただし、いずれの場合も専有部分の使用に特別の影響を及ぼすことはないものとする。
1.区分所有者全員が共有するマンションの敷地内に機械式駐車場を新設すること。
答え: 3/4以上の特別多数決議で行うことができる。
「区分所有者全員が共有するマンションの敷地内に機械式駐車場を新設すること」は、建物の敷地の重大変更にあたり、区分所有法第21条により準用される区分所有法第17条が適用され、「区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議」により行うことができる。
2.区分所有者全員が共有するマンションの敷地内の別棟集会所を除却すること。
答え:3/4以上の特別多数決議で行うことができる?
まず、区分所有法第17条の共用部分の変更は、「共用部分の用途を確定的に変えること」と解されている。例えば、共用部分を専有部分に変更することは「共用関係の廃止」であり、「共用部分の変更」ではないと考えられている。
区分所有法には「共用関係の廃止」に関する規定はないため、「共用関係の廃止」は区分所有法の適用はなく、民法の共有に基づき共有者全員の合意が必要である。
そこで、設問の「区分所有者全員が共有するマンションの敷地内の別棟集会所を除却すること」は、区分所有法第21条の「附属建物の変更」に該当するか否かが問題となる。
別棟集会所を除却することは、規約共用部分たる附属建物から単なる敷地上の空間(共用部分)に変更することであると考えられる。規約共用部分を専有部分に変えるような「共用関係の廃止」ではなく「附属建物の変更」であると考えられるから、区分所有法第21条、及びこれに準用される区分所有法第17条の「共用部分の(重大)変更」の規定が適用されると考えられる。したがって、「区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議」により行うことができる。
3.区分所有者全員が共有するマンションの敷地の一部を分筆の上、売却すること。
答え:3/4以上の特別多数決議により行うことはできない。
敷地共有持分の割合は、マンション分譲時等の売買契約により定められるものであるとされている。
すなわち、管理組合の決議により定められる規約、あるいは集会の決議等により、団体的拘束に服させるものではないと解されている。
したがって、設問の「区分所有者全員が共有するマンションの敷地の一部を分筆の上、売却すること」は、区分所有法の適用がなく、民法の共有に基づき、共有者全員の合意が必要である。
4.区分所有者全員が共有するマンションの階段室をエレベーター室に改造すること。
答え:3/4以上の特別多数決議で行うことができる。
「区分所有者全員が共有するマンションの階段室をエレベーター室に改造すること」は、共用部分の著しい変更にあたり、区分所有法第17条が適用され、「区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議」により行うことができる。
正解:3 (ただし、選択肢2については、解釈が分かれる部分ではある。)
{設問-3}平成23年 マンション管理士試験 「問25」
〔問 25〕地震によるマンションの被害の復旧等を検討する緊急の理事会における理事長の説明について、区分所有法の規定によれば、次の記述は正しいか。ただし、規約に別段の定めはないものとし、管理費の支出については総会から理事会に付託されているものとする。
敷地上のアスファルト舗装の歩道に亀裂が入りましたが、この際、歩道を彩色レンガ舗装に変更したいと考えております。これは理事会だけではできないので、次回、総会に諮ることとします。
○ 正しい。
区分所有法では、建物の敷地にも、建物の共用部分の変更や管理の規定が準用されます。区分所有法第21条
「(共用部分に関する規定の準用)
第二十一条 建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第十七条から第十九条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。
」とあります。
そこで、「アスファルト舗装を彩色レンガ舗装にすること」は、外観や構造が大幅に変わるため、区分所有法第17条
「(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。」とあり、
1項のかっこ書きの( その形状又は効用の著しい変更を伴うもの)に該当しますから、原則;区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議が必要です。
ページ終わり |
謝辞:Kzさんの了解により一部転用・編集をしています。
最終更新日:
2022年 9月8日:見直した。
2022年 1月 4日:標準管理規約(コメントも)や文章を更新した。
2021年12月16日、19日、20日:令和3年(2021年)の出題年を入れた。
2021年 3月 9日:管理費や修繕積立金の時効:5年を民法改正で追記した。
2021年 3月 7日:令和2年(2020年)の出題年を入れた。
第16条:一部共用部分の解説見直した。
2020年 3月29日:令和元年(2019年)の出題年を入れた。
2019年11月 1日:第17条1項に、最高裁の判例「高圧一括受電方式への変更は、共用部分の変更・管理ではない」を入れた。
2019年 4月27日:第19条に、平成30年の「平成30年度マンション総合調査」の管理費と修繕積立金を入れた。
2019年 4月17日:平成30年の出題年を入れた。
2018年 3月13日:平成29年の出題年を入れた。
2018年 3月13日:第18条4項に「地震保険」の出題を入れた。
2017年 9月 7日:管理所有(第20条)に加筆。
2017年 9月 7日:債権の回収での少額訴訟へ加筆。
2017年 3月14日:平成28年の出題年を入れた。
2016年11月23日:第31条1項後段の「特別の影響」で判例:平成10年10月30日:最高裁を入れた。
2016年 7月 8日:最高裁の判例;平成27年 9月18日;不当利得請求は、集会の決議や規約があれば、各区分所有者は行使できない を第19条に追加した。
2016年 4月 8日:3月14日付の標準管理規約の改正に対応した。
2016年 2月24日:平成27年の出題年を入れた。
2015年 3月25日:平成26年の出題年や出題を入れた。
2014年 9月28日:第19条に「弁護士費用は、滞納者に請求できる判例:平成26年4月16日:東京高裁」を入れた。
2014年 2月23日:第17条に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」の特例を入れた。
2014年 2月23日:平成25年の出題年を入れた。
2013年 9月22日:第19条に「修繕積立金」を追記した。
2013年 8月 2日:見直して加筆した。
2013年 5月15日:第19条に「将来の給付」など入れた。
2013年 5月11日:第17条に図など入れた。
2013年 3月24日:平成24年の出題年を入。
2013年 3月10日:債権の回収 (第19条)に、少額訴訟制度の解説を入れた。
2012年 2月22日:平成23年の出題など入。
2011年 5月24日:ちょろちょろと加筆。
2011年 1月15日:平成22年の出題記入
2010年6月2日:第19条などに追記
2010年2月2日:平成20年のマンション総合調査の管理費・修繕積立金を追加
2010年1月23日:H21年の出題年を記入
2009年11月5日:著しい変更で、耐震加筆
2009年10月18日:ちょろちょろと加筆。
2009年6月18日