★★       条 文 の 解 説        ★★

建物の区分所有等に関する法律

(この解説においては、略称:区分所有法 と言う)

第1章 建物の区分所有 第8節 復旧及び建替え

第六十一条 建物の一部が滅失した場合の復旧等
第六十二条 建替え決議
第六十三条 区分所有権等の売渡し請求等
第六十四条 建替えに関する合意

[-b.第62条(建替え決議)から 第64条(建替えに関する合意)まで

マンション管理士・管理業務主任者を目指す方のために、区分所有法を条文ごとに解説しました。 

試験問題は、過去の問題から出されるのではありません。条文から出題されます。

条文を勉強することが、合格への道です。

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(建替え決議)

第六十二条

1項  集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

過去出題 マンション管理士 H23年、H18年、H13年
管理業務主任者 H24年、H19年、H17年、H15年、H13年

★特別に多数の賛成が必要で「特別多数決議事項」と呼ばれる。(その8の6)

   ただし、「建替え」はさらに、重要なので、特別多数決議でも他のような区分所有者及び議決権の3/4(75%)以上では足りず、各4/5(80%)以上の決議がいる。これは規約でも緩和できない。

★建替えが想定される状況...@建物の老朽化
                    A震災等による建物の滅失(小規模滅失、大規模滅失)。ただし、全部滅失は、区分所有法の対象外となる。
                    B耐震性に問題がある建物
  なお、上記以外にも、理論的には、新築建物でも、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数が賛成すれば、建替えは可能だが、それは、現実的ではない。

  

★建替えの必要性と団体生活の関係 〜民法と区分所有法の妥協点〜 ”全員の合意から多数決へ”

 建物は、木造であろうとコンクリートブロック造だとか鉄筋コンクーリト造であろうと必ず、経年により劣化し物理的に老朽化します。また地震・津波・土砂崩れ等の天災や爆発事故などによる倒壊その他の事由によっても、いずれは建物としての終わりを迎え「建替え」という必ず時期が到来します。
 建物が建替えを必要とする場合、区分所有建物は通常、多数の区分所有者の共同所有物ですから、区分所有法や他の法律が存在しないと、建替え問題を議論する場合には原則的に民法
「共有」の関係の規定と考えが適用されることになります。

 度々述べていますが、民法の規定では、共有となると、共有物である既存建物を他の共有者の”同意”なく解体することは、同じ共有者である建替反対者の「所有権」を侵害し、建物を解体して他の建物を新築することは同じように建替反対者の「土地利用権」を侵害します。
 つまり、共有物である建物を建替えるという行為は民法第251条で定める「共有物の変更」に該当し、そこで建替えるには、区分所有者”全員の合意(同意)”が必要となります。(民法第251条)。

<参考>民法 第251条:(共有物の変更)

第二百五十一条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない

 しかし、この民法の共有の理論(他の共有者の同意を得る)に従うことは、大多数の人々が建替えを希望していても、たった一人の区分所有者の反対があれば建替えはできず、建替えが実行できない場合には、その建物が老朽化した状態であっても居住を継続しなければならないことになります。
 老朽化した建物の建替えができないということは、他の多くの区分所有者にとって不利益ですし、また、その建物がある地域にとっても、老朽化して今にも倒壊しそうな危険な状態での建物があることや、多くの居住者が住んでいないスラム化した建物が存続することは社会問題ともなります。

★区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数決は、団体としての妥協点 〜全員の合意を得ることは不可能

 そのために、多くの人が棲む区分所有建物においては、民法で規定される共有物の変更において事実上不可能な区分所有者「全員の合意」は不要として、多数決の要件(5分の4(80%)以上の決議)により建替えを認めて、憲法及び民法で保障された個人の財産権と、区分所有建物内で共同生活を営む他の多数の区分所有者及び周辺社会との利益の調和を図ったものが、この区分所有法の「建替え」の規定と考えることができます。
 個人の財産権を守ることと共同生活がかかえる問題をどう解決するか。この現在の規定に至るまでには、様々な論争も経て改正もありました。

◎建替えの要件
 区分所有法第62条1項で定める「建替え決議」の要件は、次の2つです。
 @集会で、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数が賛成すること。
 A必ず、過去に存在した敷地を一部でもまた全部でも使って新しく建物を建築すること。

  

★建替えの要件 〜 @集会で、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数が賛成すること。

★どうして、区分所有者及び議決権の各4/5(80%)以上としたのか? 〜 9/10(90%)以上でもいいのでは? 〜 
  区分所有建物で、建替えの決議をするには、まず
  @必ず集会を開いて、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数が賛成すること が必要です。(1項)

  区分所有者の集会で区分所有者及び議決権の各4/5以上の区分所有者が賛成し、建替え決議が成立すると、建替えに反対する区分所有者は、建物としての権利部分である室(区分所有権)と土地の権利部分である敷地利用権を、建替え賛成者に強制的に買い取られて、建替えに反対する区分所有者は、その建物の建物と土地に関しては、無権利者になり、その建物から退去する(追い出される)ことになります。(第63条参照)

 また、建替えに賛成した区分所有者も、その後に控える建物の取り壊しや新しい建物の建築で多額の費用を負担することになります。
 そこで、建替え決議においては、階段や廊下等の建物の共用部分を変更する場合(第17条参照)や建物価格の1/2超が滅失した大規模滅失での建物を復旧する場合(第61条5項参照)での区分所有者及び議決権の各3/4以上よりも、重大な状況になると判断され、草案では、
民法での「区分所有者全員の合意」までは要求しないものの、建替え決議の要件には、もっと厳しい要件として、区分所有者及び議決権の各9/10(90%)以上とする案も検討されたようですが、最終的に区分所有者及び議決権の各4/5(80%)以上としたようです。

  なお、区分所有者全員の承諾があれば、この建替えでも集会を開催せずに、書面または電磁的方法により決議はできます。(区分所有法第45条1項及び3項

★建替えに賛成しない人は、その区分所有建物から排除(追い出し)される。

  区分所有者及び議決権の各4/5以上の賛成により、建替えが決議されると、建替えの反対者は賛成者(又は買受指定者)から、建物に関する区分所有権と土地に関する敷地利用権を時価で売り渡せとの請求を受けて、該当の区分所有建物から出て行くことになります。(第63条) 
言い換えますと多数決により少数者の強制追い出しが、正当に行われるという規定ですから、運用にあたっては、少数者(建替え反対者)への配慮がどこまでなされているかなどから、これからも、紛争が想定される規定です。

★規約で、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数を変更できるか? → 厳格化はできる

 建替え決議では、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数が賛成することが必要とされますが、共用部分の変更(第17条)にあるように、この要件を規約で別段の規定を設けて変更できるかという意見があります。

 現在では、要件を緩和(例えば、「区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数」とか)することはできませんが、厳格化(例えば、「区分所有者及び議決権の各9/10以上の多数」とか、「全員の一致」)にすることは、できると解釈されています。


★逆に、4/5以上の賛成さえあれば、まだ新しいマンションでも建替えができる。 〜所有権の大幅な侵害〜

  この条文の表(おもて)だけを、つまり、建替えは区分所有者及び議決権の各4/5以上の賛成でできる、と読んでいましたが、マンション(区分所有建物)では、区分所有者及び議決権の各4/5以上の賛成があれば、個人の財産である室・生活の場が、どんなに反対しても、正当に奪われてしまうのですよ。

  特に、建替えに反対している少数者の立場を考えると、この規定は実に厳しいものです。

  現実の建替え問題で、建替えに反対している人は、建替えの費用負担ができないことが原因です。多くが高齢者や収入の少ない人です。
  これらの人にとって、今まで住んでいた場所から強制的に追われることになる建替えは、近所付き合いが変わる、面倒な引越がある、たとえマンションを売っても現状と同じ規模の部屋には住めない、
  など、寂しい現実が控えていますが、それらには区分所有法は関知しないとしています。弱者を保護していない面でまだまだ、区分所有法は不備です。

 区分所有権は民法での所有権の1つとしながらも、多数決という団体の拘束に大きく従うため、区分所有法権の実態は、所有権とはほど遠い、専有部分の専用利用権に過ぎないと呼ばれる一面が、この建替えでも指摘されます。


★なお、マンションの建替えではないのですが、私が住んでいた、東京都葛飾区にある金町団地(現:金町第一団地)で旧:住宅公団(現:都市再生機構)から、建替えを名目に追い出しを迫られて裁判闘争となった「建替と向かい合った日々」もありますからご覧ください。
 「金町団地」での居住者が、いかに権力をかさにした住宅公団と闘い、権利を守ったか、参考になりますよ。


★採決に当たっての注意点

  建替えの実行は、今まで有していた建物という重大な財産を失うことになるため、建替え決議を採択した集会は、法律的にも非常に重要です。
  特に、建物の専有部分(室)が複数の人による共有となっている場合には、事前に共有関係を確認し、正しい区分所有者の数、議決権の確認が必要です。
  また、将来の紛争を防止するため、招集通知は「配達証明付き郵便」での送付が適切でしょう。
 当日の集会での採決も、挙手ではなく、賛成・反対が後日の証拠として残る書面を使った「投票用紙」によるべきです。

区分所有者数及び議決権の各5分の4以上の賛成が必要

 区分所有者及び議決権の各4/5以上の確認で、注意することは、区分所有者の数は、後のトラブルを避けるためにも、面倒でも正当な区分所有者であることを確認するために、そこまで管理組合がやる必要はあるかは議論のあるところですが、「登記簿」を取り寄せてその記載によるべきでしょう。
 管理組合に届け出のある人と登記簿の所有者の氏名が異なるとき・・・当事者に文章で確認して、最終の区分所有者を確定します。(登記簿は真実を表していないこともあります。)

 確認となりますが、区分所有者及び議決権の各4/5以上とは、一人の区分所有者が複数の専有部分を有してもいても、区分所有者の数は 1 です。 
 議決権数は、規約で別段の定めが無ければ、区分所有法第14条に定める専有部分の床面積の割合です。(
区分所有法第38条

 また、建物の専有部分(室)が数人の共有にある場合も注意が必要です。
 専有部分が数人の共有にあっても、区分所有者の数は 1 として扱われます。

 議決権も民法で定めるような、持分に応じて行使は出来ません。区分所有法第40条により、「集会においては、議決権を行使する一人を共有者間で決めておく」ことが必要です。
 建替えは、建物の専有部分を有している共有者全員の利害に強く関わるため、その共有者全員の賛成が無ければ議決権の行使が出来ません。(民法第251条)。
 共有関係にある専有部分がある場合は、事前に共有者間の話し合いが必要になります。
 共有となっている専有部分の議決権行使書には、共有者全員の署名 ・捺印 を求めて、建替えに賛成か反対かを明確にして後日の紛争を防ぐことです。

建替えとは...現にある区分所有建物を取り壊して、新たな区分所有建物を建てること
           なお、建物が、地震・津波・土砂崩れなどで「全部滅失」した時には、区分所有法の適用から外れ、民法または「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」の適用になる。

  全部滅失では、元の区分所有者には、敷地利用権である土地の所有権の共有関係、またその土地が借地なら準共有関係が残るだけ。区分所有法で定める建物の権利はすべてなくなり、区分所有法も適用されなくなることに注意のこと。

   一部でも建物が残っていれば、区分所有法による「建替えの決議」ができる。全部滅失と一部が残っているのその判断は難しいが。

  *「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」については、区分所有法第61条にあります。こちらを参照。

  


★建替えの要件 〜 A必ず、過去に存在した敷地を一部でも全部でも使って新しく建物を建築すること。

 区分所有法第62条1項に規定される建替え決議では、
  上に述べた
  @集会で、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数が賛成すること 
  の他に
  A必ず、過去に存在した敷地を一部でも、また全部でも使って新しく建物を建築すること 
  があります。 


 

★区分所有法での建替え問題 〜改正の歴史〜
 過去(昭和58年の改正後)に建替えで多くの紛争点となっていた、判断の難しい「費用の過分性」や「建物の老朽化」などの要件を廃止した。(平成14年の改正)

 区分所有建物において、個人の財産を多数決で奪うことが、憲法第29条における財産権の侵害という不当性を帯びた内容であることは、学者や区分所有法の立法担当者も認識していましたが、老朽化しても、少数者が反対すれば、建替えができないという現状は放置できません。

<参照>憲法 第29条

第二十九条  財産権は、これを侵してはならない

2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 そこで、過去から区分所有建物という集団での共同利用という特殊な管理が必要とされる建物と個人が有する権利保護の両面から、区分所有建物における建替えにおいて合理的な要件を求め、老朽化の面から建築年数が30年を超えた場合とか、経済面から効用を回復する費用が多くかかる場合などを挙げていましたが、判断基準としては、建物は画一的に捉えられないため不明確な点が多くありました。

 そこで、 平成14年の改正区分所有法での建替え決議では、過去に規定していた老朽、過分の費用を要するなど不明確な判断基準を捨てて、 
 @集会で、区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数が賛成すること 
 に加える、新しい要件として、

  *建物の年数(老朽化)や、傷み具合(損傷・一部の滅失)は問わない

  ◎現在の建物の敷地と少しでも重なっていればいい(敷地の同一性)...現在の建物がある敷地の隣に新しく隣地を購入とか借りて、またがって建築していい。

  ◎現在の敷地の一部を売却して、その売却代金を建設費用にあてて、建築していい。

  ◎新しい建物の使用目的は問わない...今まで住宅専用のマンションであっても、住宅・店舗・事務所などが入った建替もいい。

  しかし、必ず、新たに建物を建てることにしました。 

★ただし、老朽化したマンションを取り壊して、平面駐車場にすることは、区分所有法の建替えの決議では出来ない。(建替えの決議は、新たな建物を建築することが必要。)
  この場合は、民法第251条の適用となり、区分所有者全員の同意が必要となる。

★新たな土地に新たな建物を建てることは、建替え決議ではできない。

  平成14年の改正で、建替えの決議があれば、必ずしも現在の土地の上に新たな建物を建築するという敷地の同一性を廃止して、どこでもいいから新しく建物を建ててもいいのではないかという議論もされたようです。
 これに対しては、現在の土地から極端に離れた場所での建物は、もう建替えと云えない。また、多くの人は現在地での所有や使用を望んでいる。
などで、見送られたようです。

 確かに、東京のマンションの建替え後の建物が北海道にあるとなると、いくら多くの区分所有者が希望したといっても、これはもう通常の建替えの概念からは外れていますね。

★建物の建替えに関する費用は「修繕積立金」勘定から充当する。

  建替えの決議に至るまでには、建物の現状調査や区分所有者の合意の形成に時間と費用がかかります。
  まず、建物の損壊があれば、その程度を調査し、修理可能か、費用はいくらかかるのか、建替えとするならどのような設計にするのか、新しい建物の建設費用はいくらか、取り壊しや建設費用の分担はどのようにするのか、など建設の専門的な知識が要求され、調査の費用もかかってきます。

 そこで、「標準管理規約」では、これらの「建替えに係わる合意形成に必要となる事項の調査」費は「修繕積立金」勘定から支出することが認められています。

<参考>標準管理規約 28条1項 4号;(修繕積立金) 

第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
   一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
   二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
   三 敷地及び共用部分等の変更
   四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)に係る合意形成に必要となる事項の調査
   五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

2 前項にかかわらず、区分所有法第62条第1項の建替え決議(以下「建替え決議」という。)又は建替えに関する区分所有者全員の合意の後であっても、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(平成14年法律第78号。以下「円滑化法」という。)第9条のマンション建替組合の設立の認可又は円滑化法第45条のマンション建替事業の認可までの間において、建物の建替えに係る計画又は設計等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、修繕積立金から管理組合の消滅時に建替え不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、修繕積立金を取り崩すことができる

 (以下、略)

★建替えに係わる合意形成に向けての過程の概要は、国土交通省の「マンション建替え実務マニュアル(平成15年1月、平成22年7月 改訂)」では、次のようになっています。

A.建替え決議までの合意形成の基本的進め方
  ●合意形成の段階−3つの段階

【ステップT】 準備段階:建替えの提起のための検討
<目標> 有志による勉強会での検討成果を踏まえて、「管理組合として建替えの検討を行うことの合意を得ること」が準備段階での目標です。
<内容> 一部の区分所有者から建替えの発意がなされ、それに賛同する有志により、建替えを提起 するための基礎的な検討が行われる段階です。有志による自主的な勉強会として行われます。

  管理組合の集会(総会)において、建替えを検討することについての合意が得られれば、次の段階 として、正式の検討組織を設置して管理組合としての検討が開始されます。

【ステップU】検討段階:建替え構想と建替えの必要性の検討
<目標> 「管理組合として、建替えを必要として計画することの合意を得ること」が検討段階での目標です。
なお、検討の結果、建替えではなく、修繕・改修を行うことが管理組合として決議されることもあります。 <内容> 管理組合として、建替え等による改善の必要性や建替えの構想、修繕・改修との比較等による建替えの必要性について検討する段階です。

 管理組合の集会(総会)において、建替えを必要として、建替え計画を策定することについての合意が得られれば、次の段階として、建替え決議に向けた建替え計画の検討が開始されます。

【ステップV】計画段階:建替え計画の策定
<目標> 「建替え計画を策定するとともに、それを前提とした建替えの合意(建替え決議)を得ること」が計画段階での目標です。
<内容> 管理組合として、各区分所有者の合意形成を図りながら、建替え計画を本格的に検討する段階です。

 管理組合の集会(総会)において、建替え計画を前提として建替え決議がされれば、いよいよ建替事業に着手することとなります。


B.建替え決議後のプロセス(マンションの建替え等の円滑化に関する法律=マンション建替え円滑化法 参照)

(ア)建替組合の設立段階:定款及び事業計画を定め、都道府県知事等の認可を受けて建替組合を設立する段階。

(イ)権利変換段階:権利変換計画を策定し、同計画に関し都道府県知事等の認可を受け、権利変換を行う段階。

(ウ)工事実施段階:建替え工事を施工し、工事完了時にマンション建替事業に係る清算を行う段階。

(エ)再入居と新管理組合の設立段階:新マンションに入居し、新マンションの管理組合が発足する段階。

また、標準管理規約28条関係のコメントは以下のようになっています。

<参考>標準管理規約 28条関係コメント  

@ 対象物件の経済的価値を適正に維持するためには、一定期間ごとに行う計画的な維持修繕工事が重要であるので、修繕積立金を必ず積み立てるこ ととしたものである。
A 分譲会社が分譲時において将来の計画修繕に要する経費に充当していくため、一括して購入者より修繕積立基金として徴収している場合や、修繕時に、既存の修繕積立金の額が修繕費用に不足すること等から、一時負担金が区分所有者から徴収される場合があるが、これらについても修繕積立金として積み立てられ、区分経理されるべきものである。

B 円滑化法に基づく建替組合によるマンション建替事業における建替えまでのプロセスの概要は、円滑化法の制定を踏まえ作成された「マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル」(平成15年1月国土交通省公表)によれば、次のとおりである。
   A.建替え決議までのプロセス
   (ア)準備段階:一部の区分所有者から建替えの発意がなされ、それに賛同する有志により、建替えを提起するための基礎的な検討が行われる段階であり、「管理組合として建替えの検討を行うことの合意を得ること」を目標とする。
   (イ)検討段階:管理組合として、修繕・改修との比較等による建替えの必要性、建替えの構想について検討する段階であり、「管理組合として、建替えを必要として計画することの合意を得ること」を目標とす る。
   (ウ)計画段階:管理組合として、各区分所有者の合意形成を図りながら、建替えの計画を本格的に検討する段階であり、「建替え計画を策 定するともに、それを前提とした建替え決議を得ること」を目標とす る。

  B.建替え決議後のプロセス
   (ア)建替組合の設立段階:定款及び事業計画を定め、都道府県知事等の認可を受けて建替組合を設立する段階。
   (イ)権利変換段階:権利変換計画を策定し、同計画に関し都道府県知事等の認可を受け、権利変換を行う段階。
   (ウ)工事実施段階:建替え工事を施工し、工事完了時にマンション建替事業に係る清算を行う段階。
    (エ)再入居と新管理組合の設立段階:新マンションに入居し、新マンシ ョンの管理組合が発足する段階。

C Bのプロセスのうち、BのA(イ)及び(ウ)の段階においては、管理組合が建替えの検討のため、調査を実施する。調査の主な内容は、再建マンションの設計概要、マンションの取壊し及び再建マンションの建築に要する費用の概算額やその費用分担、再建マンションの区分所有権の帰属に関する事項等である。

D Bのプロセスのうち、BのB(ア)の段階においても、修繕積立金を取り崩すことのできる場合があることを定めたのが第2項である。

E Bのプロセスによらず、円滑化法第45条のマンション建替事業の認可に基づく建替え、又は区分所有者の全員合意に基づく任意の建替えを推進する場合であっても、必要に応じて、第1項及び第2項、又は第2項と同様の方法により、修繕積立金を取り崩すことは可能である。ただし、任意の組織に関しては、その設立時期について管理組合内で共通認識を得ておくことが必要である。

F 円滑化法に基づくマンション敷地売却組合によるマンション敷地売却事業のプロセスの概要は、平成26年の円滑化法の改正を踏まえ作成された 「耐震性不足のマンションに係るマンション敷地売却ガイドライン」(平成26年12月国土交通省公表)を参考とされたい。この場合にも、建替えの場合と同様に、第1項及び第3項に基づき、必要に応じて、修繕積立金を取り崩すことは可能である。

G 建替え等に係る調査に必要な経費の支出は、各マンションの実態に応じて、管理費から支出する旨管理規約に規定することもできる

★建替え決議と専有部分の賃借人の関係

  たとえ、建替え決議が成立しても、替え決議の効力は、その建物の区分所有者以外の人には及びません。
 そこで、ある専有部分(室)に賃貸借契約による賃借人がいれば、建替え決議はこの賃貸借契約には及ばないため、その契約が有効である限り賃借人はその専有部分を使用できます。その場合、建物を取り壊すことになると、賃借人は建物の取り壊しの差止め請求ができます。

 また、正当の事由があれば、賃貸人(区分所有者)から、賃借人に対して賃貸借契約の期間満了時に更新拒絶の通知を出したり、途中解約の申し入れもできますが、「建替え決議」が正当の事由に該当するかどうかの判断は、建物の利用状況、建物の現況などが個々の事案ごとに判断されることになります。(借地借家法第28条参照)

<参照>借地借家法 第28条 (建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が
 建物の使用を必要とする事情のほか、
 建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに
 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

 この、面倒な賃貸借関係や抵当権などの権利も含めて「建替え」を進めるために、区分所有法での建替え決議の後を受けた形でマンションの建替え等の円滑化に関する法律 (旧:マンションの建替えの円滑化等に関する法律)が制定されました。

  

★なお、建替えについては、別途 のサイト

<参照> マンションの建替え等の円滑化に関する法律 を作っていますのでご利用ください。


★今後、増大する老朽化マンションと、合意の形成の困難さ ? 早期に「マンション管理士 香川事務所」へ相談すること

  建替えに関して、主務官庁の国土交通省は簡単にマニュアルを作っていますが、現実の世界では、建替えで区分所有者の意見をまとめることは、至難の技です。
 何故、老朽化したマンションでも一部の区分所有者が建替えに賛成できないかといいますと、それは、建替えにかかる2度の引っ越しや家賃負担など諸費用を区分所有者が負担できないためです。

 余命少ない高齢者は、今更建替えても無駄だ、死ぬまでこのままでいいと最後まで反対します。

 また建替えにより容積率が今までより大きくできたり、利便性がよければ、大手ディベロッパーも建替え後にできる余剰部分を販売でき利益を上げられますから建替えに参加して、区分所有者の費用の負担も少なくできますが、合意に至るまでの時間がかかるため、最近の不況下では、大手企業も建替え計画になかなか乗ってきません。
 それよりも建替えにおける一番の問題は、建替えをめぐり、管理組合内で賛成・反対の争いが発生し、今まであった良好なマンション生活での近所付き合いも壊れる場合がかなりあることです。

 しかし、建物の老朽化により、建替えは必ず来ます。他人事として避けては通れない問題です。
区分所有建物においては、区分所有法の建替え等の規定に従うことは当然ですが、これらは複雑です。
 また、最新の建築基準法や都市計画法など法律との関係を調べたり、近隣との調整をどうするかなど、マンション内部だけでは解決できない事項も多くあります。
そこで、マンションの建替えでは、当初から、専門家である「
マンション管理士」が参加する仕組みが必要でしょう。

 なお、老朽化での建替えは、建築後、平均して38年程度でしているようです。また、建替えの発意から新しいマンションが建つまでに、平均7年もかかっているとのことです。
また、平成26年末時点での国土交通省の調べによりますと、全国のマンションは、613万戸があり、そのうち耐震性が不足している旧耐震基準(昭和56年以前)で建設されたのは、106万戸もあり、地震大国:日本では、災害にあう前に、建替えろといっています。(平成30年度に更新有り)

 


{設問-1} マンションの管理組合(区分所有法第3条に規定する区分所有者の団体をいう。以下同じ。)の集会において区分所有者及び議決権の各4/5の多数こよっても決議をすることができないものは、区分所有法及び民法の規定によれば、次のうちどれか。

1 老朽化したマンションを取り壊して、平面駐車場にする旨の決議

答え:決議できない。
建替えは新たに建物を建築することが必要(区分所有法第62条1項参照)で、壊して平面駐車場にするには、民法第251条「共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」により、区分所有者全員の同意が必要。

2 居住用のマンションを取り壊して、その敷地に新たに区分所有された住居の部分のある商業用ビルを建築する旨の決議

答え: 決議できる。
区分所有法第62条の建替え決議は平成14年の法改正により従前と同一用途である要件が外れたので決議可能。*改正前の情報との混同を狙った設問。*

3 新たに建築されるマンションの敷地利用権の帰属に関して何らの定めをしない建替え決議

答え: 決議できる。 
区分所有法第62条2項「集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる」の規定により、敷地利用権については決議の要件ではない。ただし、建替決議では、再建建物の区分所有権の帰属に関する事項は定めなければならない。(区分所有法第62条2項4号)

4 単棟のマンションを取り壊して、その敷地に新たに2棟のマンションを建築する旨の決議

答え: 決議できる。
区分所有法第62条の建替え決議で再建建物の棟数に制限は無い。

正解:1


{設問-2}平成23年 マンション管理士試験 「問9」

〔問 9〕建替え決議において、再建建物の敷地とすることができない土地は、区分所有法の規定によれば、次のうちどれか


1 現在の建物の敷地(「甲地」という。以下この問いにおいて同じ。)の一部を売却し、残った土地

○ できる。 
マンションの建替え決議は、区分所有法第62条1項。
 「(建替え決議)
  第六十二条  集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全 部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。 」とあり、
再建建物の敷地については、@単純に前と同じ敷地に建てる、A前の敷地の一部を売ったりして小さくなった前の敷地の一部に建てる、B前の敷地の全部に近隣 の土地を加え広くして建てる、C前の敷地の一部は残し近隣の土地を加える の4つの方法が許されています。この基本は、どんな方法であっても、最低、元の 敷地があった土地の上に、再建することです。
設問の、「現在の建物の敷地の一部を売却し、残った土地」は、A前の敷地の一部を売ったりして小さくなった前の敷地の一部に建てるに該当しています。


2 甲地の周囲の土地を購入して、甲地と新たに購入した土地を含む拡張された一体の土地

○ できる。 
これは、選択肢1で述べましたように、区分所有法第62条1項での、B前の敷地の全部に近隣の土地を加え広くして建てるに該当します。



3 甲地と等価交換した甲地と同面積の隣接した土地

X できない。 
等価交換した土地が例え隣接していても、選択肢1で述べましたように、元の敷地の上に再建されていませんから、区分所有法第62条1項に該当しません。



4 甲地の大部分を売却し、その代金で残った甲地に隣接する土地を購入し、甲地の残部と新たに購入した土地を含む一体の土地 

○ できる。 
この場合は、選択肢1で述べましたように、元の敷地の一部が入っていますから、区分所有法第62条1項でのC前の敷地の一部は残し近隣の土地を加える に該当します。



答え:3 (ここは、私の「超解説 区分所有法」でイラストまで見ていた人にとっては、超簡単だった?)

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第六十二条

2項   建替え決議においては、次の事項を定めなければならない。

  一  新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要

  二  建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額

  三  前号に規定する費用の分担に関する事項

  四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項

過去出題 マンション管理士 R01年、H18年、
管理業務主任者 H15年、

建替えの「決議」で定めるもの...これらは、集会の通知で出す「議案の要領」プラス「建替えの事項」(5項参照)と混同しないように。あくまでも「建替え決議」で定めるものである。
 しかし、建替えの決議で定めるために、これらについても、議案の要点と、主な内容を通知することになる。

★本2項の1号から4号は建替え決議で定める建替え計画の概要です。

  建替えでは、その重要性から、必要的決議事項(建替え集会で必ず決議する必要のある事項)として次の4項目を定めて決議します。
  これらを定めていない決議は無効となりますから、注意してください。

★決議事項-1: 新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要

 本第62条2項1号の「再建建物の設計の概要」とは、新しく建築される建物全体の用途・構造材料・階数・建築面積・延べ面積等に関する事項の概略ですが、その詳細の程度は明らかではありません。
しかし、単に建物の概要ではなく「設計の概要」として建替え決議参加者が、建替え事業参加の判断の要素や次の2号の費用概算額の根拠となることを予定しているとみられることから建築確認申請に必要な詳細な実施設計までは要求されないまでも、建物建築で概算見積りをとれる程度の基本設計図程度のものは必要と思われます。

 また、この「再建建物の設計の概要」を決める際には、建築基準法や都市計画法等関係する規制もありますので注意が必要です。

  ◎各専有部分の用途、配置、床面積、間取は示すこと。

★決議事項-2: 建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額

 2号の「建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額」は、
  ア.既存の建物を取り壊すといくらかかるのか と
  イ.1号で規定された再建建物の基本設計に基づく概算の見積り額はいくらか
 で、いずれも1棟全体の建物の総額です。
各区分所有者の個別の負担額は次の3号の費用分担として規定されています。

 この2号で規定される建物の取り壊しと再建の概算額には、建替え工事期間中の仮住まいの費用や引越代・新居の家具備品代その他の個人的経費は含まれません。
新築費も建物の用途や広さによっては専有部分の全設備が詳細に含まれるとは限らず、別途内装代の負担が発生することがあります。

 具体的に考えられる費用としては、
  1.取り壊し、建設工事費、設計、測量、工事の近隣対策費
  2.建替え事業のためのコンサルタント費
  3.建替え管理組合設立費用、権利変換計画策定費用
  4.管理組合運営、事務費  などです。

 区分所有法第62条2項2号で求められているのは、まだ概算の段階ですから、最終の建設実費がこの概算額を超えても、建替え決議は有効です。

  ◎概算額:区分所有者の賛否の判断に支障のない限度でのある程度の幅のある決め方でいい。

★決議事項-3: 前号(2号)に規定する費用の分担に関する事項

 3号は前の2号で算出された建物の取り壊しと再建での概算費用の負担方法の定めです。

 負担額の基準・決定方法やその支払方法等が定まればよく、この段階では特定の個人がいくら負担するかまでを定める必要はありません。
新築費の負担は専有部分や共用部分を包含する1棟の建物の新築費の分担ですから、建物のどの位置にどの程度の広さのどのような用途の専有部分を取得するかにより異なります。
このことは新築分譲マンションの各部屋の価格が同じ広さ・間取りであっても上層階や南向きなどの方位により異なることからも容易に理解できるでしょう。

 新築ですから、既存建物の管理の基準である区分所有法第19条(共用部分の負担及び利益収取)や管理規約の費用分担の定めは適用になりませんから、適正妥当な負担方法を決定することが建替事業参加者間の公平を保つ上で重要です。(3項)
従って、必要に応じて不動産鑑定士等の専門家に依頼してその基準を策定することになります。また、取り壊し費用は、現存建物の大きさや附属施設の有無などにより決まります。

★決議事項-4: 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項  〜土地の敷地利用権の帰属は入っていない〜

 4号は再建建物の区分所有権(建物の専有部分の権利)の帰属先、即ち誰が建物のどこを取るか、又はそれをどのように決定するかに関する事項です。

 区分所有法では、このように簡単に規定していますが、この建替え決議事項を作成した段階では、建替えに対して、現在の区分所有者のうち誰が賛成で誰が反対かはまだ確定していませんから、再建建物の総戸数も確定することは難しいのが実情です。
 また、平成14年の改正により、再建建物は住居用だけでなく店舗や事務所を加えるなど用途の選択の自由も認められましたから、建替え後で得られる室(専有部分)が必ずしも建替え前と同じ階数や方位になるとは限りません。多くの場合、建替え後で得られる室(専有部分)数は、建替え前とは異なります。
そして、既存の区分所有者の他に新しくディベロッパー等の参加も考えられ、その際は、ディベロッパー等の取り分となる室(専有部分)もでてきます。

 そこで、区分所有者が再建建物において取得する室(専有部分)は、建替後にある室の希望者が複数いれば抽選その他の決定方法を採用すると定めることになるでしょうが、紛争を未然に防ぐため、かなりの部分で建替え後の計画を煮詰めておくことが肝要です。
最低、室の選定のルールや基準は決めておくことが推薦されます。
一般的な基準としては、各区分所有者が自由に希望の室を選定でき、重複希望の住戸があった場合は、抽選としています。
 しかし、高齢者や資金的な弱者を優先する方法も検討すべきです。

この場合においては、特に建替えで負担した費用と新規に取得した室との金額の差額の清算方法も決めておくことです。

 なお、4号では再建建物の権利である区分所有権の帰属とだけ規定し、各専有部分に対応している土地の権利である「敷地利用権」については規定していません
これは土地の敷地利用権は、以前のままで、建物だけを新しく建替えることだけを予想しているためですが、これでは、新規に土地を購入したり、土地を分譲した場合、つまり、再建建物における敷地利用権の割合の変更(再配分)が必要となった場合、の処理をどうするかが議論されることになります。

 この点について、立法担当者は、土地の権利である敷地利用権割合の再配分は建替えにおいて必要不可欠ではなく、また土地の権利の変動は多数決の理論には馴染まなく、建替え決議とは別に建替え参加者の合意で、再建建物の敷地利用権の内容や価格は処理すべきと考えたようです。

 次の3項に定める「各区分所有者の衡平を図るため」には、本来、建物だけでなく土地の敷地利用権も含めた再配分が図られる必要がありますが、区分所有法自体にそういう規定がない以上、あらためて敷地利用権の一部譲渡でバランスをとるか、またはそのような手当てのある「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」を適用して事業を行うしか方法はないようです。

 しかし、敷地が従前より大きく変更する建替えでは、敷地利用権の割合も大幅に変更されることが考えられますから、このような場合には、敷地利用権の帰属に関する情報も建替え決議事項として取り入れる必要があると考えます。

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第六十二条

3項  前項第三号及び第四号の事項は、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

衡平(=公平)...釣り合いのとれていること。当然といえば、当然だけど、衡平にやること。

前項第3号及び第4号項とは、

 三  前号に規定する費用の分担に関する事項
 四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項

★衡平(公平)の原則

 3項は建替え事業における各参加者間の衡平(公平)の原則を定めた規定ですが、それ自体は条文化しなくても当然のことです。

 規定されている第62条2項3号の「建替え費用の分担」と同じく4号の「再建建物の区分所有権の帰属」は、各区分所有者での衡平がとれていなければならないということです。
ただし、上の2項でも説明しましたように、建替えに対する賛成・反対の数が最終的に確定していない建替えを決議しただけのこの時点では建替え参加者の費用の負担も大まかな算定(概算)であり、また再建後の建物の区分所有権が具体的な形となる床面積やその位置について区分所有者間での衡平を図るのは至難の業であり、何をもって各区分所有者の衡平が害されるのかは、個々の事例によって判断することになります。

 この衡平の原則を満足するためには「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」を適用するしか方法はないでしょうから、この3項は事実上建替えは「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」によるものとする、と記載するのと同義のように思われます。

 もっとも、それはこの規定が効力のない単なる精神規定であるというのではありません。
建替え賛成者内部での多数の横暴を禁じ、少数者の保護を規定しているのは、ここだけですから、各区分所有者の衡平を害する取り決めはこの規定に違反して無効となると解します。

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第六十二条

4項  第一項に規定する決議事項を会議の目的とする集会を招集するときは、第三十五条第一項の通知は、同項の規定にかかわらず、当該集会の会日より少なくとも二月前に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸長することができる。

過去出題 マンション管理士 H27年、H20年、H16年、
管理業務主任者 H26年、H15年、

”伸長”することができる...「建替え決議」を目的とした集会の招集通知の発送は、会日の2ヶ月前を伸ばすこと(プラスだけ)を規約で、できる。短く(マイナス)することは出来ない! 建替えは充分に時間をかけて検討すること。

★建替えの集会の招集の特則

 本4項では建替え決議の集会招集通知の発送を第35条で規定する一般の集会の「会日の1週間前(初日不算入)の発送」から、その重要性を考えて「2ヶ月前」に伸ばし、この期間を変更するなら更に伸長(伸ばすこと)は認めても短縮(短くすること)は認めないものとしています。

★復習になりますが、通常の集会の招集では、(第35条1項及び5項)

<参照>区分所有法 第35条1項、5項:(招集の通知)

第三十五条  集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる

5  第一項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第十七条第一項、第三十一条第一項、第六十一条第五項、第六十二条第一項、第六十八条第一項又は第六十九条第七項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない

      A.「会議の目的」 を示し、

      B.以下の項目では、「会議の目的」のほかに「議案の要領」も通知して、前もって検討させることにしています。(第35条5項

<参照>区分所有法 @第17条1項(共用部分の重大変更):

  共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

 <参照>区分所有法 A第31条1項(規約の設定・変更・廃止):

  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 <参照>区分所有法 B第61条5項(建物の大規模滅失の場合の復旧):

  第一項本文:(建物価格の2分の1以下に相当する部分が滅失したときは、各区分所有者は滅失した共用部分及び自己の専有部分を復旧することができる)に規定する場合を除いて、建物の一部が滅失したときは、集会において、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数で、滅失した共用部分を復旧する旨の決議をすることができる。

 <参照>区分所有法 C第62条1項(建物の建替): 

  集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

 建替え決議を目的とする集会通知を、集会開催日(会日)の最低2か月前(初日不算入)に発するように規定していますのは、区分所有者の共有物である建物を壊すことの出来る建替えが区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数決でできることの重大性によるものです。

 建替えの是非や建替えで負担しなければならない費用などを集会日の前に充分に検討するための時間として、建替え決議を目的とする集会の招集通知は、集会日よりもすくなくとも「2ヵ月前」に
  @通常の会議の目的 にプラスして
  A議案の要領 、さらにプラスして、以下の
  B「建替えに関する4事項」 も通知して各区分所有者宛に発送することにしています。(5項)

     一  建替えを必要とする理由
     二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳
     三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
     四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

 会日よりも少なくとも2ヶ月前に発しないでなされた建替え集会の決議は無効となりますので、注意してください。

★通常の集会の招集通知は、会日の1週間前までに出せばいい(第35条1項)し、また規約があれば、1週間を伸ばしても、短くしてもいい。(プラス、マイナス可)

  しかし、建替えは重大な事項なので、区分所有者に熟慮させるため最低、会日の2ヶ月前に出すこと。これは、規約で伸ばす(プラス)ことだけは可能。短縮(マイナス)はできない

     これが、ポイント。

 ★そして、なお建替えでは、集会日の1ヶ月前までに説明会も開かなければならない。(後述:第62条6項)

★また、区分所有者全員が同意している時には、招集の手続きを経ないで、集会を開ける(第36条参照)ため、この4項で定める「2ヶ月以上前の招集通知発信」も建替えの決議の前に区分所有者全員の同意があれば、省略できると考えられます。(現実的には、適用は少ない場合でしょうが。)

<参照>区分所有法 第36条 (招集手続の省略)

第三十六条  集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。

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第六十二条

5項  前項に規定する場合において、第三十五条第一項の通知をするときは、同条第五項に規定する議案の要領のほか、次の事項をも通知しなければならない。

   一  建替えを必要とする理由

   二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳

   三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

   四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 H15年、

通常の議案の要領のほか、次の事項...建替えの通知では、通常の@会議の目的、プラスA議案の要領、さらにプラスB4項目がいる。(これは、通知での規定。決議事項についても当然「議案の要領はだす。さらに5項の通知事項もだす。混同しないように

 <参照>区分所有法 第35条5項:

 第一項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第十七条第一項、第三十一条第一項、第六十一条第五項、第六十二条第一項、第六十八条第一項又は第六十九条第七項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。


★復習...普通の集会の通知では、「会議の目的の事項」を示せばいいが、以下の6つは、「議案の要領」も通知がいる。(第35条5項)

   @共用部分の重大変更(第17条1項)、(4分の3=75%以上、ただし区分所有者の数だけ 過半数 まで少なくできる

   A規約の設定・変更・廃止(第31条1項)、(4分の3=75%以上)

   B建物の大規模滅失の場合の復旧(第61条5項)、(4分の3=75%以上)

   C建物建替え(第62条1項)、(5分の4=80%以上)

   D団地規約の設定(第68条1項)、(4分の3=75%以上)

   E団地内の2以上の特定の区分所有建物の建替について一括して建替承認決議に付す旨の決議(第69条7項)(5分の4=80%以上)

ただし、集会では、区分所有者全員の同意があれば、招集手続きの省略ができる。(第36条)
  これは、重大な建替えの決議の集会でも適用される。

<参照>区分所有法 第36条 (招集手続の省略);

第三十六条  集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。


★本5項は、建替えを会議の目的とする集会においては、第35条で規定する通知内容として、
  @会議の目的たる事項(第35条1項) と 
  A議案の要領(第35条5項) の他、さらに 
  B4項目(第62条5項) を通知させる規定です。

★@会議の目的たる事項 〜議案〜

  通知事項として1番目に必要な「会議の目的たる事項(議案)」は、会議の目的として「○○マンションの建替え決議に関する件」など該当のマンションで建替えを行う集会であることを明確に示します。

★A議案の要領

 2番目の「議案の要領」としてのポイントは、「建替えをした場合にどうなるか」の情報を区分所有者に伝え、建替えをするメリットとしないときの比較判断ができるものです。

  新たに建築する建物の計画概要として、次の事項の要点と主な内容を示します。

  A.建替え決議で定める4つの事項を要約したもの(内容は、2項参照)

  1.新たに建築する建物(以下この項において再建建物」という。)の設計の概要
  2.建物の取り壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額
  3.上記2の費用の分担に関する事項
  4.再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
    

  B.さらに、建替えでは、下の4項目も記載し通知が必要。通知の狙いは、「建替えた」場合と、このまま、維持・回復する方法との比較検討材料を、区分所有者に提供することです。

 ★1号:建替えを必要とする理由

      ◎当然に、なぜ建替えが必要かその説明。出来るだけ具体的に問題点を指摘し賛否の検討が可能な程度に、内容を明らかにしたもの。
      例:@老朽化により、補修や取替え等では、相当額の費用がかかる。
        A各専有部分の床面積が少なくて、住戸として狭すぎる。
        Bエレベーターが設置されていない など。    

 ★2号:建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳

     2号は、費用対効果の判断材料の提供ということで旧法の考え方を引きずったものですが、建替えか否かを判断するときの重要な事項であることは平成14年の改正前と同じです。
     ただし、この点は旧法でも恣意的に作成することが可能な不明確事項として問題のある項目ですから、その判断には注意が必要です。
     1号で規定する「建替えを必要とする理由」となった老朽化や毀損の場合の、当面かかる補修費及び通常の管理費と狭く考えるのが妥当ではないでしょうか。
     以後の補修関係の情報は3号の長期修繕計画にて提供されます。
     老朽化した部位を具体的に、例えば、壁や配管、電気の容量、エレベーターの速度・台数 などで示すといいでしょう。

     さらに、最新の法令等の改正により、耐震基準を満たすために必要な工事費なども検討事項に入ります。

 ★3号:建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

     3号は長期修繕計画の内容であり、長期修繕計画は何時、何の工事をいくらで実施することを予定するかの一覧表です。
     長期修繕計画や次の4号の修繕積立金は国土交通省の指導もあって現行の管理組合ではおなじみの制度になりつつありますが、平成14年の区分所有法改正ではじめて区分所有法上登場した言葉です。
    近時多くの管理組合が長期修繕計画を作成することになりましたが、長期修繕計画がない管理組合はこのために特に作成することまでは要求されず、なければ出す必要はないとされています。
    この規定は、2号の当面の必要工事とこの3号の大規模工事計画とをつきあわせれば、近々の予定工費が予想できますから、それと建替え費用との比較を行ってもらおうというものです。

 ★4号:建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

    4号の修繕積立金は、3号の長期修繕計画を根拠に大規模修繕費を予め積み立てる工事準備金で、これも近年多くの管理組合で採用されています。
    建替えするとなれば既存建物の修繕は不要となりますから、この修繕積立金を建替え費用の一部に充当することが考えられますからそのための規定といえます。
   ◎もっとも、区分所有者の団体である管理組合の清算時には管理費や専用使用料等の繰越金・保険料の精算金等、積立金以外の余剰金もありえますから、本来は実務上も、区分所有者の団体(管理組合)が消滅した場合での、仮清算による区分所有者への返還金とするほうが良かったかもしれません。
    ただし、この修繕積立金は使途の定まった準備金で建替えに反対している区分所有者も含めた全区分所有者の総有に属しますから(管理組合法人でも実体は同様)、その使途以外の使用である建替えに使用するには建替え反対者も含めた全区分所有者の合意が必要です。

   従って、実際には次第63条の「売渡請求」前に修繕積立金を精算する場合は、修繕積立金は建替え反対者には返金し、建替えの賛成者の受取分だけ建替え費用に回すことになり、売渡請求後(全員の合意が得られる状態)の精算の場合は全員の合意を得てその全額を建替え費用に充当することになるでしょう。
後者の場合には修繕積立金を含めた管理組合余剰金の清算分が売渡代金に反映されて個別に清算されることになります。

★建替えか修繕かの判断基準

 建替えか、このまま修繕を続けていくのかの判断にあたっては、現在のマンションの老朽化と区分所有者の不満やニーズを掴み、それらを費用と比較して判断します。

  ◎老朽化の判定基準

    @構造上の安全性(特に耐震性)

    A防火・避難の安全性

    B躯体及び断熱仕様に規定される居住性

    C設備の水準

    Dエレベーターの設置状況

◎まとめ

◎集会の決議で「会議の目的」以外に「議案の要領」が必要なもの
番号 条文 内容  決議 さらに必要な「通知事項」
第17条1項 共用部分の重大変更  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数、ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる  
第31条1項 規約の設定・変更・廃止  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議  
第61条5項 建物の大規模滅失の場合の復旧  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数  
第62条1項 建物の建替え

区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数

(*建替え決議は、4/5以上に注意)

一  建替えを必要とする理由
二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに 要する費用の額及びその内訳
三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額
第68条1項 団地規約の設定 土地または附属施設 共有者の四分の三以上でその持分の四分の三以上を有するものの同意  
専有部分のある建物 区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による決議  
第69条7項 団地内の2以上の特定の区分所有建物の建替について一括して建替承認決議に付す旨の決議  特定建物の区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数
(建替え決議は、4/5以上に注意)
 

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第六十二条

6項  第四項の集会を招集した者は、当該集会の会日より少なくとも一月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。

過去出題 マンション管理士 R01年、H20年、
管理業務主任者 H15年、

説明会の開催が必要...建替えの集会の少なくとも1ヶ月前(初日不算入)に説明会も開くこと。書面を交付しただけでは、説明会ではない。

★建替えの説明会を開くこと 〜集会の少なくても1ヵ月前までに〜

 「説明会」は、「集会」ではない...「説明会」は区分所有法で定める「集会」ではありませんから、成立の要件や決議の要件はありません。ただ、説明をする事項(6項)と開催方法(7項)とが決められています。また、説明会の記録の作成や保管は義務つけられていませんが、後日のトラブルを防ぐためにも、説明会の記録を作成し、保管しておくことをお勧めします。

★建替決議の集会を招集した人(管理者等)は、建替えの集会日よりも、最低1ヶ月前までに、

    A.決議事項

      一  新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要

      二  建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額

      三  前号に規定する費用の分担に関する事項

      四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項

    B.建替の通知事項

      一  建替えを必要とする理由

      二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに 要する費用の額及びその内訳

      三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

      四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

   のA.Bの両方について「説明会」を開かなければならない。

★建替えの決議事項を充分に検討させる期間が1ヶ月以上必要とみている。

*この説明会の通知は、普通の集会と同じように、1週間前(初日不算入、中7日あること)までに出せばいいが、規約でも短縮はできない。伸ばすことはできる。(第62条7項)

★建替えの説明会 の必要性

 本6項では、建替えの決議をする集会を開く前に、建替えについての説明会の開催を要求して建替え事業計画の各区分所有者への周知を図っています。

 この説明会は、建替えを目的とした集会(総会)を招集した者(管理者等)が開催し、その内容は集会議案、即ち2項各号の「要領」と、5項各項の招集時の「通知事項」です。



 そして、この説明会は建替え集会の会日より少なくとも一月前(初日不算入)までに行うものとされ、この期間は伸長(プラス)はできても短縮(マイナス)は許されていません。(7項参照)
プラスだけが許されているのは、建替えの内容を理解して賛否を検討するのに必要な熟慮期間を少なくとも一か月は保障しようという趣旨です。

 また、建替え決議の前に、この建替えについての説明会が開催されないと、建替えの決議も無効になりますので注意してください。

★必要ならば、建替えの説明会は何度でも開くこと
 建替えの説明会の回数は規定されていませんから、1回の説明会で全部を説明しても、また数回に分けて一部ずつ説明してもかまいませんが、上記の趣旨から全部の説明が終わってから最低1ヵ月以上後に建替え集会が開催されるように説明会を行う必要があります。
ただし、補習の意味で再度説明する場合はこの規定による説明会ではないので、建替え集会直前でもかまいません。

 説明者は、通常、関係の役員がなりますが、質問内容によっては、例えば、建築における専門的な知識を必要とする場合などでは、建築の専門家を同席させ、その者から回答させることも可能です。

◎なお、説明会も開催の場所や時間その内容を区分所有者に知らせて参加の機会を保障する必要がありますので、招集手続きが必要でありそのため第35条1項から4項までの集会招集手続きがこの説明会の招集の場合に準用されています(7項)。

この場合、説明会が数回に亘る場合は予めその全部又は一部につき事前にこの招集手続きを踏んでない場合は、そのつどこの招集手続きを踏む必要があります。

★説明会での重要項目
  建替え後の建物の建設費用の負担とどこへ入居できるかが最大の討論項目になります。
  現在の立地として利便性が高いマンションでは、建替えても分譲の可能性があったり、容積率が以前より高くなる時には、余った室を販売したりして、新規建設費用もうまく回収できます。
  しかし、高齢者が多いマンションや利便性の悪いマンションでは、高齢者は新規ローンも組めないため費用負担も難しく、また建替えをしなくても、余生分は修繕でまかなえるなどの主張があり、合意をえることは至難の業です。

  再建建物の入居場所の決定は、各区分所有者の思惑が入り乱れて纏まりません。現在の広さ、階数を原則にした戻り入居から説明をして、余裕があれば、抽選などがよさそうです。

★ここが、マンション管理士の出番!
 今後、増加する建替え対象のマンションにこそ、専門のコンサルタントが必要です。
 当初から、建設会社やディベロッパーが入ると利益中心となりますので、居住者の立場に立った専門の知識を持ったマンション管理士が登場します。

 そこで、建替えを検討するには、この「超解説 区分所有法」も解説しています区分所有法の専門家である「マンション管理士 香川事務所」 へご相談ください。

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第六十二条

7項  第三十五条第一項から第四項まで及び第三十六条の規定は、前項の説明会の開催について準用する。この場合において、第三十五条第一項ただし書中「伸縮する」とあるのは、「伸長する」と読み替えるものとする。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 H15年、

★説明会における通知、招集の規定(第35条、第36条)の準用

<参照>区分所有法 第35条1項;(招集の通知)

 集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる


<参照>区分所有法 第36条;(招集手続の省略)

第三十六条  集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。

★説明会の開催も、第35条、第36条に規定されている集会の「招集の通知」にそって通知がなされるが、建替えの説明会である重要性から、会日より少なくとも1週間前の発信を「伸ばす(プラス)」だけはできる。短縮(マイナス)はできない。

★説明会の開催は、建替え集会に先立ち1ヶ月前に開催すること。この通知は最低1週間前に出すこと。開催と通知の違いを明確にしておくこと。

★ただし、区分所有者全員の同意があれば、招集の手続きは省略できる。(第36条参照)。手続きが省略できるだけで、説明会の開催は必要。

★建替え集会開催までの流れをまとめると、

 

★なお、説明会での、議事録の作成やその保管は要求されていません(第42条の準用がない)が、建替えをめぐるトラブルが多いことを考えると、説明会でも議事録を作成し、ちゃんと保管しておいてください。

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第六十二条

8項  前条第六項の規定は、建替え決議をした集会の議事録について準用する。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

*建替えでは誰が賛成か反対かを記録すること。 これが重要!

<参照>前条6項=第61条6項:

 前項の決議をした集会の議事録には、その決議についての各区分所有者の賛否をも記載し、又は記録しなければならない。


★建替え決議の議事録には、一般の議事録のほかに(第42条2項)、各区分所有者ごとに「賛成・反対」が記録されること。ここでの賛否は後の、売渡請求で使用する重要な記録となる。

<参考>標準管理規約47条関係 コメントF  

F 建替え決議及びマンション敷地売却決議の賛否は、売渡し請求の相手方になるかならないかに関係することから、賛成者、反対者が明確にわかるよう決議することが必要である。なお、第4項及び第5項の決議要件については、法定の要件を確認的に規定したものである。

★建替え集会での議事録の重要性 〜必ず賛否を記録すること〜

 建替え決議は、あとで出てきます(第63条)建替え反対者に対する「売渡請求の根拠となる重要な議事」ですから、前第61条6項の「大規模滅失での復旧の場合」と同様に該当の集会(総会)議事録には各区分所有者ごとの賛否も記載することが要求されます。

 なお、平成14年の改正でIT化により集会議事録としては、従来からの書面による方式の他、電磁的記録も追加されましたから(第42条)、この決議の議事録も当然に電磁的記録であっても問題はありません。

★賛成・反対の採決の記録 〜議決権投票用紙に記載して残すこと〜

 建替え決議での「賛成・反対」はその重要性から、別途「議決権投票用紙」を作成し、各区分所有者に「署名 ・捺印 」の上提出してもらう方法が確実です。
 挙手での採決は、後日の証拠がなく、望ましくありません。

 この「議決権投票用紙」は議事録の添付書類として保管してください。


{設問-1} マンションの建替え決議に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 新たに建築する建物(新建物)の主たる建物の使用目的は、建替え前の建物(旧建物)の使用目的と同一でなくてもよいので、住居専用のマンションを店舗又は事務所のみの区分所有建物に建て替えるための決議をすることができる。

答え:正しい。
区分所有法第 62 条による。区分所有法の旧規定では、「建物の敷地に新たに主たる使用目的を同一とする建物を建築する」と規定されていたが、平成14年の改正により新法では、 「集会において、区分所有者及び議決権の各 5 分の4以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下、「建替え決議」という。)をすることができる。 」となった。建物があればよく、元はマンションでも建替え後は店舗だけでもいい。

2 旧建物の敷地の全部とこれに隣接する土地を合わせた土地に新建物を建築するための建替え決議をすることもできるが、旧建物の敷地の一部とこれに隣接する土地を合わせた土地に新建物を建築するための建替え決議をすることもできる。

答え:正しい。
選択肢1と同様。区分所有法第 62 条により可能である。

3 建替え決議のための集会招集通知をするときには、その議案の要領のほか、建替えを必要とする理由、建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳、建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容、建物につき修繕積立金として積み立てられている金額をも通知しなければならない。

答え:正しい。 
区分所有法第62条第5項:「(前略)第 35 条第1項の通知(建替え決議のための集会招集通知)をするときは、同条第5項に規定する議案の要領のほか、次の事項をも通知しなければならない。
   一 建替えを必要とする理由
   二 建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳
   三 建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
   四 建物につき修繕積立金として 積み立てられている金額」とある。

4 建替え決議のための集会招集通知は、当該集会の会日より少なくとも2月前までに発しなければならず、また、当該集会の会日より少なくとも1月前までに区分所有者に対する説明会を開催しなければならないが、これらの期間は規約で伸長又は短縮することができる。

答え:間違い。 短縮はできない
区分所有法第 62 条第4項により、設問の前半の記述は正しい。しかし、「規約で伸縮又は短縮することができる」は誤りで、「規約で伸長することができる」が正しい。短縮はできない。

区分所有法第 62 条第 6 項:「第1項に規定する決議事項(建替え決議)を会議の目的とする集会を招集するときは、第 35 条第1項の通知は同項の規定にかかわらず、当該集会の会日より少なくとも2月前に発しなければならない。ただし、この期間は規約で伸長することができる。」
「第4項の集会を招集した者は、当該集会の会日よる少 なくとも1月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。」とある。

区分所有法第 62 条第 7 項:「第 35 条第1項から第4項まで及び第 36 条の規定は、前項の説明会の開催について準用する。この場合において、第 35 条第1項ただし書中「伸縮する」とあるのは「伸長する」と読み替えるものとする。」

正解: 4


{設問-2}甲マンション管理組合では、建替えの時期が近づいてきたので、建替え決議を行う場合の進め方等についてマンション管理士Aに相談したところ、Aから次のような回答があった。これらの回答のうち、標準管理規約によれば、適切でないものはどれか。

*注:標準管理規約は平成28年3月に改正があり、解説において未対応がありますから、注意のこと。

1 建替えに関する合意形成に必要となる事項に係る調査費用は、通常の管理に要する費用ですから、管理費から支出しなければなりません。

答え:適切でない。
標準管理規約28条「修繕積立金」1項4号「建物の建替えに係わる合意形成に必要となる事項の調査」により、管理費でなく修繕積立金から取り崩すことになっている

2 建替え決議を目的とする総会の招集通知は、少なくとも会議を開く日の2ヵ月前までに組合員に発しなければなりません。

答え:適切である。
標準管理規約43条1項「総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない」の規定のとおり。

3 少なくとも総会の会議を開く日の1ヵ月前までに、招集の際に通知すべき事項について組合員に対し説明を行うための説明会を開催しなければなりません。

答え:適切である。
標準管理規約43条6項「建替え決議を目的とする総会を招集する場合、少なくとも会議を開く日の1か月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について組合員に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない」の規定のとおり。

4 建替え決議は、どの組合員が賛成で、どの組合員が反対であるかが明確に分かるようにするため、建替えに賛成か反対か、どちらかに○を付けさせるなどの方法でしなければなりません。

答え:適切である。
標準管理規約コメント第47条関係E「建替え決議の賛否は、売渡し請求の相手方になるかならないかに関係することから、賛成者、反対者が明確にわかるよう決議することが必要である」のとおりで、○付けも可能。

正解:1

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(区分所有権等の売渡し請求等)

第六十三条

1項  建替え決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。

過去出題 マンション管理士 H15年、H14年、
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、「脱書面、脱対面」で、新しく2項が創設され、以下項がずれました。

書面で催告...建替えの決議がされても、再度、賛成をしなかった人(反対者、欠席者、棄権者)に確認をする。後日のトラブルを回避するために、配達証明付きの内容証明郵便がいい。

★建替えに賛成か、反対かを確定させること → 売渡請求の基になる

★本第63条に規定される1項から 8項 7項 までは全体で建物に関する区分所有権及びその土地に関する敷地利用権の「売渡請求」について定めています。

 前の第62条により、建替え決議が成立すると、建物を取り壊して建替えに着手することになりますが、そのためには既存の権利関係を整理しなければなりません。
 区分所有者の全員が建替えに参加する場合には、建替え決議で定まった方法により、敷地関係はそのままで既存の建物の区分所有権は建物取り壊しにより消滅し、新築建物の竣工引渡と同時にその区分所有権を新たに取得することになるので区分所有者の権利関係は割合単純です。

 しかし、建替えに反対や不参加の者がいる場合には、反対者の権利をそのままにして、建物を取り壊すと他人の権利侵害として民法上の不法行為(民法 第709条)、また刑法上の建造物損壊罪(刑法第260条)となり、建替え賛成者の建物の取り壊しの行為が許されないことになります。

<参考>民法 第709条(不法行為による損害賠償)  (改正なし)

第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

<参考>刑法 第260条(建造物等損壊及び同致死傷)

第二百六十条  他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 そこで、建替えを合法的に行うためには、建替え反対者の権利を合法的に無くして、全員の合意による建替え事業を進める必要があり、それは具体的には、建替えの非賛成者を建物から立ち退かせることになります。
 
 この権利関係を伴た立ち退きのやり方は非常に難しいのですが、区分所有法がとった手続方法は、もともとあった区分所有者の団体から、少数の建替え非賛成者を排除し、多数の賛成者で構成される別の集団への移行です。
最終的には、建替え賛成者だけで構成される別個の集団が「建替え」を実行します。

 平成14年の法改正の時点で、区分所有法第3条で規定される「区分所有者の団体=管理組合」が存続して、建替えまで実行する案も検討されたようですが、複雑になるのでやめたとのことです。

 そこで、建替え反対者の利益を守りつつその権利関係の解消が図られる必要があります。
その手段が本第63条の中心となる建替え非賛成者が有している権利をなくすこと。(権利を奪うといってもいいのですが)。具体的には「建物の区分所有権と土地の敷地利用権の売渡請求権」を建替え賛成者の集団が行使することです。

★催告をする者 → 集会を招集した者

  建替え決議があった後に、建替えに賛成しなかった区分所有者(反対者・欠席者・棄権者)に対して再度建替えに賛成か反対かの回答を遅滞なく催告するのは、「建替えの決議があった集会」を招集した人です。管理者となっていないことに注意してください。
 ここは、管理者(理事長)とすると、建替えを実行するのが、区分所有法第3条で定める区分所有者の団体=管理組合となるおそれがあるため、それとは別個の建替えに賛成する「集団」が建替えを実行すると構成したものです。
 「建替えの決議があった集会」を招集した人が、「遅滞なく」建替え決議に賛成しなかった区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告します。(1項)

★注意:区分所有法では、買取請求(復旧の場合)と売渡請求(建替えの場合)がある

  買取とか売渡とは面倒ですが、ここは明確に区別して理解すること必要です。

  ◎復旧の場合(区分所有法第61条7項)には、復旧非賛成者からの「買取請求」が、建替えにおいては建替え賛成者からの「売渡請求」と、請求をする行為者が反対者/賛成者と逆転しているのは、復旧の場合には、まだ建物は存在しているので、権利関係の整理が不要のため区分所有者関係からの離脱は決議反対者の意思に任せていても手続きの進行に問題がなく、一方、建替えの場合には、将来、権利のもとである建物が無くなるため権利関係の整理をしなくては手続きが次へ進みませんから反対者の意思に任せて置けないと法の創案者が考えた結果です。


  


  
 

◎建替えで影響を受ける区分所有者以外に対する関係 〜建替え決議は、建物の区分所有者ができるが、そのあとはどうするか〜

 なお、建替えにあたって整理すべき権利関係は、建替え当事者の賛成・反対だけではなく、敷地利用権が地上権であるときの敷地の所有者との関係、区分所有者の専有部分の担保権者の補償や賃借人との賃借権をどうするか等、区分所有者以外の第三者についても、法に従った解決方法が必要となります。

 しかし、これらは民法借地借家法の問題としてとらえ、区分所有者関係に関する区分所有法の担当外の事項として区分所有法には規定がありません
そのため、期間の定められた賃貸借契約が、まだ契約期間内であるにも拘わらず、借りている人が追い出しにあうなど問題が発生しています。

 同時に、建替えでは、建替え決議のあとの、建替え計画の立案からその実行・完成にいたるまでの過程が大変に重要ですが、これも既存建物の解体と多数人が共同して(管理組合でも既存の区分所有者の立場でもなく、共同建築者または建替え組合の立場で)行う新規建物の建設過程であり、既存建物の区分所有者関係を対象範囲(建物解体で既存の区分所有関係は消滅してしまいます。)とする区分所有法の範囲外事項のため規定がありません。

  そこで、賃借人や担保権などについては「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替え法)」が設定されこの法が担当することになりました。

  


◎建替え決議をすると、非賛成者を、該当の建物から排除する必要がある。

  排除という言葉は、排除されそのマンションから出ていく人からみると、建替えに反対したために住み慣れたマンションからの「強制追い出し」の処分を受けることになります。

 建替え非賛成者を排除する手順は以下のようになります。

★要件1〜当事者の確定〜 建替え参加者と不参加者の区分けをする

 今後の建替え事業を進めるにあたり、建物の区分所有権と土地の敷地利用権の「売渡請求」を行うためには、まず請求をする者と請求を受ける当事者がだれかを確定する必要があります。

      A.売渡請求をする者(売渡請求権行使者)は、即ち買主は、

         @建替え決議の賛成者(承継人を含む) または

         A当初の建替え決議に反対又は棄権したが、あとで建替えには参加することにした者(承継人を含む)、

     B建替えに参加する全員の合意により買受指定者として指名された者  

    がなります(4項)。

     @とAの場合は既存の区分所有者又はその承継人(特定承継・包括承継)ですが、Bの場合は既存の区分所有者以外の外部の者(大手不動産屋、ディベロッパーなど)の場合もありえます。

   B.売渡請求を受ける者、即ち売主は、

    建替え反対者ですが、建替え決議がなされた後で賛成に変る可能性もあります。
    また建替えの決議での棄権者(意思表示なく欠席した者も含む。)もいますので、最終的に不参加者を選別し、確定する必要があります。

    ★注:一度、建替え決議に賛成した区分所有者には、あとで不参加への変更は認められていません。

  
  ●この最終的な建替え賛成・反対の区分けの方法として、再度、建替えに賛成しなかった者に確認の届出をさせることにし、

   1.建替え決議のための集会招集者(現実としては、招集には管理者の場合に限らず区分所有者の少数招集権による場合もありますが、(第34条参照)、上で説明しましたように、建替え決議後は区分所有者全員で構成されていた団体と、建替えに賛成の集団は異なった集団になっていますので、ここでは集会招集者とされます。)は、決議に賛成しなかった者(決議反対者と棄権者・欠席者)またはその承継人(包括、特定承継人ともに含む)に対して遅滞なく建替えに参加するのか否かを回答するように文書で通知する(催告)こととしています(1項)。
 ここでの建替え決議への参加・不参加の通知には第35条「招集の通知」の準用はありませんから、建物内での掲示等では足らず個別に住所地に通知することが必要です。

   2.そして、この通知を受けた建替え決議反対者と棄権者・欠席者は、通知を受けた日から2ヶ月以内(民法第140条により初日不算入)に、最終的に建替えに参加するのか否かを回答するものとしています(2項)。
    回答は口頭でも書面でも発信すればいいでしょうが、後日のトラブルを防ぐためには、書面がいいでしょう。

   この建替え決議の賛成・反対の最終手続きにより、建替えに参加の回答をした者は「参加」で確定し、建替えに不参加で回答した者及び回答期限内に回答しなかった者は「不参加」で確定します。(3項)
  回答期限内に回答しなかった者を不参加とみなすことは、多数者が関係する手続きにおいては、態度のはっきりしない者は不参加として手続きを進める方が混乱がありません。
   これで「売渡請求を受ける者=建替え不参加者」が確定します。

   なお、売渡請求を受ける者は原則として建替え不参加の区分所有者及びその承継人(特定承継・包括承継)ですが、常に敷地利用権の分離処分が禁止されているわけではありません(第22条)から後の4項後段で不参加者の承継人として敷地利用権のみの承継人も含まれるものとされています。

 なお、各区分所有者の建替え賛否は、建替え決議をした集会の議事録に記載・記録されています。(第62条8項 ->準用 第61条6項)


*建替え賛成に条件付きで参加できるか?
  世の中には、屁理屈をつける人が必ずいますので、ご紹介します。

  建替えでの参加・不参加の回答を規定による催告期間内に、参加に丸をつけて提出したものの、回答用紙の欄外に「但し、建替え決議無効の確定判決を解除条件とします」と記入して提出した人がいました。
  この人は、基本的に建替えに反対であり、現実に、建替え決議無効の裁判を起こしましたが、区分所有法第63条に定める建替えに賛成か反対かの区分けは、条件によってなされる性格ではありません。
  無条件に建替えに賛成か反対かどちらかの区別をして、それから先の手続きに進めるものです。このような賛成は、反対とみなしていいでしょう。
  <参考判例:平成27年1月26日:東京地裁>


★要件2〜売渡請求権の行使・売買代金の確定

  建替え賛成者と反対者が上のような方法で区分けされ確定すると、買主(建替え賛成者又は買取指定者)から売主(建替え不参加者)に対して、建替え参加の有無の回答期限日を過ぎてから、次の2ヶ月以内に建物の区分所有権及びその敷地利用権を時価で売り渡すよう請求することができます。
 なお、この売渡請求ができる2ヶ月は、
除斥期間となります。

 ◎除斥期間とは、権利の有効期間・消滅までの期間ですが、この期間は通常の請求権の場合には時効期間というのに対し形成権の場合には除斥期間といわれます。
 時効と除斥では法的性質が異なり、除斥期間には、時効のような中断や援用の余地がありません。

 建替え反対者も態度のはっきりしない人も、もう一度、建替えに参加するのかそれとも不参加かはっきりしてとの催告が到達してから、2ヵ月をかけてもう一度建替えの是非を検討します(1項)が、その回答期限の2ヵ月を過ぎると、もう建替えに対して完全に不参加者となり、次の2ヵ月以内に建物の区分所有者権と土地の敷地利用権の「売渡請求」が建替え賛成者からされるということです(4項)。
 建物の区分所有者権と土地の敷地利用権の売渡請求が規定の2ヵ月の除斥期間をすぎると、この売渡請求の権利は当然に消滅し、再度には売渡請求の権利行使はできませんから、2ヵ月を経過すると後は、売渡請求ではなく、任意契約での売買を行うか、もう一度建替え決議をやり直す必要があります。

 この建替え決議後の「売渡請求権」はいわゆる「形成権(権利関係を一方的に形成することができる権利)」で、この売渡請求の通知の到達と同時に両者の間で「時価」による売買契約が成立します。
  その効果として、建物の区分所有権及び土地の敷地利用権が請求権行使者(買主=建替え賛成者)に移り、相手方(売主=建替え不参加者)は、区分所有権の対象である専有部分(室)の引渡し(明渡し)とその登記義務を負います。そして、請求権行使者は時価で売買代金を支払うことになります。
 この請求権行使者と相手方の義務は、同時履行の関係(
民法第533条)となりますが、建物の明渡しが直ぐには難しい場合等については、裁判所がその明渡しの期限を延ばした場合には(5項参照)、代金支払いの方だけが、先に履行義務を負います。

<参照>民法 第533条(同時履行の抗弁) (改正なし)

第五百三十三条  双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

 売渡請求権は、いわゆる形成権の行使ですから、通常の契約と異なり相手方の承諾は不要です。

 区分所有法でも、形成権は、第10条の区分所有権売渡請求や第61条7項の復旧での買取請求など、適用があります。

◎時価(代金)はどうやって決めるのか?

 問題は、区分所有権と敷地利用権の時価がいくらであるかです。

 通常の売買における金額は、まず、売買の両当事者(売主、買主)が協議して決定する金額です。
 そして、協議が調わないときは裁判所による通常訴訟の判決(金○〇円と引き換えに区分建物及びその敷地利用権の移転登記・引渡をせよ、との引き換え給付判決と代金が金○〇円であることを確認する、との確認判決の組み合わせが通常。)で決定されます。

 そして、裁判において時価は、不動産鑑定を下に決定されますが、建替え決議が存在することを前提とする価格すなわち、

  「再築後の土地建物の価格から再築に要する費用を控除したもの」を指すものとされ、これは土地価格から既存建物解体の費用を控除したものに等しいとされています。

 (平成13年.10月31日: 神戸地方裁判所伊丹支部 平成9年(ワ)第375号 総会決議無効確認請求事件参照)。

◎時価=建物(区分所有権)の価格+敷地利用権の価格 : 現在2つの方法がある。

         A.(再建建物が建築された状態における建物及び敷地利用権の価格 − 再建にかかる経費)  または、

        B.(更地価格 − 現在の建物の取り壊し費用)

  ★AとBの計算では、不動産鑑定評価でも差が生じている。特に災害にあったマンションでは問題となっています。今後の判例で決まっていくと思われます。

★時価の評価時点
  建替えに不参加の人が確定する時期はバラバラですから、売渡請求権行使にあたり多少の時期のずれが発生し、時価も変動する可能性があります。
 通常、売渡請求時価の評価をするのは、建替え決議が成立した時点と考え統一した時価とするのが、妥当です。

  第63条の明文規定にもかかわらず、建替え決議前に有った既存の区分建物自体の評価額は建替え決議により取壊し対象として評価額 〇〇円 となるということですが、団体の決議に反対して団体から離脱する場合にこの決議による不利益を受忍させることはあまり妥当なことではなく、決議がなかったら有したであろう価格での売渡を認めるのが不参加者に対する正当な補償というべきでしょう(憲法第29条3項)。

 <参照> 憲法 第29条

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
A 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
B 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 {参考-1}東京の同潤会江戸川アパートの建替え事業者が、建替え不参加の区分所有者らを売り渡し請求をめぐって平成14年3月提訴し、被告側は提示された金額が不当に安いと争った事件。

一審の東京地裁は平成16年2月19日、
 区分所有法第63条の「時価」とは、建替え決議を前提とする価額であるから、
 近傍類似地域の新築分譲マンションの販売事例などから再建建物の販売価格を算出すべきものとした
 また更地価格も同条件で再建建物に類似する分譲マンションの敷地にする目的で開発業者に取得された事例を対象とする、取引事例比較法で算出するのが相当であるとした
 平成16年7月、東京高裁もこの判断を支持した。

 最高裁の平成16年11月25日の決定は、不参加者側の上告を棄却し、上告受理申立てについても不受理の決定が行なわれ、これにより建替え参加者の勝訴が確定した。
 本訴訟では、売渡請求における「時価」の判断に関して、裁判所が明確な算定方法を確立するとともに、第1審の訴訟提起から2年で最高裁決定がなされるという、スピード審理が行なわれた。


{参考-2}時価を定めることの難しさの例

 追い出す人(建替え賛成者)からは、時価をなるべく低くしたいし、出て行く人(建替え不参加者)は、できるだけ高額の金額を受け取りたいものです。
 そこで、双方が不動産鑑定評価書を出し、裁判になった1つの実例を紹介します。

 *物件概要: 東京都渋谷区にある昭和28年竣工、鉄筋コンクリート造り、11階建てのマンションの建替えにおける売渡請求時価の例
  対象の専有部分:10階部分にある。 対象区分所有権及び敷地利用権の配分率...0.005542。
  売渡請求時:平成25年9月21日。

  1.原告(建替え賛成派)の主張した時価
    @再建建物の敷地とすることを予定とした土地の更地価格...49億3,200万円
    Aマンションの取り壊し費用...49億8、600万円
     評価の根拠:実際の取引事例 539万〜636万円/u を参考に近隣地域の標準的価格を 600万円/u。これに再建建物として、小区画がおおいことで▲35% とし、 最終的に 収益還元法及び開発法により決定した。
     被告の区分所有権・敷地利用権の金額は、 2,763万円となる。
 
  2.被告(建替え反対の人)の主張した時価
    @再建建物の敷地とすることを予定とした土地の更地価格...75億4、100万円
    Aマンションの取り壊し費用...101億5,300万円
     評価の根拠:実際の取引事例 528万〜799万円/u を参考に近隣地域の標準的価格を 707万2,000円/u。これに再建建物として、建付減価(建物があることによる減価) ▲10% とし、大規模画地である増額 3% とし、取引事例比較法で、被告の区分所有権・敷地利用権の金額は、 5,630万円となる。

 3.裁判所の判断
   @再建建物の敷地とすることを予定とした土地の更地価格...62億2,400万円
   Aマンションの取り壊し費用...1億6、092万円
    そこで、@−Ax配分率(0.005542)=約3,360万円 を相当とする。
    ・理由
     ・被告意見書...利用上の制約が充分に考慮していない。
     ・そこで、近隣地域なども考慮し、標準価格を 630万円/uとし、建付減価 ▲25%として、土地の更地価格は、62億2,400万円となる。
     ・原告の評価の過程では不合理はない。

 *マンション管理士 香川の意見
  評価の基準となる不動産鑑定士の評価額の決め方が大変に難しいのが現実です。
  サンプルとなる不動産の売買が多ければ、かなり客観的な判断はできますが、サンプル数が少なくなると、減価率や増加率の使用が、不動産鑑定士の恣意となる恐れもあります。
  これからも、時価の算定は、裁判所に持ち込まれることでしょう。
  <参考判例:平成27年1月26日:東京地裁>



 ★建替えの集会を招集した者(管理者、理事または区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上:第34条参照)は、遅滞無く、建替えに賛成しなかった区分所有者(集会で反対投票をした者、そして、決議に加わらなかったもの 〜棄権者・欠席者〜を含めて)に、再度建替えに参加の意思を、書面で催告する。

 ★この催告を受けた区分所有者は、2ヶ月以内(初日不算入)に回答がないと、建替え不参加となる。(2項、3項) 

     もともと賛成していないし、棄権者や欠席者は態度を表明していないので、当然不参加にしていい。

★催告・売渡請求を受ける区分所有者の専有部分が共有関係にあるとき

 区分所有法では、建物の専有部分(区分所有権)が共有関係の場合には、決められた議決権行使者(決められた者がないときは、共有者の一人)に催告をすれば足りる(区分所有法第35条2項)との類推適用もあるが、区分所有法での売渡請求権は、その行使により売買契約を強制的に成立させるもの(形成権)であるので、売買契約が成立すれば、他の共有者が受ける影響の大きさを考えて、一人だけでなく共有者全員に対して、催告を行うことが望ましい。

 ◎遠隔地にいる共有者に対する到達時期が問題になる
  上記により、専有部分(室)の全共有者に催告をするとなると、近隣に住む人と遠隔地に住む人では催告の到達時期が「ずれる」。この場合民法第97条の規定により、催告が一番遅い人に到達した時をもって共有者全員に対する「意思表示の効果の発生」なる。
 これが、次の2項「催告を受けた日から2ヶ月」(催告が到着した日の翌日)の起算日となる。

<参照>民法 第97条

(意思表示の効力発生時期等)
第九十七条 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

★規約により敷地利用権と区分所有権の分離処分が許されている場合
  原則として、敷地利用権と区分所有権の分離処分はできませんが(区分所有法第22条参照)、規約で分離処分が許されている場合に、建替え決議後、敷地利用権のみを第三者に譲渡した場合には、その第三者に対しても売渡請求ができます(4項後段)。

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。

  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{新設}これを受けて、2項を新設
 2項 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、新しく創設された規定です。

★脱ハンコ、書面から電磁的方法へ
 インターネットやスマートフォンの普及にみるように、日本や世界の社会経済は、過去のアナログ時代から、様々なものがデジタル時代に入っています。
 また、2020年からの新型コロナウイルス感染症の蔓延により、政府もやっと行政において「書面、押印、対面」が必要か、その見直しをしています。
 その一環として、まず、過去からの習慣である、本人や法的な証明として「署名」の他に「押印」が必要かを検討し、区分所有法でも、第42条3項の議事録では、「押印」を廃止しました。

 次の段階として、「脱書面、脱対面」が挙げられます。(参照:区分所有法第61条9項、12項)

 新型コロナウイルス感染症が収まらないため、「対面」での交渉はできるだけ避ける必要があり、そのためにはいちいち必要な書面を持参することは避けるべきで、そこでの手段は郵送となりますが、現在では、大量のデータをもつ書類でも、メール等で送ることが可能です。
 このような背景から、この規定が新設されました。

◎脱書面による催告 → 電磁的方法へ(ただし、相手の承諾が必要)

★前項に規定する書面の催告...建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨の催告の書面は、その区分所有者が承諾するなら、電磁的方法(電子メール、ホームページへの書き込み、CDやUSBメモリーなどの利用)でも可能となりました。

★しかし、この方法は、本人確認が大変に難しく、第三者による本人への「なりすまし」や改ざん防止のため、電子署名やパスワード交付等の対策を十分検討しておく必要があります。

 また、1回目は「承諾」しても、途中で気が変わり、2回目は「不承認」となった時などの対応法も規定が必要です。


 まだまだ、区分所有者の全員が、パソコンを保有しておらず、また、インターネット接続の知識が乏しい現状では、電磁的な方法への理解は難しいですが、今後を考えた条文ととらえればいいでしょう。

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。

  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{改正}これを受けて、2項が3項に変更
 3項 2項  第一項 前項 に規定する区分所有者は、同項の規定による催告を受けた日から二月以内に回答しなければならない。

過去出題 マンション管理士 R03年
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、旧2項が新しく3項に変更されました。

第1項 前項 に規定する区分所有者...建替え決議に賛成しなかった区分所有者

★最終的に、建替えに対して「賛成」か「反対」かを決める必要がありますので、

  @反対の人、
  A集会に参加しなかった人(欠席者)、
  B棄権者 
  も含めて再度、賛成か反対かの確認をします。

★ただし、いつまでも回答を待つわけには、いきませんので、催告を受けたら、(催告が到着した日の翌日から)2ヶ月以内に回答をします。

★催告を受けて、2ヶ月が過ぎても回答がない、反対者・棄権者・欠席者は、放置できませんから、「建替え不参加者」とみなして、建替えをすすめます。 ( 4項 3項 ) 

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。

  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{改正}これを受けて、3項は4項に変更
 4項  3項  前項の期間内に回答しなかつた第一項に規定する区分所有者は、建替えに参加しない旨を回答したものとみなす。

過去出題 マンション管理士 H15年、
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、旧3項が新しく4項に変更されました。

★建替え賛成か不参加を確定する

 建替えに参加か不参加かの催告を受けて、2ヶ月が過ぎても回答がない、反対者・棄権者・欠席者らを、そのまま放置した状態では建替えはできませんから、催告に対して回答がない区分所有者は「建替え不参加者」とみなして、建替えをすすめます。 

  これにより、建替えの賛成者、不参加者が最終的に確定します。

みなす...擬制の必要性
 何度も説明にありますように、区分所有法の共有関係は多数決の原理により、進めるようにしています。

 これが、民法の共有における全員の合意(賛成)と大きく異なっている点です。

 しかし、不動産(土地・建物)に関する規定は、多くが民法に基づくため、共有者の合意の有無が争点になる場合があります。
そこで、区分所有法では、多数決を持って 全員の合意(賛成)とする方法(擬制)を採用し、その後の法的な争いを防ぐようにしています。(第64条参照)。これが、「みなす」とする規定が必要な理由です。

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。

  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{改正}これを受けて、4項は5項に変更。
 5項 4項  第三項 第二項 の期間が経過したときは、建替え決議に賛成した各区分所有者若しくは建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)又はこれらの者の全員の合意により区分所有権及び敷地利用権を買い受けることができる者として指定された者(以下「買受指定者」という。)は、同項の期間の満了の日から二月以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者(その承継人を含む。)に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替え決議があつた後にこの区分所有者から敷地利用権のみを取得した者(その承継人を含む。)の敷地利用権についても、同様とする。

過去出題 マンション管理士 R03年、H22年、H16年、H15年、H14年、
管理業務主任者 R03年、

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、旧4項が新しく5項に変更されました。

★建替え参加者(買受指定者)から、不参加者に売渡請求をする

 建替えに参加・不参加が確定(催告から2ヶ月後)したら、さらに2ヶ月以内に、建替え参加者から、不参加者(反対者や催告で回答をしなった区分所有者)に対して、
  @建物の区分所有権 及び
  A土地の敷地利用権
  を時価で売れといえる。

★売渡請求権者 〜 買受指定者も加わる 〜
  A.売渡請求をする者(売渡請求権行使者)は、即ち買主は、

   @建替え決議の賛成者 または
   A当初の建替え決議に反対又は棄権したが、あとで建替えには参加することにした者、
    B建替えに参加する全員から買受指定者として指名された者がなります。

    @とAの場合は既存の区分所有者又はその承継人(特定承継・包括承継)ですが、Bの場合は既存の区分所有者以外の建替えに参加する外部の者(大手不動産会社、ディベロッパーなど)の場合もありえます。

  B.売渡請求を受ける者即ち売主は、

   建替え反対者ですが、建替え決議がなされた後で賛成に変る可能性もあります。
   また建替えの決議での棄権者(意思表示なく欠席した者も含む。)もいますので、最終的に不参加者を選別し、確定する必要があります。

    
★注:一度、建替え決議に賛成した区分所有者には、あとで不参加への変更は認められていません。

  建替え賛成者から、建替え不参加者に対して、建物の権利である区分所有権と土地の権利である敷地利用権を売り渡せと請求できますが、建替え賛成者だけでは、買取の資力がないような場合には、建替え賛成者”全員の合意”で、建替え賛成者以外にも、不動産会社やディベロッパーなど外部の人を買い受ける人として指定(買受指定者)でき、売渡請求は、この買取指定人もできます。

★時価の決め方
  建替えに不参加の人が確定する時期はバラバラですから、売渡請求権行使にあたり多少の時期のずれが発生し、時価も変動する可能性があります。
 通常、売渡請求時価の評価をするのは、建替え決議が成立した時点と考え統一した時価とするのが、妥当です。


 詳細は、上の1項での解説を参考にしてください。

★敷地利用権だけを取得した者
  区分所有法では、基本的に、敷地利用権と専有部分(区分所有権)は分離して処分できません(第22条1項)が、規約があれば可能だったことを思い出してください。

<参照> 区分所有法 第22条:(分離処分の禁止)

第二十二条  敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。

 そこで、分離処分を許す規約があれば、その規約は建替え決議後であっても有効ですから、敷地利用権だけを取得した人がいれば、その取得者(また承継者にも)に対しては、その敷地利用権を売り渡せと請求できます( 5項 4項 後段)。

     (*注)建物価格の1/2超が滅失した場合の復旧決議では、復旧決議に賛成しなかった持主が、賛成した持主に「買い取れ」(第61条7項)というが、建替えでは、逆に建替えに賛成した持主が建替え不参加者に「売れ」という。

 ★売り渡しの請求がいくと、不賛成者の意思に関係なく当事者(賛成者と不賛成者)間に売買契約が成立して不賛成者は、直ちに建物の区分所有権(専有部分=室の明渡し)と土地の敷地利用権を売ることになる。(形成権

   売渡を請求した者は、買主として代金支払義務を負い、売渡請求を受けた者は、売主として専有部分の引渡し(明け渡し)及び区分所有権等の移転登記手続きをする義務を負う。
  これらの義務は同時履行の関係に立つことが原則である。(参考:民法 第533条)。

   例外は、建物を明渡すと生活上著しい困難が生じ、かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないときは、建物の明渡しを1年を超えない範囲で裁判所にまってと請求ができる。(区分所有法第63条5項)

    (*注):この建替え決議では「買受(かいうけ)指定者」であり、復旧決議では「買取(かいとり)指定者」であることに注意。

     <参照> 第10条:敷地利用権がなくなったマンションの持主も、売り渡し請求を受ける。拒めない。(形成権という、恐ろしい解釈上のもの)

    *注:不参加が確定した2ヶ月以内に、売渡請求権を行使しないと、不参加者が区分所有者として建物に残ることになり、その後は、建替え決議の効力は当然不参加者には及ばないので、不参加者とは別の合意を取り付けないと、建替え計画は挫折する。

★建物の専有部分が共有関係にあるときの2ヶ月の発生時期はいつになるか

  売渡請求の意思表示は、その到達によって区分所有権と敷地利用権の移転効果が生じるもので、共有者の一部がまだ売渡請求を受けていないのに、その共有持分が移転するのは妥当ではありません。
 したがって、売渡請求は、全共有者に宛てて出し、共有者間で一番遅く到達した日から、その効果を生じると考えます。


{設問-1}買受指定者は、建替えに参加する区分所有者がその後に建替えに協力しない場合でも、その者に対し、売渡請求権を行使することは認められるか。

答え:買受指定者は建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対しては売渡請求が出来る。しかし、一度建替えに参加することを表明した区分所有者が後で建替に協力しなくても売渡請求権は行使できない。認められない。


{設問-2}甲マンションの建替えに関し次の経緯がある場合、区分所有者中のA、B、C及びDのうち、甲マンション管理組合の管理者Eが区分所有権の売渡しを請求することができる者は、区分所有法の規定によれば、何人か。

Eが招集した建替え決議を目的とする集会で、Aは建替えに賛成する投票をし、Bは建替えに反対する投票をし、C及びDは建替えに難色を示す発言をした上で棄権をしたが、Eを含む多数の区分所有者の賛成で建替え決議が成立した。その後、Eが、建替えに賛成するか否かを回答すべきことをB、C及びDに対し催告したところ、Dは、建替えに参加しない旨を回答したが、B及びCからは回答がなかった。Aは、建替え決議が成立してから、1週間後に、家族が反対したため建替えに参加することができなくなったとEに連絡してきた。

1 1人
2 2人
3 3人
4 4人


答え: 区分所有法第63条によれば売渡の請求の相手方は建替に参加(賛成)しなかった者であり、Aは建替えに賛成する投票をしたから、後で家族の反対で不参加を連絡しても、対象に入らない。Aは対象外。
否賛成者のうち、Dは不参加を表明したから、対象になる。
催告で回答をしない場合は、不参加とみなされる(区分所有法第63条3項)ので、B,Cも対象。よって、B、C及びDの3人が該当する。

正解: 3 (3人)

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。

  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{改正}これを受けて、5項を6項に変更
 6項 5項  前項の規定による請求があつた場合において、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しによりその生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないものと認めるべき顕著な事由があるときは、裁判所は、その者の請求により、代金の支払又は提供の日から一年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。

過去出題 マンション管理士 H16年、
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、旧5項が新しく6項に変更されました。

引越しを猶予してもらえる...裁判所に請求して、1年を超えない範囲まで可能。ただし、専有部分の引き渡し(引っ越し)だけの猶予で、登記の移転は猶予されない。

★売渡金をもらっても、急に室からでて行くことで

      @生活上著しい困難が生じ、 かつ

      A建替え決議の遂行に甚だしい影響がない ときだけ

     裁判所(区分所有者ではない)が、1年を超えない範囲で、室の明け渡しを待つことを決める。

★建物明渡しの猶予

 建替えへの参加・不参加で、売買当事者が確定し売買価格が決定されると残るは建物の明渡しとなります。
 建物(専有部分=室)の明渡し時期も、売買価格決定の場合と同様に第一次的には当事者の協議(裁判外の合意や裁判上の和解等)により定まりますが、協議が調わない場合には裁判で決定されます。

◎ところが、裁判は当事者間の権利義務・法律関係を確認・確定することが使命の紛争解決手段であって、いわゆる白黒をつける硬直的な解決となり、和解の場合と異なって権利義務・法律関係のそとにある事情を盛り込んだ極め細やかな柔軟な解決を図ることができません。

 売渡請求の両当事者の法律関係は履行期限の定めのない売買契約の成立ですから、建物の明渡しを請求した時点で履行期が到来するため、売主たる不参加者は代金の支払いとの同時履行の抗弁権(民法 第533条、相手方の債務の履行があるまで自己の債務の履行を拒む権利)の保護しかなく、それを確認する金○〇円と引き換えに区分建物(専有部分=区分所有権)及びその敷地利用権の移転登記・引渡をせよ、との引き換え給付判決を受けると、買主から金銭の提供があり明渡しを請求されると売主はこれに対抗すべき手段がなく、建物から引っ越しをするしか方法はありません。

 通常の法律関係ではこれでもかまわないのですが、建替えでの不参加者は、高齢者や病人などで、建替え費用の負担ができず他に移転先がない境遇である等汲むべき事情がある場合もあり、また建替え工事着工までには相当の期間がかかることも考え合わせると、直ちにその建物を明渡させるというのは著しく社会正義に反する結果となりかねません。

◎そこで、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しにより
   @「その生活上著しい困難を生ずるおそれ」があり、かつ
   A
「建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないもの」 と認めるべき顕著な事由があるとき は、
  裁判所は、その者の請求により、代金の支払又は提供の日のいずれか早い日から一年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができるとして、硬直的な判決に柔軟性を持たせて裁判所の後見的判断による妥当な紛争処理を図れるよう手当てが講じられています。

 これにより、先に代金を受け取って、猶予期間内に代わりの住居を探せる事になりますが、高齢者や病人などにとって、引っ越しは金銭だけの問題ではなく面倒で、また精神的にも疲れる作業です。

★代金の「支払い」又は「提供」と何故分ける?
 ここは、代金の受領が拒否されることもあり得るため、「提供」といれたとのことです。

★抵当権がついている場合
  売渡請求権の目的となる区分所有権に抵当権などの担保物権が設定されているときは、抵当権抹消の手続きが完了するまでは、売買代金の支払は拒絶できます。

★賃貸借契約で専有部分に、借家人がいる場合
  建替え決議は、借地借家法(第28条)で定める賃貸借契約の更新が拒絶された場合の解除の「正当事由」
にはなりません。区分所有者(貸主)と賃借人の折衝により、立ち退きが計られることになります。

<参照> 借地借家法 第28条

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、
建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、
建物の賃貸借に関する従前の経過、
建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、
正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。


{設問}買受指定者は、建替えに参加しない区分所有者に対する売渡請求権を行使した場合、区分所有権等の代金を直ちに支払うことができない特段の事由があるときは、裁判所からその支払いにつき相当の期限の許与を受けることができるか。

答え:区分所有法第63条 6  項により、建替え不参加者の明け渡しの猶予は認められるが、買受指定者の支払いの猶予の規定はない。できない。

 嫌らしい出題ですね。

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{改正}これを受けて、6項を7項に変更
 7項 6項 建替え決議の日から二年以内に建物の取壊しの工事に着手しない場合には、 第五項 第四項 の規定により区分所有権又は敷地利用権を売り渡した者は、この期間の満了の日から六月以内に、買主が支払った代金に相当する金銭をその区分所有権又は敷地利用権を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。ただし、建物の取壊しの工事に着手しなかつたことにつき正当な理由があるときは、この限りでない。

過去出題 マンション管理士 R03年、
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、旧6項が新しく7項に変更されました。

★工事の着工が遅れているとき

 建替えの決議をしても、「正当な理由がなく」て2年間も工事に着手しないときは、売った元の持主は2年後の日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが請求出来る。
 「正当な理由があって」、2年間取り壊し工事に着工できない場合なら、元の持主は買い戻しの請求はできない。

★また、取り壊し工事を邪魔する理由が無いのに、6ヶ月間、工事に着工しないときにも、売った元の持主はそれを知った日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。(次の第63条7項)

 ★これも、現在の所有者の意思に関係なく、元の持主から請求を受けたときに売買契約が成立し、現在の所有者は、建物(室)を出て行かなければならない。(形成権)

★元の持主の買戻しができる 

 区分所有法における建替えでは、上に述べたように、建替えの不参加者の保護も含めて建替え実施のために、民法にはない多数決という方法で既存の権利関係の調整が図られますが、建替え決議はあくまでも建替えをしようとする意思の表明の段階です。
この建替え決議をしても、直ちに次の段階である建物を取り壊すという行為に移るにはまだ時間がかかりますから、取り壊しに至る途中で建替え計画が事情により頓挫・中止になることもありえます。

 このような建替え計画が事情により頓挫・中止になった場合には、建替え実施を前提になされた、建替え賛成者による強制的な売渡請求に対して、建替えの前提がなくなってまでも存続させることは妥当とはいえず、そのような状況になると元々あった権利関係に戻す、つまり原状回復が計られる必要があります。

 ただし、原状回復の方法として建替え計画の中止を理由に売買契約を当然に失効させて、一律に全てを以前の居住していた状態に戻すことは、区分建物とその敷地利用権を売り渡して、他の場所に転出した不参加者も既に新たな場所で新しい生活を営んでいますからあまり妥当とはいえません。

 そこで、元の建物に戻るという、原状回復をするかどうかは、転出者(建替不参加者)の意思に任せて、原状回復を望む転出者(建替不参加者)の場合には、転出者(建替不参加者)は受け取った代金を提供して、元の区分建物とその敷地利用権を買い戻すことを認めています。

 なお、建替え計画が中断や延期されていることは、転出して外部の人となった建替え反対者にはその実情を知ることは困難ですから、外部からもわかる、建替え決議の日から2年以内に建物の”取り壊しに着手していない場合”として、建替え計画の中断・中止を、取り壊しに擬制して、転出者(建替不参加者)に買戻し権の行使が認められます。

 しかし、この元の持ち主(転出者)による買戻し権を、無期限に何時までも存続させておくことは当事者間の権利関係を不安定にしますから、建替え計画の中断・中止とみなされた日(建替え決議の日から2年後の日)から6ヶ月で、元の持ち主(転出者)による買戻し権は消滅するものとされます。

★正当な理由とは

 ただし、元の持ち主(転出者)による買戻し権行使がなされた時点で、建替え参加者の抗弁として、建物を取り壊さないのは、建替え計画が中断や中止されているのではなく、他の不参加者や賃借人の明渡し期限前である場合、とか、建替えに反対して売渡請求を受けた者が提訴し裁判がまだ係争中である、とか、近隣との交渉が長引いている、とか、予測できない経済状況の変化で予定していた資材調達が困難になった等で解体工事が延びているなどの正当な理由の存在を証明して買い戻し請求権の行使を拒むことができます( 7 項但書)。

 この場合は、この正当な理由の存続中は買い戻し請求はできなくなりますが、この理由が消滅した時はその時から2年間または消滅したことを知った時から6ヶ月間のいずれか短い期間内に元の持ち主(転出者)は買戻し請求ができます( 
8項 7項)。

★建替え不参加者による買い戻し権の行使
 この元の持ち主(転出者)による買戻し権は、建替え賛成者が行った売渡請求権と同様形成権であり、その行使と同時に売買契約が成立します。

 元の持ち主(転出者)が買戻しで提供する代金は、建替え賛成者の買主が支払った代金と同額であり、利息や登記費用その他の付帯費用をつける必要はありません。

◎ただし、この元の持主の買戻し請求権は4項の建替え賛成者からの売渡請求権と異なり代金を提供して(代金を差し出して)行使しなければ行使の効果がありません。

 これは建替え賛成者が行った売渡請求の場合と異なり売買代金額がすでに決定していることと、請求を受ける者の保護のためで手附による解除(民法第557条)や買戻し(民法第579条)と同趣旨です。

◎もっとも、代金の支払いと売買物件の登記・引渡は同時履行(民法第533条)の関係にありますから、売買物件の登記・引渡を受けるまでは代金の支払いは不要で、提供とは、売買物件の登記・引渡を受けるのと同時に代金を即座に支払えるように準備されていることを相手方に知らせて、その履行を促すことといえます。

 ただし、提供の有無は後日証明することが困難ですから相手方が受取り拒絶等その他により買戻しを了承しない場合は、代金を弁済供託(民法第494条)して、提供の事実の証拠を残さないと買い戻し請求権の除斥期間を途過したとみなされ結局買戻しが認められない惧れがあります。

★買戻しの当事者

 売買当事者としては、買主は買い戻し請求権を行使した不参加者(元の持主)であることは明らかですが、売主の方は対象の区分建物及びその敷地利用権を”現に有する者”であって、必ずしも従前の買主(売渡請求をした者)とはされておらず、当時買い取った区分所有者からの転得者(特定承継人)である場合もあります。

 元の持主による買戻し請求を認めることは区分建物等を買い取られた不参加者の保護として必要なことではありますが、買戻し請求を受ける当該物件の転得者(現に有する者)の保護には欠けることもありえます(この場合の問題は、自己の売主との間で清算されますが。民法第561条)。
現在、区分所有法や不動産登記法に何らかの規定がないため、元の持主による買戻し請求権は、登記なしにこの転得者に対して主張(対抗)できますから、このような物件は、建替えが原因なので買戻しのありうる地位であることを登記上明らかにする手立てが、転得者に警告を与えるために必要と思われます。

   *注:この元の持ち主による買戻請求権が行使されると、建替え不参加者が区分所有者として、そのマンションに復帰することになるので、所定期間内に売渡請求権を行使しなかった場合と同じように、建替えは挫折する。その場合、建替えをあくまでも行いたいなら、解決策としては、買い戻した区分所有者を建替えの賛成者として「合意」させることになります。(現実には、元々建替え反対者であったわけで、その人が賛成に回ることは、難しいでしょうが。)

<参照> 民法 第557条

(手付)
第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。
------------------------------------------------------------------
 
    民法 第579条

 (買戻しの特約)
第五百七十九条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
------------------------------------------------------------------
  民法 第533条

(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
------------------------------------------------------------------
  民法 第494条

(供託)
第四百九十四条 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
   一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
   二 債権者が弁済を受領することができないとき。
2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
------------------------------------------------------------------
  民法 第561条

(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十一条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

★取壊しがあると、その後2年以上の間に新しい建物が建築されなくても、もう買い戻しの請求はできない
 
7項 6項 は、取壊し工事が建替え決議の日から2年以内に未着工の場合だけに、元の区分所有者からの買い戻しができることを認めていますから、2年以内に取壊しがなされて、その後、新しい建物が建築されない場合であっても、元の区分所有者からは、買い戻しの請求はできません。

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第六十三条

◎令和3年9月1日施行内容;「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条
  第六十三条第七項を同条第八項とし、同条第六項中「第四項」を「第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条第五項を同条第六項とし、同条第四項中「第二項」を「第三項」に改め、同項を同条第五項とし、同条第三項を同条第四項とし、同条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
  2 集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。


{改正}これを受けて、7項を8項に変更
 8項 7項  前項本文の規定は、同項ただし書に規定する場合において、建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなった日から六月以内にその着手をしないときに準用する。この場合において、同項本文中「この期間の満了の日から六月以内に」とあるのは、「建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなったことを知った日から六月又はその理由がなくなった日から二年のいずれか早い時期までに」と読み替えるものとする。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

◎令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって、旧7項が新しく8項に変更されました。

★追い出しを受けた人(建替え反対者)も戻れる


 建替えの決議をしたのちも、正当な理由がなくて2年間も取り壊し工事に着手しないときは、売った元の持主は2年後の日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。(第63条 7項 6項 より)

★取り壊し工事を邪魔する正当な理由が無いのに、6ヶ月間、工事に着工しないときにも、売った元の持主はそれを知った日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。

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(建替えに関する合意)

第六十四条

 建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者及び区分所有権又は敷地利用権を買い受けた各買受指定者(これらの者の承継人を含む。)は、建替え決議の内容により建替えを行う旨の合意をしたものとみなす。

過去出題 マンション管理士 R03年、H14年、
管理業務主任者 未記入

合意をしたものとみなす...実際に合意してなくても、建替えに賛成した区分所有者と、後から建替えに参加者した区分所有者、建替えの決議後買った人、承継人も全員が、建替えの合意をしたことにして、民法上での共有関係での「全員の合意」と同様にして権利を複雑にさせない。
 これで建替え賛成者たちは全員が建替えの義務を負うことになり、建替えが先へ進んでいく。

   (*注):ここには、室を借りている賃借人(占有者)や抵当を設定している人は含まれていない。

       これらの人の権利(賃貸借契約、抵当権など)は、持主(区分所有者)が消滅させるか、取り壊しの承諾をとる必要がでてくる。

       また、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の「権利変換手続き」を利用して、一気にできる。

マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の概要はこちらを参照。

★建替えに関する合意の擬制の必要性 〜どうして、「合意」が必要か?〜

 ●区分所有法での「建替え決議」は特殊な性格である。

  前に述べた第62条での建替え決議は、一応区分所有者の団体(管理組合)の集会決議ですから適法に招集・開催され、適法になされた決議なら、本来決議に対する賛否や出席の有無を問わず全区分所有者にその効力が及ぶはずですが(第46条)、第63条に定めるとおり建替え反対者の利益擁護のために、建替え決議後も別途建替えに参加・不参加を催告で確認する規定があるように、これでは建替えに対しては参加の強制力がなく、つまり、建替え集会での決議は区分所有者全員に対する拘束力が事実上否定されているに等しく、議決要件も建替えとして特殊であり、その効力も特殊のものとなっています。

 基本的に集会での決議は区分所有者の団体(管理組合)が存続する限りにおいて有効であるに過ぎず、建替えがすすみ、建物の解体と同時に建物の専有部分が無くなると区分所有者の団体(管理組合)が消滅する(第55条1項1号の管理組合法人解散の事由参照)と、区分所有法も当然にその適用が無くなり、その効力を維持することができません。

 しかし、建替え決議は少なくとも「建替え参加者の集団」においては強制力を持ち、さらに、建替えが完了するまで有効でなければその目的を達成できませんから、区分所有者の団体(管理組合)の集会決議の効力とは別に建替え決議内容が建替え事業参加者の集団では維持される必要があります。
 そこで、建替事業参加者の集団である参加区分所有者、買受指定者及びそれらの承継人の間では建替え決議内容と同一の”合意の成立”がみなされることにより擬制されています。

 建替えにおける合意が成立する順序としてしては、まず、建替えに賛成した区分所有者たちの間で成立し、次に建替えに参加を表明した区分所有者たち、そして、最後に、買受指定者として売渡し請求権を行使した者たちとなります。

  この場合の合意は具体的には、第62条1項、2項の建替え決議の内容によって、建替え(建物の取壊しと再建)を行うことが、合意の内容です。
 また、従前の区分所有関係も消滅しますが、取壊しになるまで、建替えの合意に反しない限りにおいて、従前の規約は有効であると考えられます。

 この擬制(実際には建替えに関する全員の合意契約は存在していなくても、法律上存在していると扱う)により、法律上、建替え賛成者には、当然に建替えを行う義務が発生します。

  また、この合意により、民法で規定する「組合」に近い考え方「建替えという共同事業を目的とする契約」があったものとして、民法第667条(組合契約)以下の組合の規定が適用できると考えられます。
 そこで、第62条での建替え決議事項を変更することは、組合契約の変更となり、全員の合意がないとできないともなります。

<参照> 民法 第667条

組合契約)
第六百六十七条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

2 出資は、労務をその目的とすることができる。


★「擬制」が理解できない?

  そう、ここはかなり難しい。
  そこで、平成14年の区分所有法改正の時の話に戻ると、区分所有法第3条で規定される区分所有者の団体(管理組合)が、そのまま建替え事業までを行うという考え方もあったのですが、それはやめて、「建替えに賛成する人達だけの集団」という考え方を持ち出し、その集団が建替え事業をやることにしたので、この「擬制」が設けられたのです。

 ここで、また、区分所有法第3条に規定される「区分所有者の団体」という曖昧な条文や法人との関係も検討できるようになると、区分所有法がまだまだ発達途上にある法律であることが分かります。

◎建替えの事業が途中で頓挫することもある
  建替え決議をし、建替えに向かって事業を進めていても、予測できない経済的・社会情勢の変動で、建替え事業は、途中で頓挫することも考えられます。 そこで、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の適用がある前に建替えの実現が不能となれば、建替えに賛成した人たちの集団も、解散することになります。(
民法第682条参照)

<参照> 民法 第682条

(組合の解散事由)
第六百八十二条 組合は、次に掲げる事由によって解散する。
   一 組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
   二 組合契約で定めた存続期間の満了
   三 組合契約で定めた解散の事由の発生
   四 総組合員の同意

★建替え事業の進め方

 区分所有法では、「建替え決議」までは定めていますが、その後の建替え事業の実施方法は規定されていません。
そこで、建替え参加者の団体の存在、外部からの融資の問題などが浮上していました。

 それをうけ、平成14年「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」が制定されました。
 また、マンションの耐震不足に対応して、マンションの建替え等の円滑化に関する法律においては、平成26年12月24日施行で、
  @マンション敷地売却制度の創設 と
  A容積率の緩和の特例を認める 
 の大幅な改正がありましたので注意してください。

  

マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の概要はこちらを参照。


*建築物の耐震性不足に関して

 平成25年4月での国土交通省の推計では、マンション総数 590万戸の内、昭和56年(1981年)以前の建築基準法施行令改正以前の耐震基準(旧耐震基準)で建設されたものが約106万戸も存在していますが、マンションの改修や建替えは進んでいません。

 そこで、今後発生が想定されている南海トラフ沖の巨大地震や、首都直下型地震に備えた対策が打ち出されています。

 1.マンションの改修策 〜建築物の耐震改修の促進に関する法律〜
   区分所有建物(マンション)でも、昭和56年(1981年)以前に建築された場合、旧耐震基準(震度5程度の地震に耐えうる住宅)に基づいている可能性があります。
 なお、昭和56年以降の建築物は、新耐震基準(震度6強程度の地震に耐えうる住宅)となっており、阪神・淡路大震災の被害状況でも、新耐震基準を満たした住宅の被害は少ないことが報告されています。

  そこで、建築物の耐震改修の促進に関する法律が平成25年11月25日改正施行され、区分所有建物においても、大規模な耐震改修を行う場合には、区分所有法では、共用部分の重大変更(第17条)に該当して、通常なら、特別決議(区分所有者及び議決権の各3/4以上)の決議要件を、普通決議(過半数)にできるという特例規定を設けています。(同法第25条)

<参照> 建築物の耐震改修の促進に関する法律 第25条

(区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定)
第二十五条  耐震診断が行われた区分所有建築物(二以上の区分所有者(建物の区分所有等に関する法律 (昭和三十七年法律第六十九号)第二条第二項 に規定する区分所有者をいう。以下同じ。)が存する建築物をいう。以下同じ。)の管理者等(同法第二十五条第一項 の規定により選任された管理者(管理者がないときは、同法第三十四条 の規定による集会において指定された区分所有者)又は同法第四十九条第一項 の規定により置かれた理事をいう。)は、国土交通省令で定めるところにより、所管行政庁に対し、当該区分所有建築物について耐震改修を行う必要がある旨の認定を申請することができる。

2  所管行政庁は、前項の申請があった場合において、当該申請に係る区分所有建築物が地震に対する安全上耐震関係規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認めるときは、その旨の認定をすることができる。

3  前項の認定を受けた区分所有建築物(以下「要耐震改修認定建築物」という。)の耐震改修が建物の区分所有等に関する法律第十七条第一項 に規定する共用部分の変更に該当する場合における同項 の規定の適用については、同項 中「区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議」とあるのは「集会の決議」とし、同項 ただし書の規定は、適用しない。


2.マンションの建物及び敷地売却制度の新設 〜マンションの建替え等の円滑化に関する法律〜

  耐震性が不足している老朽化したマンションでは、区分所有法に依らずに、建替えを認めるという、思い切ったマンションの建替えの円滑化等に関する法律の改正が、平成26年(2014年)12月24日施行であります。また、法律名が、「旧:マンションの建替えの円滑化
に関する法律」から、「マンションの建替えの円滑化に関する法律」に変わっています。
 
 その改正の内容は、耐震性が不足しているとの認定を受けると、
  @マンションの建物と敷地の売却 と
  A容積率の緩和の特例を認める 
  ものです。

 この「マンションの建替え等の円滑化に関する法律の概要」は、別途解説しましたから、参考にしてください。



{設問} マンションの建替えにおける区分所有権及び敷地利用権(以下この問いにおいて「区分所有権等」という。)の売渡請求権等に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 買受指定者(区分所有法第63条第4項に規定する買受指定者をいう。以下この問いにおいて同じ。)は、建替えに参加する区分所有者がその後に建替えに協力しない場合でも、その者に対し、売渡請求権を行使することは認められない。

答え:正しい。
区分所有法第63条4項によれば、買受指定者は建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対して売渡請求が出来る。一度建替えに参加することを表明した区分所有者が後で建替に協力しなくても売渡請求権は行使できない。

2 買受指定者は、建替えに参加しない区分所有者に対して売渡請求権を行使した場合、その意志表示が相手方に到達した時に、相手方の何らの応答がなくても、直ちに、区分所有権等を取得することができる。

答え:正しい。
売渡請求は形成権の行使とされ、相手方の承諾なくして売買契約が成立する。

3 買受指定者は、建替えに参加しない区分所有者に対する売渡請求権を行使した場合、区分所有権等の代金を直ちに支払うことができない特段の事由があるときは、裁判所からその支払いにつき相当の期限の許与を受けることができる。

答え:間違い。
区分所有法第63条5項によれば、建物明け渡しの猶予は認められるが代金支払いの猶予の規定はない。

4 建替え決議の日から2年以内に正当な理由がなく建物の取り壊しの工事に着手しない場合、売渡請求権の行使により区分所有権等を売り渡した者は、この期間満了の日から起算して6ヶ月以内に、買主が支払った代金相当額をその区分所有権等を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。

答え:正しい。
区分所有法第63条6項のとおり。利息などはつけなくていい。

正解: 3


★1棟の建替えが区分所有者及び議決権の各4/5以上の”多数”でできるのは、憲法第29条:財産権 に違反するのか?

<参照> 憲法第29条

第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。

2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 区分所有法では、民法の共有関係で要求される「全員の合意(同意)」がマンションの実生活上の妨げになるため、基本として「多数決の原理」を取り入れています。

 多数決が採用されるには、当然それに賛成しない少数者の権利が相応の手当てを受けなければなりません。

 その、相応の手当てがなさているかどうかの判断材料としては、
  ・目的
  ・必要性
  ・内容
  ・財産権の種類、性質
  ・程度
  などと比較考量することになります。

 そこで、区分所有法第62条1項の多数決で少数者の区分所有権を略奪することができる「建替え決議」が憲法第29条に保障されている財産権を侵しているのではないかという議論があります。

 これについては、後から説明します、区分所有法第70条1項での団地での建物の一括建替え決議は憲法第29条に違反しないとの判例があります。(平成21年4月23日、最高裁)
この判決では、区分所有法第62条1項も引用されていますので、参考になります。

 まず、区分所有権(共有持分や敷地利用権を含めて)の行使は、他の区分所有権との調整を不可欠とし、そのために集会決議による制限を認めています。

 そして、建替えについては、
 区分所有建物について,老朽化等によって建替えの必要が生じたような場合に,大多数の区分所有者が建替えの意思を有していても一部の区分所有者が反対すれば建替えができないということになると,良好かつ安全な住環境の確保や敷地の有効活用の支障となるばかりか,一部の区分所有者の区分所有権の行使によって,大多数の区分所有者の区分所有権の合理的な行使が妨げられることになるから,1棟建替えの場合に区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議ができる旨定めた区分所有法62条1項は,区分所有権の上記性質にかんがみて,十分な合理性を有するものというべきである。

 建替えに参加しない区分所有者は,売渡請求権の行使を受けることにより,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すこととされているのであり(同法第63条4項),その経済的損失については相応の手当がされているというべきである。

 よって、規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すれば,区分所有法第70条は,憲法第29条に違反するものではない


ページ終わり

謝辞:Kzさんの了解により一部転用・編集をしています。

最終更新日:
2022年12月29日:また見直して新しく図や参照の民法の条文を入れた。
2022年 1月31日:見直した。他の法律も更新した。
標準管理規約は令和3年6月22日版にした。
2021年12月19日、20日:令和3年(2021年)の出題年を入れた。
2021年 8月 6日:第63条建替えでの売渡請求を、令和3年9月1日施行:「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」第24条によって変更した。
2021年 3月27日:見直した。
2020年 3月29日:令和元年(2019年)の出題年を入れた。
2019年 4月17日:平成30年の出題年を入れた。
2018年 8月 7日:国土交通省の「建替えマニュアル」など変更した。
2018年 3月13日:平成29年の出題を入れた。
2017年 4月 7日:平成28年の出題年を入れた(該当ないけど)
2016年 9月 2日:再度見直した。
2016年 4月10日:3月14日付の標準管理規約の改正に対応した。
2016年 2月24日;平成27年の出題年を入れた。
2016年 2月13日:建築物の耐震改修の促進に関する法律、マンションの建替え等の円滑化に関する法律の改正部分を入れた。
2015年 6月20日:売渡の時価を入れた。
2015年 6月17日:第63条に「条件付き賛成」を入れた。
2015年 4月 8日:平成26年の出題年を入れた。
2014年 9月29日:第62条2項4号を中心に加筆した。
2013年 7月 1日:第62条1項に加筆。図も入。
2013年 3月24日:平成24年の出題年を入。
2012年 4月27日:第64条など加筆。
2012年 3月 7日:平成23年の出題や解説を見直した。
2011年 8月 1日:再度加筆。
2011年 7月29日:少し加筆。
2011年 1月15日:平成22年の出題記入
2010年7月3日:加筆した。
2010年6月30日:第62条全部済み。
2010年6月29日:第62条4項まで加筆済み。
2009年11月6日:建替えを充実させた。
2009年10月29日:少し加筆
2009年6月28日:区分所有法第62条が憲法第23条違反かを追記。

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